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下位規範によって上位規範を改廃する日本の伝統について

衆院平和安全法制特別委員会は15日、安全保障関連法案を自民、公明両党の賛成多数で可決した。憲法学者の大多数が違憲と考えるにもかかわらず、政府与党が懸命に法案成立を目指すのには、彼らなりに正当な理由がある。

その理由について、国際政治学者の村田晃嗣同志社大学学長は13日、国際情勢の急激な変化と米国の影響力後退の中、「日米同盟の強化にあたることは、極めて理に適っている」と述べた。中谷元防衛大臣は、6月5日の国会衆議院平和安全法制特別委員会で、「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのかという議論を踏まえて、閣議決定を行った」と発言した。作家の百田尚樹氏は6月28日、「憲法の解釈がどうこうというより、国民の命と国土を守るためには、どういう憲法が正しいのかというのが大事」と発言した。

このような発言に共通するのは、「憲法の理念が国際政治の現実にそぐわなくなってきた以上、現実への対処を優先させるべきだ」という考え方である。

このような考え方は、正しいのだろうか。

上位規範が現実にそぐわなくなってきたとき、その上位規範を改廃するのではなく、下位規範を制定して上位規範を骨抜きにしたり、実質的に改廃したりするやり方は、わが国の為政者が伝統的に行ってきたことであり、今に始まったことではない。どのくらい伝統的かというと、おそらく「仏教伝来」があった5世紀半ばには、為政者の基本的な行動原理になっていたと思われる。その伝統はあまりに深く浸透しているため、彼らはしばしば、伝統に則った行動であることについて、無自覚である。

一例として、外為法に基づく輸出管理体制を挙げよう。工業製品の輸出は、憲法上、自由なのが原則だ。明文規定はないが、憲法が自由主義経済を採用する以上、当然のこととされている。この理念を体現するものとして、外為法47条は、「貨物の輸出は…最少限度の制限の下に、許容される」と規定する。

ところが、外為法の下位規範である輸出貿易管理令は、広範な工業製品について、「全地域」への輸出を禁止している。「全地域」とは「世界中」のことだから、要はおよそ輸出できない、ということだ。もちろん、工業製品の輸出を全面禁止したら日本経済が立ち行かないので、経産相の許可を条件に、「例外として」輸出を解禁している。つまり、憲法・法律という上位規範と、政省令以下の下位規範とでは、輸出の自由と禁止に関する原則と例外が、逆転しているのだ。

法律家から見れば、政省令以下の法規によって、憲法上の原則を骨抜きにすることは、明白な憲法違反である。

しかし、輸出の自由という憲法上の理念は、東西冷戦という「国際情勢の現実」のもとで、かれこれ60年間、無視されてきた。これは、「ホンネとタテマエ」という日本人の伝統的な行動様式の発露でもあり、多くの国民の支持を受けてきた。また、経産相が許可権限を濫用することは、ゼロではないが、それほど多くなかったので、実害は少なかった。このことも、「憲法違反」の輸出管理体制が黙認されてきた原因となっている。

弁護士としてさまざまな法令、特に「業法」とよばれる法規範を調べると、「この法律は憲法違反じゃないの?」「この通達は法律違反だよなあ」と思われる例に頻繁に接する。そういう例ほど、為政者に権力を集中させる仕組みになっているので、その権力が濫用されればさまざまな歪みが顕在化するのだが、わが国の場合、そうはならない。わが国の為政者は、強大な権力を手にしたがる点では世界に引けを取らないが、その権力を極めて抑制的にしか行使しない点において、世界に類を見ない統治原理に服しているからである。

このたびの安全保障法制制定の動きは、最高法規である憲法の理念(タテマエ)が国際政治の現実(ホンネ)に合わなくなってきたとして、下位規範である法律によって憲法の理念を後退させようとする試みということができる。このような試みは、上述のとおり、わが国の為政者が伝統的に行ってきたことであり、その意味では、いまに始まったことではない。しかも、同じようなやり方で、いままで「そこそこうまくやってこれた」し、法制定に成功したところで、さっそく戦争を始める考えなどない。だから、立憲主義に反するとか、戦争がはじまるとかいう批判は、為政者側から見れば、的外れにしか聞こえないのである。

下位規範によって上位規範を改廃することは、なぜ許されないのか。わが国の法律家(司法機関を含めて)は、この問題に対する説得的な解答を用意できなかったのではないか。このたびの茶番のような「強行採決」を見ながら、そんなことを考えた。

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