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科学者たちの反論|英国の危険ドラッグ全面禁止法案

英国議会では、いま精神作用物質の全面禁止法案Psychoactive Substances Billが審議されていますが、この法案に対して、有力な科学者たちが次々と反論を寄せています。

英政府が法案を公表してまもなく、薬物乱用問題諮問委員会(ACMD)元委員長のナット教授を初め多数の学者、実務家は、連名で公開書簡を発表し、この全面禁止法案を起草するにあたって検討が不十分であり、現行案では、薬学や精神医学の分野における科学的研究を妨げる恐れがあることを指摘しました(下記参照①)。

その後、英政府の薬物乱用問題諮問委員会(ACMD)が、内務大臣への書簡という形で、この法案に対する意見を発表し(下記参照②)、それと前後して、医療科学アカデミーや王立化学協会といった学術協会の意見書が次々と発表されています(下記参照③、④)。

科学者たちが指摘するのは、この法案が、これを摂取した人に精神活性の作用をもたらすあらゆる物質を規制対象としている点です。

ACMDは、この法案は本来、次々と形を変えて危険ドラッグ市場に登場する「有害な新規精神作用物質(Novel Psychoactive Substances : NPS)」を対象とするべきだったのに、それが「あらゆる精神作用物質」に置き換わってしまったことにより、規制対象が無制限に拡大し、様々な問題が発生する懸念が生じていると指摘しています。

実際の研究現場では、試験的に精神作用のある化合物を合成して、その特性を調べる試験が日常的に行われ、また、動物や人に対する投与試験も頻繁に行われているといいます。仮に、この法が成立すれば、こうした試験をする科学者が訴追されるという事態が起きるかもしれないのです。
法は、科学的研究などに用いる物質を除外することができるといいますが、研究の分野や試験方法は広範で、研究に用いる物質も多岐にわたるため、それらを逐一適用除外に指定する作業が追い付かないのではないかというのが、学者たちの懸念となっているようです。

また、薬草や香料などによる治療や健康増進など、いわゆるNPSによるイタチごっことは無縁で、有益な用途まで禁止されてしまう恐れも指摘されています。
そういえば、この法案が発表された当時のマスコミ報道では、法案に従えば「おふくろの手料理」まで精神作用物質に含まれることになる、といった声もあがっていました。

科学界からの反論は、決して「絶対反対」を唱えるものではありません。より確実に、そして弊害のない形で危険ドラッグ対策を進めることができるよう、法案の練り直しを提言するという姿勢は、共通しています。
ACMDは、政府に対して、対象物質に含むべきもの、除外すべきものを再検討し、この法案の予期せぬ影響を最小に抑え、法案が適正で執行可能なものとなるよう、協力する用意があると呼びかけています。

見識ある科学界からの提言に、政府はどのように答えるか、委員会での動きに注目が集まっています。

[参照]
①ナット博士らの公開書簡
Breaking Convention / OPEN LETTER
http://2015.breakingconvention.co.uk/open-letter/
②ACMDの書簡
ACMD letter to the Home Secretary: Psychoactive Substances Bill(3 July 2015)
https://www.google.co.jp/webhp?sourceid=chrome-instant&rlz=1C1GGGE_jaJP559JP572&ion=1&espv=2&ie=UTF-8#q=Academy+concerns+over+Psychoactive+Substances+Bill
③医療科学アカデミーの意見
Academy concerns over Psychoactive Substances Bill(30th June 2015)
http://www.acmedsci.ac.uk/more/news/academy-raises-concerns-over-psychoactive-substances-bill/
④王立化学協会の意見
UK 'legal highs' bill under fire from scientific community( 9 July 2015)
http://www.rsc.org/chemistryworld/2015/07/uk-legal-highs-bill-under-fire-scientific-community

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