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国立競技場問題:可動屋根は「採算が合う」は本当か?

先のエントリでは、現在世間を騒がせている国立競技場問題の本質は、「文科省傘下の独立行政法人である日本スポーツ振興センター(JSC)がオリンピックにかこつけて複合観光施設の開発計画を企てたものの、開発に入る以前に様々な問題が露呈しました」というのが本質であって、ただのスポーツ競技場の開発問題ではないのだという事実をご紹介しました。まだそちらを読んでいない方は、以下のリンク先を参照。
「国立競技場」なる複合観光施設開発の失敗について
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8891096.html

で、最も懸案となっているのが「ザハ氏による奇抜なデザイン」とされるキールアーチを含む屋根構造なわけです。ただ、これも前回エントリで申し上げた通り、キールアーチは防音機能を持つ可動天井を支える構造物として提案されているもの。アレをデザインの中核に置いたという点はザハ氏のクリエイティビティによるものですが、スタジアムの屋根構造としてはそんなに珍しいものではありません。事実、既に我が国に存在する可動天井式のスタジアムであるノエビア・スタジアム(神戸)も、キールアーチによって可動天井を支える構造になっています。以下、ノエビアスタジアムの公式サイトより転載。
可動屋根ーノエビアスタジアム
http://www.noevir-stadium.jp/guide/summary/roof/

当スタジアムは開閉式の屋根を持つ、全天候型スタジアムです。天候に左右されずに、安定してイベントが開催頂けます。開閉に必要な時間はわずか20分です。開閉屋根は南北2枚づつの屋根パネルで構成され、メインとバックのキールアーチ上のレールに沿ってセンターラインからサイドスタンド方向に開閉します。

また、1枚あたり約82m×30m、重量約330トンに及ぶ屋根は免震機構を介して8台の台車に支持されることで、スレンダーになり、サイドスタンドの固定屋根の上に重ねて効率的に収納します。こうして、中間に梁を設けずに国内最大級の開口面積を確保しています。

…で、じゃぁ何故そんな可動式天井をJSCが開発仕様として要件づけたのかというと、本来はスポーツ競技場であるハズの新国立競技場を音楽アリーナとして転用する為です。防音天井の無かった旧国立競技場は、近隣住民への騒音配慮もあり、音楽アリーナとしての使用が年間数回程度に制限されていました。そこに防音用の天井を設置することによって音楽アリーナとしての活用と、一方で要求されていた天然芝を育成できる日照を両立させる。そのようなスポーツ競技場と音楽アリーナの両面使いによって、施設稼働を上げれば国立競技場によって発生する赤字は解消できる!これが国立競技場の運営者であるJSCによる目論見だったワケです。

このことは、現在の新国立競技場のデザインを確定させた当時の民主党政権下で文部科学副大臣を務め、同時に国立競技場建替え計画を検討する有識者会議のメンバーでもあった鈴木寛氏(現・文科大臣補佐官)も、以下のように説明しています。
やはり「屋根」は必要! 新国立競技場に関する誤解を解く
http://diamond.jp/articles/-/73022

屋根は雨天への対応だけではなく、騒音の拡散を防ぐために設置するのです。騒音というのはスポーツというよりも、エンターテイメントによるものです。国立競技場は、日本を代表するアーティストの最上級のライブ会場の一つであると同時に、住民の平穏な日常生活を維持していくために周辺環境への配慮と対策が求められます。[…]

90年代からオリンピックの巨大化の陰の部分として、大会で使用した巨大スタジアム等の施設の維持管理が開催地の負担となってきた経緯が指摘されてきました。近年はロンドンのように、大会中は仮設のスタンドも含めて大きくし、終了後はコンパクト化する等の効率化が進んでいます。もう一方で、これは箱物ビジネスの基本ですが、施設の稼働率を上げて「稼ぐ」ことで、スタジアム自体の維持管理を賄うのが重要です。そこでスポーツ以外に稼げるコンテンツがエンターテイメントになるわけです。

「国立競技場の採算の為に音楽イベントは必要であり、防音屋根の設置は必要なのだ。」これは上記、鈴木寛氏のみならず、国立競技場の運営者であるJSCも繰り返し説明をしてきた事。これだけを聞くと「ナルホドねー、あの無駄と言われている屋根にも一理はあるワケね…」と、読者の皆さんは思われた事でしょう。そこで、現在JSCから提出されている新国立競技場がフルオープンした際の事業予測を見てみましょう。以下、JCS公式サイトにて開示されている資料より転載。


(出所:JSC公式webサイト、単位:百万円)

これを見ると「あー、ナルホドねぇ。年間たかだか3800万円の利益確保の為に、総額2500億円の開発費のうちおよそ950億円を占めるといわれる天井構造の支出を行っているワケね…」と判ってくるワケです。もっと言えば、実は上記支出項目よくを見て頂くとお判りになると思うのですが、この計算には施設開発投資の毎年の減損分、すなわち減価償却費が含まれていません。

これは、JSCのような独立行政法人が使用する独自の会計方式である独法会計の仕様に基づくもので、単年度主義で会計を補足する独立行政法人というのは、実は「減価償却を無視して」会計の補足をします。すなわち、彼らが「採算が合う」といっている国立競技場の音楽アリーナとしての転用は、あくまで年間の営業上で採算が合うのだと主張しているだけ。設備投資としては、全くもって採算があうような投資計画ではありません。

公務員特有の会計制度の下で飯を食っている人間というのは、このように年間数億円の営業赤字を埋めるために、数百億円、数千億円の設備投資をすべきだなどとする我々からしてみると奇想天外な主張をすることがあります。結論としては、公務員の言うところの「採算が合う」は鵜呑みにしてはならない、そして国立競技場の可動屋根の設置は少なくとも採算の合う投資計画ではない、という事です。

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