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【読書感想】戸籍のない日本人

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戸籍のない日本人 (双葉新書)


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戸籍のない日本人 (双葉新書)

内容紹介

日本には無戸籍の人々が推定1万人以上もいる。

民法772条が主な原因となって生まれる無戸籍児は基本的な権利を剥奪され、大きな社会問題と化している。

前夫からのDVにより離婚できない母親、両親の貧困による戸籍未取得児、

パスポートも運転免許も取れない、医療保険もない彼らの悲しい現状をつまびらかにする。


内容(「BOOK」データベースより)

離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する―DNA鑑定などなかった明治時代の民法772条規定により、戸籍が取得できない無戸籍者が日本には推定で数万人もいる。住民票はない、運転免許証もパスポートも取れない。本書では「当たり前の生活」さえ困難な無戸籍者の苦悩を紹介し、どうしたらこの問題が解決できるのかを追求していく。


 自分の「戸籍がある」ことを、意識したことがありますか?

 僕は正直、「そんなの、いま生きている日本人はみんな持っているものじゃないの? そんな、生きているけれど、この世の中に存在しないような状態の人って、外国からの不法入国者でもないかぎり、ありえないんじゃない?」とか思ってしまいました。

 「戸籍がない高校生が、パスポートを取れなくて困っており、国に対して法律の改正を訴えていている」という話を聞いたことがあるのを、これを読んでいてようやく思い出しました。


 多くの日本人にとって戸籍とは、生まれたときから当たり前にあるもので、例えるなら自分を取りまく空気のようなものかもしれない。

 だが一方で、この国には毎年少なくとも500人以上の戸籍のない子どもが生まれている。司法統計などから数千人単位でいると予測する学者もいるし、国の統計では補足できない無戸籍の人も含めると、実数は計りしれない。

 無戸籍の人たちには、出生届が出されていないという共通項がある。出生届を出す義務があるのは当然その子の親だ。

 そのため、この種の報道があると決まって、「なんてだらしない親なんだ」「自己責任だろ」という批判が起こる。

 でも、ちょっと待ってほしい。

 無戸籍の人が生じるのは、本当に親だけの責任なのだろうか? それに、仮に親の責任だとしても、実際に戸籍がなくて困るのは子どものほうだ。それなのに無戸籍の人たちを突き放すだけでいいのだろうか?


 いやしかし、親なら、自分の子どもの出生届は出すのが当然だろう、と思いますよね。

 僕だって、そう思う。

 いくらああいう手続きがめんどうだからといって、自分の子どもが「存在しないこと」になってしまっては困る。


 著者は、この「理由」について、こう説明しています。

 そもそもなぜ、出生届を出さなかった親がこれだけいるのか。

 その最大要因としては、家庭内暴力=DV(ドメスティックバイオレンス)と離婚・再婚の増加が背景にある。

 夫のDVやストーカー行為から命からがら逃げ出し、長らく離婚が難航している女性が、新しいパートナーを得て人生の再出発をはかり、子を身ごもったとする。生まれた子どもの出生届を出そうとすると、法律によって自動的に「夫の子」とされ、夫の戸籍に入ってしまう。そうすると、夫が戸籍謄本を取れば居場所や出産したことを知られてしまうため、報復を恐れ、出生届を出せない。

 ここでネックになるのは、離婚後300日以内に生まれた子は前夫(婚姻中の場合は夫)の子と推定する、民法772条の規定だ。


 そうか、そういう「事情」だって、あるのだよな……

 そこまでして、(元)夫から身を隠さなければならない、というのは、僕にとっては、小説のなかの話でしかなくて。

 この民法772条ですが、明治時代から120年間変わっていないそうで、今の時代には合わないのではないか、という議論がずっと出てはいるのです。

 昔はDNA鑑定で親子を証明することもできませんでしたから、父親候補が「自分の子どもではない」と言いはった場合、あるいはその逆のケースに「行き場のない子ども」をつくらないため、という合理性があったのですが。


 ちなみに、戸籍がないと、どんな困ったことがあるかについても、説明されています。

 戸籍がないことは、その人の人生に暗い影を落とす。原則として、住民票が作成されない。乳幼児健診や予防接種などの通知を受けられず、中には健康保険証がなかったり、小学校に入学できなかったりした子どももいる。大人になっても、身分を証明できるものがないので、運転免許証はもちろん、例えば、インターネットカフェなど身分証提示の必要な会員証もつくれないことになる。

 このような目に見える実害だけではない。社会との接点が薄いということは、通常のような社会性が育まれないことにもつながる。普通の人と違うということで、理解のない人たちからの偏見にさらされることもあるだろう。


 ただし、これについては、いちおうの「救済措置」も現在はあるのです。

 もっとも、親が住んでいる自治体に掛け合ったことで、無戸籍でも住民票や健康保険証はある人も多い。その場合、制約は格段に減り、運転免許も取得できるなど、普通の人に近い生活を送ることができる。それでも大人になると、結婚や就職、相続など、戸籍が絡む壁にぶちあたる機会は増える。自分の名前でパスポートがつくれず、海外へも行けない。

 何より、本人になんら非がないのに、国に認められない存在として生きざるをえないことだけでも、想像するだけで息苦しくはないだろうか。


 僕は実際にその立場にいる人の話を読んでみるまでは、「運転免許もとれないとか、TSUTAYAの会員にもなれないというのなら不便そうだけれど、海外旅行に行けないくらいだったら、そこまで不自由ではないのでは……」などと思ってしまっていました。

 でも、実際に、「みんなが普通にやっているはずのことができない」というのは、当事者にとっては、大きな精神的な負担になるのです。

 そして、無戸籍者の子どもたちも、やはり、無戸籍になってしまう。


 この新書のなかに、パスポートがとれなかったために高校の修学旅行で韓国に行けなかった無戸籍児、「坂上クミ」さんが紹介されています。

 2007年に一度、民法の「離婚後300日規定」の見直しが試みられたことがあり、その際に救済されたのは「母親の離婚後の妊娠が明確な場合のみ」でした。

 婚姻関係にある相手がなかなか離婚に承諾してくれず、新しいパートナーとのあいだに子どもが出来てしまった場合には、適用されなかったのです。

 二つ目は、同年4月21日付の「無戸籍児に旅券発給」という記事。外務省が特例規定でパスポートを発給すると報じたものだ。

 ただし、この時点では報道に出ていなかったが、特例は旅券発給の条件として、「母親の前夫の姓」を名乗ることを挙げていた。

 クミさんは切り抜きの横に、<やっと、動いた!!……と思ったけど、前夫の名前でパスポートできても嬉しくないよッ>と記している。


 うーむ。

 実際に、これで救済されたという人も少なからずいるとは思うんですよ。

 「所詮、パスポートに記載されている名前だけの話」だと割り切ることができれば。

 でも、「無戸籍児」になってしまった背景には、前夫からひどいことをされた、という背景がある。

 そして、その人の姓を名乗ることに抵抗する気持ちも、理解できます。

 当事者にとっては、そう簡単に「割り切れる」問題ではないんですよね。


 国家議員のなかには、「旧来からの家族関係の維持」や「日本の美しき伝統」を主張し、「風紀の乱れを是認するような、民法改正は許さない、という人もいるようです。

 そして、多くの人は(もちろん僕も含めて)、「そういう、不倫や家族関係の崩壊を助長する法に賛成するのか?」と言われたら、ちょっと、ためらってしまう。

 世の中も、家族関係も、変わり続けているというのに。

 ほんと、疑義があるのなら、DNA鑑定すれば良いと思うんですけどね。


 「親の問題」であっても、親の戸籍がなくなるのではなく、結果的に子どもが「無戸籍」になってしまう、というのも、この問題を複雑にしています。

 親子の諍いのなかで、「でも、お母さんには戸籍があるじゃない!」と。


 そして、無戸籍者が子どもを生むと、当然、その子どもも無戸籍になってしまうのです。

 いま、日本で普通に生活しているようにみえる、日本で生まれた子どもたちにも、戸籍がない子が、存在している。

 DV(ドメスティック・バイオレンス)がこれだけ問題になっている一方で、「なんのかんの言っても、夫婦の間のことだから……」と、周囲の人たちは、踏み込まなくなってしまうケースは、本当に多いのです。

 

 いや、正直なところ、こういう「夫のDVが理由で、所在を知られたくない母親から生まれた無戸籍者」は、理解できるんですよ。

 でも、この本には、もっと信じられないような「実例」も紹介されていて。


 ではなぜ、治子さんの出生届を出さなかったのか。

「はい、言い訳になりますが」と、一郎さんは身を縮こまらせながら釈明した。治子さんの母は、病院から出生証明書を受け取ると、「この子はうちの籍に入れる」と言った。なので、てっきり彼女が出したものだと思いこんでいたという。

 出産後、一郎さん一家は兄のそばへ身を寄せた。治子さんの母は育児を一切せず、パチンコばかりしていた。結局、治子さんが5歳のとき、治子さんに暴力を振るったところを兄に見つかり、咎められたのをきっかけに、家を出て行った。

 その母が出て行く少し前、一郎さんは、治子さんが予防接種を受けていないことに気がついた。役所からはなんの連絡も来ていない。一郎さんが治子さんの母に「どうなっているんだ」と問い詰めると、実は出生届を出していない、と明かした。

 つまり、無戸籍児だったのだ。

 しかし、一郎さんは誰にも相談できなかった。わが子の戸籍がないまま放置していたことが世間にばれれば、自分は逮捕されて治子さんと引き離されてしまう、と恐れたからだった。

「私は刑務所を出ているものですから、これまでの経験からしてただで済むわけがない、刑罰を受けるだろうと早合点してしまったんです。自分がこの子を守る立場にあるのに、引き離されて、会えない状態に置かれるんじゃないかと思った。それがとにかく怖かった」

 どうしたらいいのか、わからないまま月日だけが経っていった。治子さんが学齢期を迎える頃、兄から「入学準備はしているのか」と声をかけられても、曖昧にごまかした。


 ……何と言っていいのか……

 社会から隔絶された治子さんは、「公的には存在しない子ども」として生きつづけています。

 17歳になっても、あまりしゃべらず、社会性も未発達な状態で。

 そんなの、無戸籍でいるほうが、よっぽど「めんどう」なのではないかと思うんですよ。

 でも、こういうのって、一度ネガティブな方向に行きはじめたら、なかなか軌道修正できないものなのでしょうね。

 それにしても、とは思うけど。

 これを「社会が悪い」とか「行政が悪い」とか言うのも、あんまりだと思うし、「親の無知の責任」としか言いようがない。

 でも、結局のところ、それで影響を受けるのは、子どものほう、なんだよね……


 誰もにとって、「身近な問題」とは言いがたいからこそ、なんとなく先送りにされ続けている、この「無戸籍者問題」ですが、少なくとも坂上クミさんのようなケースでは、より現実的な対応が可能だと思うのです。

 「理想の家族像」を追い求めて、現実を見ないのは「政治」じゃなくて、「妄想」だよね。

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