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「2歩前進」した日韓関係、なお多難な前途

日本と韓国はここ2週間ほどで関係改善に向けて大きく2歩前進したかのように見える。日韓関係は米国にとって胸焼けの原因になっていた。

 しかし、米政府はまだ薬を飲むのを止めることはできない。

 日韓は5日、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録に向けて合意に達した。韓国政府の強い要請を受けて、日本は第2次世界大戦の終わりの植民地時代に朝鮮半島出身者が一部施設で働いていた元徴用工について、意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされたことを認めた。

 これに先立ち、両国の国交正常化50周年に当たる6月22日には、安倍晋三首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が互いに融和的発言を行った。

 こうした動きは歴史認識と領有権問題をめぐる見解の相違にもかかわらず、何らかの妥協点を見出すことができることを示している。ただ、これ以外の論争での進展はいくつかの理由のために難しい可能性があり、特に安全保障問題でよりスムーズな3カ国の協調を目指す米国の期待がくじかれることになりかねない。

1)厳格な期限は存在せず

 最近2つの問題で打開があったのは、厳しい締め切り期限があったことが一因だ。世界文化遺産登録に向けた合意は、数回に及ぶ二国間交渉で合意に至らなかったものの、ドイツで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会の審議期間最終日にギリギリでまとまった。また、6月22日の国交正常化50周年の際には、首脳演説に向けた土壇場で日韓双方の政府が調整取りまとめに奔走した。両国の外交筋は、象徴的な50周年を祝うため何かをせざるを得ないという義務感を感じたと話している。

 8月15日の第2次世界大戦終戦70周年にかけて、同じような切迫感が、他の二国間問題への対処で役立つ可能性がある。しかし、その日に覆いかぶさっているのは、安倍首相が予定している演説だ。韓国政府は、安倍首相の演説が両国間の緊張関係を緩和するよりも刺激する結果になりかねず、新たな合意を打ち出すための取り組みが一段と複雑になる恐れがあると懸念している。

 一方、韓国の外交関係者らは、両国関係の改善に向けた最大の障害である戦時中の従軍慰安婦問題をめぐる議論で合意に達することは難しいとの見方を示している。8月15日が過ぎると、慰安婦問題での「期限」は48人の生存者全員の死去以外になくなる。

2)溝の拡大

 世界遺産登録をめぐる合意は、日本が説明文に注釈をつけることで落ち着いただけでなく、日本側は登録施設の展示に「情報センター」の設置を検討すると明らかにした。第2次世界大戦の終わりに日本に連れてこられた韓国人労働者の中には日本企業を相手取って訴訟を起こしている人々もいるが、この問題は両国関係にとって主要な障害ではない。1965年の日韓国交正常化時に締結した日韓請求権協定に基づき、韓国側は元徴用工に対する損害賠償責任を受け入れた。

 これとは対照的に、韓国政府は慰安婦問題で日本側に広範な対応を要求している。その中には、高齢になった慰安婦に改めて直接謝罪することや政府による補償が含まれる。朴大統領は、慰安婦問題の解決に向けた新たな提案が示されるまで安倍首相との会談を拒否している。

 小さな島々の領有権をめぐる問題でも両国の意見の相違は拡大している。韓国は同島の実効支配を主張し、領有権をめぐる協議のための日本側の提案を拒否している。

3)反発招く可能性

 世界遺産登録に向けた合意の余波では、日韓両政府による歩み寄りに対する国内の抵抗から問題が生じかねない。日本のメディアは6日、世界遺産登録に申請された一部施設で韓国人労働者が労働を強制されたことを複数の政府高官が否定したと報じた。一方、韓国メディアはこれに反発。韓国紙の世界日報は社説で、「この事実のねじ曲げは辱めだ」と論じた。また、日本では安倍首相の支持者がこの合意を批判している。

 ユネスコ遺産委を通した紛争解決で、合意が確実に維持される公算は大きい。しかし、慰安婦や領有権問題には、国内政治家や国民の反対から合意を守る第三者監督機関は存在しない。2012年には、韓国は国内政治家の反発を受けて、日本との二国間安全保障問題での合意を調印のわずか数時間前に取り止めた。

 世論調査では、韓国国民は「慰安婦」と領有権問題への関心が最も高いことが示されており、こうした問題で日本側と何らかの合意に達することで韓国政府が国内の世論を満足させる必要性が増している。

 米国の外交筋は、このところの日韓関係の緊張緩和からポジティブな勢いが生じることを期待しており、両国の懸案となっている問題についても解決に向けた一段の措置を取るよう働きかけていると話している。しかし、日韓の力強い指導力なしには、年内の一段の進展は達成できない可能性がある。

By Alastair Gale

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