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国民投票「否決」へ ギリシャ破綻から学ぶ日本の年金クライシス

ユーロ離脱でも市場への影響は限定的

欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が融資の条件として提示した財政・構造改革案を受け入れるかどうかを問うギリシャの国民投票が5日行われ、4つの出口調査(途中)はすべて否決という状況だ。まだ確定したわけではないが、情勢はかなり厳しくなっている。



「OXI」は「NO」という意味だ。GPO・MEGAの出口調査が2つの写真で異なっているのは、上は生数字で、下は幅を持たせた予測値だからだ。ギリシャ内務省によると、開票率21%の段階で、反対が60.4%と賛成39.58%を上回っている。

否決ならEUやIMFなど債権者団がギリシャの急進左派連合(SYRIZA)と再交渉に応じる可能性は皆無に近い。ギリシャの単一通貨ユーロ圏離脱はほぼ不可避の情勢となってきた。

債務危機の最中と違って、ユーロ圏は信用不安の拡大を防止するさまざまな対策を整備してきた。金融セーフティーネットとして欧州安定メカニズム(ESM)を設置し、単一監督・預金保険制度・単一破綻処理の3本柱からなる銀行同盟を設立。

欧州中央銀行(ECB)による国債購入策や緊急流動性支援など緊急避難策も備えたため、ユーロ圏域内総生産(GDP)の1.8%規模に過ぎないギリシャ経済が破綻しても短期的には市場の動揺は最小限にとどまりそうだ。

政府債務が膨らむギリシャと日本の違い

ギリシャと日本の総政府債務、経常収支をGDP比で見たのが下のグラフだ。2015年の総政府債務の推定値はギリシャが172.7%、日本が246.1%。日本は経常収支の黒字分で財政赤字を埋めてきたが、経常収支が赤字に転落すると資金調達が一気に厳しくなる。

IMFデータから筆者作成

日本は財政破綻を避けるため、日銀の異次元緩和で円安に誘導し、緩やかな成長とインフレを起こして政府債務を軽くしていくというのが常識的な見方だ。

いくら政府債務が多くても、単一通貨を採用し、自国の中央銀行を持たないギリシャと、自国の通貨と中央銀行を持つ日本を同列に語ることはできない。

ユーロ圏とIMF、ECBに政府債務の80%近くを依存するギリシャと、ほとんどの国債を自国内で消化している日本とでは状況はまったく異なる。しかし、あえて財政再建という観点から警鐘を鳴らしてみる。

日本は6%の基礎的財政収支の黒字化が必要

経済協力開発機構(OECD)は政府債務が経済活動にもたらす影響を分析した結果、政府債務がGDPの80%を超えると経済成長に悪影響を及ぼすと指摘している。

キャサリン・マンOECD主席エコノミストは「成長の弱さが主な原因となり、金融危機を受けて各国の政府債務が急激に増加。2013年にはOECD平均の政府債務が111%(対GDP比)になった。これは第二次大戦以降で最も高い割合だ」と語る。

債務限界から平均で15%ポイント低く設定したOECDの「慎重な債務ターゲット」は次の通りだ。

(1)OECDの高所得国 対GDP比で70~90%の政府債務

(2)ユーロ圏の国々 対GDP比で50~70%の政府債務。金融政策へのコントロールや救済条項、債務調整の不在、外国金融に対する高い依存度、ショックへの適応が困難であることを勘案。

(3)新興経済 対GDP比で30~50%。米連邦準備理事会(FRB)の出口戦略に伴い、資本の逆流にさらされていることを勘案。

OECDの分析では、13年時点で日本の総政府債務はGDPの224.5%。現在の金利で見た場合、債務の限界は194%。

「慎重な債務ターゲット」を2040年までに実現するには、ギリシャと日本はそれぞれ5%と6%のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字を毎年達成する必要があるという。

日本の年金状況はギリシャより悪い?

ギリシャの場合、EUやIMFなど債権者団の財政・構造改革案には次の年金改革が含まれていた。

(1)年金受給年齢を2022年までに原則67歳に引き上げる(40年間、年金保険料を納入した場合は62歳から受給可能)

(2)貧しい年金生活者に支給されていた特別手当について2020年までに余裕のある上位20%を撤廃

(3)年金生活者の医療費負担を4%から6%に引き上げる

ギリシャの高齢化率(2011年で19.5%)は日本の25.1%に比べるとまだそれほど高くない。

筆者作成

しかし、債務危機でギリシャ政府が公務員の早期退職を推奨、年金受給年齢の引き上げ前に駆け込み退職が続出したことから、早期退職者の割合が増えてしまった。55~65歳の就業者割合ではギリシャは40%弱でOECD平均の60%弱を大きく下回っている。


ギリシャでは給付水準の引き上げや高齢化に伴って、年金財政の赤字が膨らんだ。年金資産は底をつき、積立方式から賦課方式へ制度設計が変更されたものの、公的年金の赤字額は一時GDPの9%に達した。

財政再建で年金の支給額は3割以上減らされた。しかし、失業率は26%、若年失業率はさらに悪く50%にのぼることから保険料収入が減り、年金収支が悪化している。

ギリシャの年金生活者は約265万人。平均年金受給額は833ユーロ(11万3757円)。半数近い世帯が年金に頼って生計を立てている。しかし、年金生活者の約45%は貧困レベルを下回っている。

日本では走行中の東海道新幹線のぞみで焼身自殺した71歳の男は「月の年金が約12万円で、約4万円の家賃と税金や光熱費を払うと手元にわずかしか残らない」と漏らし、「年寄りは早く死ねということか」と役所の窓口で詰め寄ることもあったと報じられている。

ギリシャと日本の年金状況は似たようなレベルかもしれない。ドイツの保険会社アリアンツが年金制度の持続可能性を調査した指標PSI(2014年)では衝撃の事実が明らかにされている。

年金制度の持続可能指標

日本は48位で、ギリシャの43位より悪い。2011年はギリシャ44位に対し、日本は40位だった。指標は人口統計、年金の制度設計、財政状況の3点から持続可能性を調べたものだ。

年金改革の時間は10年しか残されていない

2004年、IMF会議は「年金改革行き最終列車」という報告書を発表した。50歳以上の高齢者が人口の過半数を超えると、年金改革は困難になるという内容だった。今年、日本人女性の半数が50歳以上になるといわれている。現在、人口の約45%が50歳以上。2025年までに51%に上昇すると予想されている。

筆者は大阪維新の会代表、橋下徹大阪市長の大阪都構想を1万741票差で否決した住民投票を(1)大阪市24区の賛成・反対票(2)2010年度市税(3)人口1人当り税収(4)生活保護率(5)15年の65歳以上人口推計(6)高齢化率(7)大阪市議選の結果から分析した。


24区ごとの賛成率を横軸に、高齢化率を縦軸にとり散布図を作ってみた。賛成率50%と右肩下がりのグラフの交点をみると、高齢化率25.9%が賛否の分岐点になっていた。日本にとってギリシャの財政危機はとても他人事とは筆者には思えない。日本が年金改革に取り組む時間はIMFの時刻表によると、あと10年しか残されていない。

参考:『EU崩壊』

『何が問題か?叩かれるギリシャの年金制度』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レター)

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