記事

【読書感想】希望の資本論 ― 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか

リンク先を見る

希望の資本論 ― 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか

内容紹介

閉塞感と焦燥感で混迷を極める現代。

私たちは資本主義の矛盾や限界にどう向きあっていけばいいのか?


現代日本の知の水先案内人、池上彰と佐藤優が、 トマ・ピケティの『21世紀の資本』の世界的大ヒットなどで にわかに注目を集めるマルクスの『資本論』を、 革命の書としてではなく、 資本主義を相対化し過酷な社会のなかで 生き延びるための指南の書として読み解く。


いま、『資本論』を読む意味とは?

『資本論』からみえる現代日本は?

幸せな資本主義は可能か?

資本主義社会をサバイバルする技術、 資本主義に絡め取られない生き方とは?


AERA2014年11月10日号の 「資本主義の限界を生き抜く『資本論』」対談を大幅増補して書籍化。


 池上彰×佐藤優!

 新書界、あるいは今の言論界では数少ない「売れていて、しかもある程度好きなことを言える人」どうしの黄金タッグによる一冊。

 今回のテーマは『資本論』です。


 とはいえ、佐藤優さんはこれまでもマルクスの『資本論』の重要性について、さまざまな場面で話をされて(あるいは、本を書いて)おられて、この対談の内容には「繰り返し」になっているところも多いのです。

 僕のように『資本論』くらいは読んでおかなきゃね……と言いながら、実際にはマルクスの『資本論』をまともに読んだことがない人間にとっては、この対談を読んで「わかった!」なんて思うのは、『もしドラ』を読んで、ドラッカーを理解したような気分になるのと同じようなものなのかな、とも感じます。

 でもまあ、実際に『資本論』を読むのは大変だと、このお二人でさえ仰っているわけで。


 僕がみてきた「資本主義 vs 社会主義」の対決では、社会主義は、完全に敗北したと言わざるをえないでしょう。

 しかしながら、資本主義が「ひとり勝ち」してみると、今度は、資本主義がより先鋭化し、格差は広がっていく一方です。

 社会主義という「カウンター」があった時代には、「とりあえず労働者にも良い顔をしておかないと、社会主義革命とか起こされてはたまらないし」という歯止めがあり、それが「社会保障の充実」などにつながっていたのだけれど、いまはもう、資本主義にとって、そんな心配はなくなっているわけです。

 そういえば、日本という国を「世界で最も成功した社会主義国家」だと言った人がいましたね。


 マルクスの『資本論』って、「負けた側の主張」だし、もう時代遅れなんじゃないの、と僕も思っていました。

 でも、マルクスがこの本に書いたのは、「資本主義の本質」だとお二人は仰っています。

 それに対して、共産主義革命が起こる、という未来予測は外れたけれど、「資本主義とは、こういうものだ」という定義については、知っておいて損はない。


 この本には、トマ・ピケティさんのベストセラー『21世紀の資本』についての話もたくさん出てきます。

 巻末には、ピケティさんと佐藤優さんの対談も収録されているのです。

 池上さんと佐藤さんが、ちょうど同じ日に別々にピケティさんと対談するスケジュールで、「後攻」の池上さんは、編集者に「ピケティさんはお疲れですから、対談は短めにお願いします」と言われて、「これは、佐藤さんが疲れさせたに違いない」と周囲の人と話していたそうです。

 この二人と連戦、とくに佐藤優さん相手となれば、たしかにエネルギー吸い取られそうですよね。

 まあ、そのくらい、佐藤さんと池上さんは、お互いを意識している、という面もあるのでしょう。


 ちなみに、佐藤優さんは、こう仰っています。

 日本のピケティ・ブームには二つ理由があると思います。最初、「21世紀の資本」じゃなくて、「21世紀の資本論」と紹介された。それによって『資本論』世代の郷愁を呼び起こした。1980年代までは大学でマルクス経済学もやっていましたからね。それから2番目は、格差を扱っているということで、安倍政権に対して非常に不満を持っている人たちが、ピケティ氏に仮託して、安倍政権批判を語りたいという思いがあった。この二つによって起きている側面があるので、直接ピケティ氏の理論とは関係がないところもあります。

 このブームには、「日本にとって(とくに、安倍政権を批判したい人にとって)ちょうど良いタイミングで出た、『格差の拡大』を扱っている理論だった」という面もあるのです。

 『21世紀の資本』僕もいつか読まなくては、と思いつつも、書店で手にとると、「これは枕にはちょうど良いかもしれないが……」と逡巡してしまうんですよね。

 でも、若い人たちは頑張って読んだらいいよ、なんて薦めるのもおこがましいのだけれども。


 池上さんは、ピケティさんの『21世紀の資本』について、こんなふうにまとめておられます。

 ピケティ氏はさまざまな矛盾、経済的な格差を、バルザックなどの文学作品に深く傾倒することによって感じ、世の中の矛盾をどのように分析すればいいか、あるいはどのように良くすれば良いのかという問題意識があって経済学に入っていった。しかしアメリカに行ってみるととんでもない経済学だったので、これを拒否して新たなことを考えるようになった。

 そして得た理論は、資本主義においては必ず格差が広がる傾向にある、ということがデータでわかったということ。どんな論理であろうと、データはそれを示している。

 ピケティ氏にインタビューした時、彼はこうした格差を少しでも改善し、縮小するためには、富裕層に対する資産税等ということを考えていかなければいけない、それが民主主義の力であると力説したので、私が「『21世紀の資本』は民主主義のための本ですね」と言ったら、彼は「わかってくれましたか、これは実は民主主義の本なんです」と言っていました。いまこそ民主主義によって、資本主義経済のさまざまな矛盾を押さえこむべきで、彼はそれができるというふうに考えているわけです。


 池上さんは「マルクスが革命でひっくり返さなければいけないと考えたことを、ピケティ氏は民主主義で改善しようとしている」と仰っています。

 僕みたいな、「経済の専門家ではない人間」にとっては、これを読んだだけで、「ちょっとわかったような気分になってしまう」のは、良いことなのか、悪いことなのか。


 佐藤さんは、いまの時代に『資本論』を読むことのメリットについて、こんな話をされています。

 ところで『資本論』で大変重要なことがあります。『資本論』の強さは「論理の力」だということです。だから「資本論」を読み解くと、論理が強くなるんですね。

 今回のIS(いわゆる『イスラム国』)における日本人人質事件に関していうと、まず最初、テロリストが2億ドル(約238億円)の身代金を要求しました。その時にマスコミから来る問い合わせは、「身代金を払うべきか、払わないべきか」というものなんですよ、全部。

 私だったら、それに対して「それは疑似命題である」と答えます。すなわち前提に問題があって、答えができない命題だと。ウサギの角の先が丸いか尖っているかという禅問答と一緒なんです。なぜなら、紙袋一つに入るのは、日本円だったら5000万円、米ドルだったら50万ドルと仮定して、2億ドルというのは400袋です。これだけの連番ではない、古い札を72時間以内に集めることは不可能です。しかもその重さは2トンになる。金塊でやりとりする場合には5トン。5トンの金塊を受け渡すということは、事実上不可能。このように考えれば、それは明らかです。

 それから、リシャウィ死刑囚との交換を要求した後、1月27日くらいだったかな、一時楽観論が出た。私はその楽観論が出る前に、「これはIS側は交渉する余地がない、極めて危ないんだ」ということを言っていたんです。それで楽観論が出た時にも、「そうではないんだ」と言いました。常識で考えてみろと。まとまった条件を発表するんだったらわかるけれども、まだまとまっていないヨルダン側の条件をマスメディアを通じて大臣が発言しているのはどういうことかというと、それは交渉のパイプが詰まっているからなんだと。だから、メディアを通じて交渉せざるをえない状況になっている。ISには、交渉するつもりがない。この流れははっきりしていると。こういう流れは、「論理の力」がないと見えないんですよね。


 ああ、なるほどな、と。

 相手の思惑を想像するよりも、具体的に出てきた条件を検証していけば、それが「実現可能」かどうかがわかる。

 それが「実現不可能」であれば、最初から交渉の余地はなかった。

 「2億ドル」を物理的に考える、というアプローチがあるのか……

 ただ、『資本論』を読むことに挫折した僕からすると、「『資本論』を読むと論理的思考力が身につくのか、もともと論理的思考力があったからこそ、『資本論』を読みこなすことができたのか?」と、考え込んでしまうんですけどね。

 

 お二人は、『資本論』の読み方についてのアドバイスもされています。

池上彰:私は大学時代に読みましたが、『資本論』はやはり、とっつきにくくて難しかった。まずマルクスの『賃金・価格・利潤』を読み、そのあと『経済学批判』を読んだ上だと、なんとなく、ようやくわかるんですよ。いきなり『資本論』はつらい。


佐藤優:そうですね。『賃金・価格・利潤』は、マルクスが労働者相手に、すでに『資本論』の論理ができあがっているところで講演をしているので、比較的わかりやすいんですよ。

 

 みんなが「読もう」と思っているにもかかわらず、ハードルがけっこう高い本だからこそ、読んでいるとアドバンテージが得られる、というのも事実なので、興味がわいた方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 僕もいつか……って、いつになるのかねえ……



リンク先を見る

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

リンク先を見る

21世紀の資本

あわせて読みたい

「資本主義」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    前規制委 処理水は放出以外ない

    鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

  2. 2

    おしゃれの時代はユニクロで終焉

    fujipon

  3. 3

    日本なんて要らない? 韓国の本音

    PRESIDENT Online

  4. 4

    ベーシックインカムで年金不要?

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  5. 5

    議員団が対馬の韓国資本を危惧

    長尾敬

  6. 6

    嫌韓と日韓関係を混同する新聞社

    PRESIDENT Online

  7. 7

    日本の優遇除外は逆ギレ報復措置

    城内実

  8. 8

    香川県に縁ない丸亀製麺が論争に

    BLOGOS しらべる部

  9. 9

    東電旧経営陣への無罪判決に不満

    川田龍平

  10. 10

    HIV内定取り消し訴訟 病院の大嘘

    岩田健太郎

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。