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潜在敵国か、経済パートナーか 一筋縄で行かない中印関係 - 岡崎研究所

米ヘリテージ財団の南アジア専門家、リサ・カーティス上級研究が、同財団のウェブサイトに5月29日付で掲載された論説にて、モディ首相は就任1年で、インド経済を活性化するとともに活発な外交を展開し、成果を上げたと評価しています。

 すなわち、インド経済の成長率は7.5%と予測され、15年ぶりに中国を抜く。保険、防衛市場の開放、“Make in India”運動の積極的推進により、政府は経済を正しい方向に進めているとの楽観的見方が生まれている。

 モディの外交面での成果も同様に目覚ましい。米印関係を確固としたものとすると同時に、日本や豪州といったアジアのパートナーとの結びつきを強め、隣国スリランカ、バングラデシュ、ネパールとの関係に意を用いた。

 米国との防衛、戦略的結びつきの強化の背景に中国の軍事的、経済的台頭があることは疑いない。オバマ訪印の際の共同声明で南シナ海を含むアジア太平洋の協力に触れたことは、中国による海洋権益の主張を明らかに非難したものである。

 昨秋のモディの訪日は、中国の挑戦に対するインドの立場を強化するとの戦略の一環であった。

 5月初めのモディの訪中は、インドが国境紛争に対する態度を強めていることを示した。

 中印両国は24の取り決めに署名し、約30億ドルに上る商談をまとめたが、インドは「一帯一路」への参加は表明しなかった。これは中印が今後も地域の影響力を競うことを示すものである。

 モディ政権の問題はパキスタンと宗教の自由である。

 パキスタンとの関係は、パキスタンの役人がカシミールの分離主義者と会ったことを受け、悪化している。パキスタンをベースとするテロリストが、2008年のムンバイのようなテロ行為をすれば、インドは国際的に同情を得るだろう。

 宗教の自由については、モディの与党のヒンドゥー狂信派がイスラム教徒とキリスト教徒を改宗させる大式典を計画し、モディは窮地に立たされたが、大式典の中止を根回しするとともに、キリスト教徒の指導者に宗教の自由の尊重を再確認した。しかしモディは一層努力する必要がある。

 米政府はインドが自由貿易と安定した民主主義的秩序の推進のため、アジア太平洋地域で力と影響力を投影することを期待しているが、モディ首相就任後の1年は、インドがその期待に応え始めていることを示している、と論じています。

出典:Lisa Curtis,‘First Year: Modi Invigorates Indian Economy and Foreign Policy’(Heritage Foundation, May 29, 2015)
http://www.heritage.org/research/commentary/2015/5/modi-invigorates-indian-economy

* * *

 論説は、モディ首相就任1年を積極的に評価しています。バランスのとれた評価と言ってよいでしょう。

 カーティスは、米政府が、インドが自由貿易と安定した民主主義的秩序の推進のため、アジア太平洋地域で力と影響力を投影することを期待している、と言っていますが、その期待は、日本としても全く同じです。

 モディが中国の挑戦に対するインドの立場を強化する戦略を推進しようとしていることは明らかですが、中印関係は一筋縄ではいきません。国境紛争があり、中国はインドの宿敵であるパキスタンとの間で深い関係を持っています。また、インドは中国が「一帯一路」などでインド洋での影響力を強化しようとしていることを警戒しています。その意味では、中国はインドにとって競争相手であり潜在敵国です。他方、インドは中国との全面対決は望んでおらず、経済面では関係を一層強化しようとするでしょう。論説でも触れられていますが、5月のモディ訪中では、中印両国は商業関係の強化に向けた動きを見せました。これには、インドが得るところは少ないのではないかとの指摘もありますが、インドが中国との経済関係を重視していることをよく表しています。米国も日本も、中国を念頭にインドに期待するに際し、このような中印関係の実態に十分留意する必要があり、「インドを中国包囲網の一角に加える」などといった、現実に即さない思考に陥らないよう、厳に戒めるべきでしょう。

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