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<テレビの秩序とタブーを超えた「嘘」>フジテレビ・韓国女子高生「日本嫌い発言」捏造問題

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

***

フジテレビによる韓国女子高生の「日本嫌い発言」捏造。これはもはや演出ではない。

さすがに「嘘」はだめだ。こういう当たり前のことを注意してやらなくてはいけなくなったテレビは文化として成立しているのだろうか?

筆者は40年近くテレビの世界にいるが、その経験から判断すると、確かに、1980年(昭和55年)以前は「テレビの嘘」に対しておおらかだった時代がある。

たとえば、UFOや超常現象である。明らかに偽造であるわけだが、「本物だ」と言ったとしても見ている方が「どうせ嘘だろ」と、思っているから、青筋立てた抗議は来なかった。

プロレスもそうだ。力道山の空手チョップは、そんなに威力があるのか? と思ったが、勝って欲しいという期待や、それを楽しむ想いは大きかった。

テレビ朝日「水曜スペシャル『未だかつて誰も侵入したことのない未踏の地』」への探検も、探検隊よりも先にカメラが待っていた。が、それでも許されていた。

しかし、そのうち世の中の方の秩序が次第に崩壊していった。秩序という不文律で成り立っていた日本の世の中が、強欲資本主義や、ギャンブル資本主義に浸食されて秩序が崩壊して、平凡を保つためにはルールが必要になった。このルールはタブーとして形成されていった。

秩序が崩壊すると、結果的にタブーばかりが増えていった。ちょっと考えてみればすぐ分かるが、秩序が崩壊してタブーばかりの社会は未開である。

「嘘はダメだと言う秩序」で縛られていたテレビは余裕があったが、「嘘はダメだと言うタブー」で縛られているテレビは、がんじがらめで身動きが取れなくなった気がする。

動物番組のことを考えてみる。ライオンの餌食になって食われたトムソンガゼル。カットが変わってその姿を遠巻きに見ているトムソンガゼル。そこにナレーション。

「母親は、悲しそうな目で我が子の姿を見ていた」
これが本当かどうかは判断のしようがない。トムソンガゼルは皆同じ模様で区別がつかない。昔なら、どうしたか。
「母親は、悲しそうな目で我が子の姿を見ていた」

と言うナレーションは決してつけなかった。自己規制という秩序が働いたからだ。つけるときは母子である一連の事実をディレクターが知っているときだけだった。

今なら、どうなるか。
「この別のトムソンガゼルの振り向いている画(え)を、お母さんだってことにデキるんじゃないの」

となる。これで、嘘ができあがる。この嘘は数人が口をつぐめば絶対にばれない嘘になる。後者は昔なら、秩序で回避できた嘘だ。「そんなに面白くしなくてもいいよ」と諫める人もいた。

今は、この手の嘘はタブー破りとして回避しなければならない。「そんなに面白くしなくてもいいよ」と言う人もテレビの世界には、いや、他の世界でもそうかも知れないが、いなくなった。

秩序で嘘を回避できる世の中では、嘘におおらかだったが、タブーでしか嘘を回避できない世の中では、嘘に対して、大変手厳しい。視聴者は嘘探しに魚の目鷹の目となって、あれもダメ、これもダメ、あれも嘘、これも嘘という状態になる。

それよりも、もっと低レベルの嘘もある。

フジテレビの「池上彰緊急スペシャル! 知っているようで知らない韓国のナゾ」で、
「日本は文化がいろいろあって、外国人がたくさん行っていますね」
と街頭インタビューで発言した韓国の女子校性の吹き替えが、
「嫌いですよ、だって韓国の事を苦しめたじゃないですか」

という全く違う翻訳になっていた事が話題になっている。

これは、秩序とか、タブーとか、そういう範疇を超えた嘘だ。しかも、ひどいことに、このインタビューのまとめが、
「…と、多くの人が日本のことを嫌いと答えました」

と言うナレーションである。恣意的にマイナス発言をした人を集めたVTRだから、当たり前だし、その中にマイナス発言ではない人も混じっているしむちゃくちゃだ。そもそも、「多くの人」とは、どのくらいの割合なのか。

吹き替えの後ろには韓国語が聞こえるが、これを聞けばバレてしまう低レベルの嘘だ。捏造や誘導の意図があるのか単純な間違いなのかは分からないが、どちらにせよ、この事態はテレビ制作者の劣化という意味で嘘云々よりも由々しき問題である。
「こんな奴らにテレビという武器を与えてはならない」
と、筆者は思ってしまう。
「テレビの信用はもっとなくなってしまい、視聴者の嘘探しの魔女狩りがもっともっとひどくなるぞ」

と、思うからである。

30年前の話だが、東海地方にタバコを吸うチンパンジーを飼っている動物プロダクションの社長がいるというので、取材に行ったことがある。チンパンジーはダイちゃんという名前である、と新聞にでていた。

社長は「最近取材が多くてね」と言いながら筆者たちをダイちゃんのいるところに案内してくれた。すると、オリの中に六匹ほどチンパンジーがいるではないか。筆者は社長に聞いた、
「どれが、ダイちゃんですか」
すると社長は答える。
「ぜえ〜んぶ、ダイちゃんだよ」
筆者は、この社長なら認めることができると思う。ちなみにその日のダイちゃんは、風邪でもひいているのかタバコを吸わなかった。

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