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なぜ日本の高齢者はこんなに貧困なのかー『下流老人』を発表して思うことー

<『下流老人』を発表して>

拙著『下流老人』(朝日新書)を発表して以降、大きな反響が続いている。

本書では、不十分ながらも、日本の高齢者の貧困の実態について、現実の一部をお伝えし、そこから何が起こっているのか考察することができた。

「明日は我が身である」

「老後を迎えるまでに資産や貯蓄をして備えたい」

「下流老人になることを前提に、家族や友人などの人間関係を大切にしていきたい」

など、寄せられるご意見や感想は多い。

そして、同時に、「なぜ高齢者はこんなに貧困になってしまうのか」といった疑問も多く寄せられる。

そもそも、貧困を抑止するためには、個人の努力云々も大事だが、個人的な努力ではどうにもならない実態もある。

だから、社会保障を先人たちは”防貧対策”として、用意してきたのだが、この貧困を防ぐための対策が弱いと指摘しておきたい。

<生活に金がかかりすぎる日本>

皆さんは日常的に「贅沢」しているから貯金ができないのだろうか。

「浪費」をしているから金が少なく、生活が苦しいのだろうか。

そんなことはないだろうと思う。

多くの人は堅実に自分の可能な範囲で生活を営んでいるように思う。

ではなぜ生活が苦しいのか。

まず、日本は家賃や住宅ローンの返済など、住宅費負担が極めて重たい。

ゼネコンや建設、不動産業界の政治介入もあり、持ち家政策を推進してきた日本では、国民は基本的に住宅を購入してきた。

だから多くの国民は、住宅ローンを組んで家を買う。返済できるか否かは別として。

銀行から多額の借金をさせてまで進む建設ラッシュは、人々を苦しめながら経済成長を支えてきた「日本型経済成長モデル」の一端といえる。

一方で、住宅を購入しない場合、購入できない場合には民間賃貸住宅を借りることが一般的だ。

「住宅購入」か、「民間賃貸住宅」かのほぼ二者択一であった。

現在は、親と一緒に実家に同居し続ける選択肢が「第三の道」として、増えてきたことは、過去の記事(家を借りることがリスクの時代:檻のない「牢獄」と化した実家)で触れたので参照いただきたい。

もはや住宅購入も家賃負担もできない人々が大勢現れている。

ただし実家に住む若者が悪いのではない。政策が遅れているのである。

公営住宅の数が少ないことでも有名な日本の場合、本来は公営住宅程度の家賃しか負担できない人がいても、ローンを組ませたり、高い家賃の住宅を借りている。

この住宅費は毎月の固定費であり、必ず支出しなければならないものだ。

その固定費が建設業界や不動産業界、銀行や金融業界を維持するために機能しているため、極めて高いのである。

貯蓄ができなくて当然だし、住宅費のために働いていると言っても過言ではない人々によく出会う。

日本のサラリーマンの多くも住宅ローンを組んでいる(組まされている)ことは明らかだ。

月給24万円のある正社員サラリーマンでも、月額返済が10~12万円程度の住宅ローンを組んでいる。

そんな事例は珍しくない。給与の約半分がローンの返済である。

さらに、日本の住宅は高額な割りに耐用年数が短く、老後は老朽化してリフォームが一定期間ごとに必要な住宅が残る。

一方で、ある非正規雇用の若者は、月額16万円の給与から8万円程度の家賃を支払えば、生活が苦しくなるのは当たり前だ。

正社員でも非正規社員でも関係なく、日本の住宅費負担は、極めて重いといえる。

この「住宅費」という固定費が公営住宅の毎月約1万円~5万円程度だったらどうだろうか。

貯蓄もできるし、老後の備えも可能だし、消費も好転していくはずである。

他にも交通費や高熱水費、教育費、パソコンや携帯電話料金など生活に必要なインフラへの負担も大きい。

物価も上がっている。

これらは社会生活を送る上で、なくてはならない支出である。

このような別に贅沢などしていなくても、日常的にかかる生活費が日本は高すぎるのである。

老後の貯蓄に回せるだけの金銭を現役時代に、知らず知らずのうちに消費しており、それゆえ老後は緩やかに貧困の渦の中に巻き込まれていく。

緩やかゆえに、貧困が迫っていることを当事者は切実に感じることは少ない。

気づいたら・・・、ということである。

<社会保障の方向転換を!>

だから私は社会保障を転換させたいと思っている。

このままの社会保障体制だと賃金の減少や非正規雇用の急増などに対応できず、「一億総老後崩壊」が起こると思っている。

なるべく前述したような社会生活に必要な生活インフラを金がかからず利用できるように転換させたいのである。

ひとことでいえば、低賃金でも低年金でも金をかけずに暮らせるようにするべきだ。

そのために、社会保障を多様に捉え、社会資本への投資や生活インフラの整備に今のうちから、少しずつでも予算を投下しておきたい。

具体的には、公営住宅や社会住宅を整備できないだろうか。

海外のように「家賃補助制度」を導入できないだろうか。

あるいは大学の学費や塾代など、教育費負担を軽減できないだろうか。

日本の社会保障は、高齢者・障害者・母子・児童・失業者など一定の枠組みにカテゴライズされた対象へ不十分ながらも支援をおこなってきた。

しかし、これらのカテゴリーの人々を含みつつ、一般国民の多くが普遍的に助かるような社会保障制度に変えられないだろうか。

欧州や北欧では、すでにそのような体制に転換している国々は珍しくない。

貧困は個人的なレベルで対処できるような生易しい「敵」ではない。社会的に向き合うべき巨大で手ごわい「敵」である。

下流老人の問題は、私たちに社会保障について考え直すように、問題提起をしているように思っている。

ぜひ国民的な議論を心からお願いしたい。

※Yahoo!ニュースからの転載

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