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医薬分業制度にみる「利便性・選択の自由」に伴う自己責任

「医薬分業推進の下での規制の見直し」を議論していた内閣府の規制改革会議が16日、答申をまとめ安部総理に提出しました。
論点の一つとなっていた「医療機関と薬局との一体的な構造を禁止する規制の是非」について、改革案では以下のように言及しています。

保険薬局の独立性と患者の利便性向上の両立
医薬分業においては、薬剤師が処方医とは独立した立場で患者に対する薬学的管理を行う必要がある。このため保険薬局と保険医療機関は、一体的な経営だけでなく、一体的な構造も禁止され、公道等を介さずに専用通路等により患者が行き来する形態であってはならないとされている。この規制が、車いすを利用する患者や高齢者等に過度な不便を強いているのではないかとの指摘がある。また、行政相談を受けた総務省行政評価局の厚生労働省へのあっせんにも、同趣旨の考え方が紹介されている。
したがって、医薬分業の本旨を推進する措置を講じる中で、患者の薬局選択の自由を確保しつつ、患者の利便性に配慮する観点から、保険薬局と保険医療機関の間で、患者が公道を介して行き来することを求め、また、その結果フェンスが設置されるような現行の構造上の規制を改める。
(下線は筆者による)

当初、規制改革会議側は、利便性を高めるとして、病院内の売店や喫茶店のような形で薬局をテナント入居させることを主張していましたが、「実質的に一つの医療機関の処方せんを応需することとなり、国が推奨する『かかりつけ薬局』の趣旨に反する」とする厚労省や日本薬剤師会の反対を受け、改革案ではトーンダウンする形となりました。
それでも、産経ニュースはこの改革案について、「敷地内薬局の解禁であり『大家と店子』の関係となる。出店料は高騰し、病院側への遠慮から薬局が口を閉ざす雰囲気を生じ、チェック機能が低下する。本末転倒だ。」として批判しています。
http://www.sankei.com/life/news/150622/lif1506220003-n1.html

今回の答申に先立って、日本薬剤師会も構造規制の緩和に強く反対する決議を発表しています。

患者の安全を守る観点から、薬剤師には薬剤師法第二十四条で処方医への「疑義照会」が義務付けられており、「処方せん中に疑わしい点があるときは、その疑わしい点を確かめた後でなければ調剤してはならない」とされている。この規定は、医師と薬剤師が適切に業務を分担し、安全で安心な薬物治療の提供を実現するための原則であり、それを確かなものとするには、薬局は医療機関から「経済的」「機能的」「構造的」に独立していることが不可欠である。また、過去を振り返ってみても、構造的独立を確保できなかったために発生した薬局と医療機関間の不正行為が、社会的指弾を受けたことを踏まえて現在の規制となっていることを忘れてはならない。(抜粋)
http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2015/06/150604_7.pdf

薬局の出店料高騰と聞いて思い出すのは、2013年に兵庫県小野市で開業した北播磨総合医療センターでの事例です。敷地内に設定された2ヶ所の薬局用地はそれぞれ約10億円、4億円という高値で落札されました。
このケースでは、落札金額のみならず、病院敷地内に薬局用地を設定するために、用地を取り囲む通路を公道指定するという自治体病院ならではの手法に対しても、批判が集まりました。今回の規制緩和案を受け、今後は民間病院においても同様の事例が増えることになるかもしれません。
こういったスキームについては、国会でも問題にされています。
http://www.yuzu.jp/common/material/information/file1/20131211172147079562.pdf
また、もしも本当に、病院側への遠慮から薬局が口を閉ざしチェック機能が低下する、といった状況が生じるのであれば、由々しき問題です。


■ 「立場の独立性」は担保されているか

ただ一方で、薬剤師が適切な業務を行う上で「独立性」が必須である、という点について率直に私が感じるのは、「それでは、現状の医薬分業制度において薬局の独立性は担保されているのか」という疑問です。

日本の医薬分業制度では、処方箋を発行するかどうか、つまり分業を行うかどうかを医師の任意に委ねています。近隣に薬局がなければ患者の利便性を損なうことになってしまいますから、多くの開業医と調剤薬局は隣接し、マンツーマン分業(あるいは医療モール)の形態を取っています。患者利益を重視するとして、処方箋を発行せず院内調剤を選択する医療機関も少なくありません。
薬局側としては、利益の殆どは隣接する医療機関に依存していますから、医師が処方箋の発行を止めれば薬局の経営は立ち行かなくなります。「医師の顔色を窺う」と批判される日本の薬剤師の姿は、制度が導いている面があります。
こうした「任意の分業制度」を採用する先進国は日本以外にはありませんが、一応、薬剤師会が主張する「経済的・機能的・構造的な独立」という要件は満たしています。もっとも、それらの要件が本来導こうとする「独立した立場」が担保されているかといえば、私は、そうではないと思いますが。

このような日本の分業制度を象徴する判例があります。
http://www.medsafe.net/contents/hanketsu/hanketsu_0_50.html
この事例は、風邪等に罹患した乳幼児はミルクの飲みが悪く、薬剤も必要量を服用しないことが多いとして、常用量の4〜5倍の処方を行った医師と、これを了解して調剤を行った薬剤師が、患児に呼吸困難・チアノーゼを伴う健康被害を発生させ、その後も患児は入退院を繰り返した、というものです。
判例の評釈からは、薬剤師が本心から医師の方針に同意していたかどうか判然とはしませんが、このケースがマンツーマン分業の病院・薬局であったのであれば、そのような持論を譲らない医師の処方箋に対し、毎回懲りずに疑義照会を行ったり、疑義は解消しないとして調剤を拒否し、その旨を患者側に伝える薬剤師は、そう多くはないだろうと想像します(勿論、法令はそういった、毅然とした薬剤師の行動を規定しています)。


■ 道半ばの医薬分業が内包する危険性


規制改革会議に出席した厚労省担当者は現在の日本の医薬分業について、「道半ばであり、課題も多い」と言及しています。これには、「将来、医薬分業が進展すると共に、かかりつけ薬局を持つ患者が増えれば、個々の薬局が隣接医療機関に経営的に依存することも少なくなる。そうすれば、薬剤師も医師から独立した立場で患者と向かい合い、本来のチェック機能を果たすようになるだろう。」という意味を含むと私は理解しています。
こういった、道半ばゆえの矛盾や危険性は、国や薬剤師会にとっては織り込み済みかもしれませんが、取り立てて患者に向け注意喚起されることはありません。

医薬分業制度が先進国ではスタンダードであるとはいえ、元々アジア諸国に分業制度は存在しませんでした。そういった国に分業制度を導入する際には、混乱や抵抗は避けられず、制度の定着には時間もかかります。
日本より遅れて医薬分業制度を導入した韓国では、日本と異なり、「完全分業制度」を採用しました。当初の混乱や抵抗は大きくとも、最終的に状況が落ち着くのは早いと判断であり、日本の制度導入の失敗を手本にしたとも言われています。

これに対し日本では、医師による裁量の尊重、患者による病院・薬局選択の自由(分業実施の有無も含め)、利便性を重視した「緩やかな分業推進策」を採用したといえます。患者側にとっては、院内調剤を行う医療機関を選ぶこともできますし、医療機関を利用する都度、隣接の薬局を利用することも、またかかりつけの薬局や薬剤師を利用することもできます。 
その反面、それぞれの選択に伴う危険性については、選択した患者本人が負うことになります。
病院に隣接、あるいは敷地内に、あたかも付属施設のように存在する薬局を利用することは、当たり前のことではなく、メリットとデメリットについて熟慮した結果の、積極的な自己選択とみなされる訳です。一方で厚労省や薬剤師会が推奨する、かかりつけの薬剤師を探そうとしても、現状の制度下では、十分な知識を持ち、医師の意向よりも、常に患者を優先する薬剤師を生活圏の中で見つけることは、容易なことではないかもしれません。

「利便性、選択の自由」、「安全で安心な薬物治療の提供」といえば聞こえはいいですが、同時に求められる患者側の知識と自己責任の大きさを考えると、なんとも皮肉な話に思えます。

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