記事

中国に侵食される印モディ首相の“Make in India” - 岡崎研究所

5月のモディ訪中について、在ニューデリー政策研究センターのチェラニー教授が、中印関係の変革を求めたモディに対して中国は実質的な譲歩は何もしておらず、新しいアプローチがなければ中印関係のアンバランスは続くことになる、と批判的に論評しています。

 すなわち、中印関係は紛争、深い不信などに特徴づけられている。二国間貿易は急速に拡大しているが、国境での衝突、軍事的緊張、地政学的対立、河川および海洋紛争は増大している。

 昨年就任して以来、モディ印首相は、中印関係の変革を模索してきたが、今般のモディ訪中は、両国を隔てる問題が依然として大きいことを示した。

 確かに、中国指導部は、西安の大雁塔や北京の天壇に案内するなど、形の上ではモディをもてなしたが、いかなる実質的問題でも譲らなかった。モディの現実的で懐柔的な方針にもかかわらず、両国のパートナーシップの完全な実現を妨げている問題への中国のアプローチを再考するようにとのモディの要請は顧みられなかった。

 ヒマラヤ国境の紛争について、1962年の戦争後に中国が一方的に引いた実効支配線(LAC)について、モディは明確化を求めたが、効果が無かった。

 にもかかわらず、モディは新たな中印関係構築を熱望し、中国人旅行者はインドに到着すると電子ビザを受け取る資格があると発表した。対照的に、中国外相は係争地域の一つArunachal Pradesh の居住者に簡易査証を発給するとし、インドの主権を掘り崩している。

 さらに、水資源の覇権国である中国は、国境をまたぐ川の水文学上のデータをインドに売るとの合意も断った。中国は、近隣国と水を共同使用する合意のみならず、河川についてのデータを共有することすら拒否している。

 モディ訪中での共同声明で、中国は、インドの原子力供給グループ入りへの熱望に留意し、インドが安保理を含む国連でより大きな役割を果たしたいことを理解し支持する、と述べたが、中国は、インドの安保理常任理事国入りを支持してこなかった唯一の主要国である。

 訪中の経済的成果も平等ではなかった。モディが締結した220億ドルに上るビジネス合意の多くは、インドの企業が中国の物品を購入するためのもので、インドの500億ドルに上る対中貿易赤字をさらに悪化させるだろう。

 中印の貿易関係は、世界で最も不均衡なものの一つであるが、インドは中国の安い商品の市場への氾濫を食い止める努力をほとんどしておらず、モディが叫ぶ“Make in India”キャンペーンにも拘わらず、中国がインドにとり最大の輸入国であり続けることは確実であろう。

 中国は、貿易と商業的浸透により他国への影響力を強化することに長けている。貿易不均衡を許せば、インドは中国のこの戦略に効果的に資金を提供することになる。

 モディは24の協定締結など、今回の訪中の成果をよく見せようとしているが、中印の戦略関係の厳しさをぼやかすことはできない。新しいアプローチがなければ、中印関係は不均衡で議論を呼ぶものであり続けよう、と論じています。

出典:Brahma Chellaney,‘Modi in China’(Project Syndicate, May 18, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/modi-china-visit-sino-indian-relationship-by-brahma-chellaney-2015-05

* * *

 モディ首相の訪中は、モディ首相が対中関係を変革する旅と位置付けたこともあり注目されましたが、この論説が指摘するように、印中関係は「変革」されたのではなく、関係の難しさが浮き彫りになった感があります。

 経済関係で約200億ドルの契約締結など成果がありましたが、領土問題を含む政治関係での進展は、インドの安保理常任理事国入りの支持のほかに目立ったものはありませんでした。

 ただ、日本にとり、印中関係が著しく良い状態というのは、地政学的に必ずしも好ましいものではありません。モディ政権は、これまでの政権よりも米、日、欧州諸国との関係を重視しており、南シナ海での中国の行動に対しても、日米と同じように批判的です。今後の対中牽制において、日米印は協力しうる状況がある方が望ましいでしょう。

 印中国境紛争についていうと、印中間で争われている主要な二つの領土、Arunachal PradeshとAksai Chinの規模は、オーストリアとスイスの領土に匹敵します。中国は、問題となっている領土に軍を侵入させるなど、圧力をかけています。この問題は印中間での火種として残ります。また中国・パキスタンの同盟ともいえる緊密な関係も、印中関係の改善へのブレーキになります。

 モディ首相は昨年の就任以来、活発な外交を展開し、国内改革も進めています。経済成長率は公式統計では7.5%で中国を上回っています。よくやっていると評価すべきでしょう。

 ただ、国内改革面では、モディは権力基盤を強化した後で困難な改革に取り組むという姿勢が強く、改革のスピードが遅いとの批判もあるようです。しかし、歴史を見ると、やりたいことを権力基盤がよくなるまで待っていて、結局できなかった事例が民主主義では多いように思われます。

【関連記事】
米の中国分析のベテランが告白「自分の対中認識は間違っていた」
中国が仕掛ける「歴史戦」に決着をつけた安倍首相の米議会演説
中国・訪日ブームの陰で気づいた対日認識の根本的な欠陥
中印で水資源の争奪戦が勃発?チベットのダム稼働で高まるインドの警戒感
観光と爆買いが育む「日本愛」訪日中国人の感情のひだを描く

あわせて読みたい

「インド」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    堀江氏 バイトテロは昔からある

    キャリコネニュース

  2. 2

    海老蔵が豊洲で都知事をバッサリ

    BLOGOS編集部

  3. 3

    「貧乏人は犬飼うな」はその通り

    永江一石

  4. 4

    徴用工訴訟 逆提訴が日本のカギ

    AbemaTIMES

  5. 5

    バカッター 実は低リスクで驚き

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

  6. 6

    いきなり! セブン出店戦略に学べ

    内藤忍

  7. 7

    日韓関係 耳傾け合う姿勢が希薄

    宮崎正

  8. 8

    「悪夢の前政権」外交面では事実

    MAG2 NEWS

  9. 9

    西川先生の池江巡る発言は暴論?

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    慰安婦解決と天皇の謝罪は別問題

    非国民通信

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。