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交通違反チケットを切られたときのお助けサイト「BernieSez」


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交通規則が違うせいもあるだろうが、海外でハンドルを握っているときにスピード違反や信号無視などの違反を犯し、警官に停車を命じられた経験があるという日本人は意外と少なくない。インターネットでは、「米国滞在中に交通違反のチケットを切られたが、どう対応したらよいのか分からない」という相談も結構見かける。

警官からチケットを渡されたら、指示された罰金を期限内にサクサクと振り込めばよい……かと言うと、実はそうでもないらしい。米国では、チケットに書かれた違反を犯したと本人が自覚している場合でも、請求された罰金を素直に支払うことが必ずしもベストな解決策ではないというのだ。

なぜなら罰金を支払うと、有罪が確定し、もれなく違反点数がついてくるからだ。州によって異なるが、違反点数1点ごとに続く数年間、自動車保険の保険料が跳ね上がる。1〰2万円程度の罰金をさっさと納めれば、それですべて解決するものと安直に考えていると、最終的に数十万円の損失になることもあるという。

ではどうしたらよいのかというと、裁判所に出廷して、反省の意志を示しつつ、図らずも違反を犯してしまった事情を訴えると罰金が引き下げられたり、違反点数がつかなくなることが多いそうだ。

しかし一般人が一人で裁判所に出向くというのは、時間的にも精神的にも負担が大きい。そのため交通違反チケットを切られた人のもとには、その翌日から「私が手続きを引き受けます」という売り込みの手紙が地域の弁護士事務所から殺到する。

法律のプロが味方についてくれることは心強いが、裁判の結果次第では、弁護士を雇うことはかえって金銭的にマイナスになる。どの弁護士ならば、リーズナブルな料金で弁護を引き受けてもらえるのかも判断しづらい。罰金を素直に支払うか、自分だけで裁判所に行けばよかったと後悔することにもなりかねない。

BernieSez」はそんな悩みを解決しようと2013年に創設されたマーケットプレイス型ECサイト。交通違反を犯して弁護士を雇いたい依頼人と依頼を引き受けたい弁護士とを結びつける場として機能している。

当初は本拠地であるノースカロライナ州だけをサービスエリアとしていたが、現在では全米のうち20州をカバーするまでになり、今後も成長が続くと予想されている。

BernieSezのシステム

BernieSezでは、ECサイトのほかに、タブレットやスマートフォン用のアプリも用意している。弁護士を依頼したい場合は、サイトまたはアプリで次の手順に従う。

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1. 違反チケットを渡された場所などの情報を入力し、チケットをデジタル撮影してアップロードし、運転経験などの簡単な質問に回答する。

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2.同サイトに登録していて、この案件に関心を持った弁護士が料金を提示して、入札を行う。ただしオークションとは異なり、各弁護士は他の弁護士が提示した金額を見ることはできない。

入札があるごとに、依頼主には同サイトからメールで通知される。

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3.入札者の中から、依頼者が依頼する弁護士を選択する。決定の前に各弁護士にメッセージを送り、質問することもできる。

選択の参考になるよう、弁護士ごとにこれまでの実績や同サイトの利用者によるレビューも公開されている。ただし一番低い弁護料を提示した弁護士が選ばれることが最も多いようだ。

料金体系

同サイトの利用料金は依頼主の側は無料、弁護士側は利用料金がかかる。最初の14日間はお試し期間として、無料で利用できるが、その後も継続して利用したい場合は複数用意されているプランからいずれかを選んで用意されている。各プランの詳しい内容と料金は同サイトに問い合せる必要があるようだ。これまで郵送で営業をしていた弁護士からすれば、手間のかからない便利なサービスに映るだろう。

尚、同サイトに登録する際には、ライセンスの確認が行われる。現在、登録している弁護士の数は約250名である。

どのプランの場合も、新しい案件がアップロードされるたびに、同サイトから自動的にメールで通知が送られ、その案件(「インバウンドリード」)に入札することができる。以前は入札1件ごとに0.99ドル(約120円)の料金が別途必要だったが、現在は別料金は発生せず、入札できる案件の数にも制限はない。

以上のほかに、「アウトバウンドリード」として裁判所のデータを提供し、弁護士が依頼主候補にダイレクトマーケティングを行えるようにするサービスも用意している。ただし現時点では、提供できるデータはノースカロライナ州とペンシルバニア州のものに限られている。

弁護士稼業に付き物の「非効率な側面」に直面して……

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BernieSezの創設者、Terence McEnally(上画像の男性、以下マッキナリー)氏はノースカロライナ州で約20年間、開業している現役の弁護士。彼が法律の世界に飛び込んだときには、インターネットを舞台に起業する日が来るとは想像もしていなかった。

新人弁護士時代に想像していなかったことは他にもある。弁護士稼業には、弁護の腕を磨くだけでなく、「マーケティング」に相当な努力を注がなければならないという事実だ。新規顧客を開拓するためには、他の弁護士たちと競争しなければならない。顧客開拓の助けになってくれそうな人達の集まるコミュニティを見つけ、そのコミュニティの中で自分の存在を確立する必要もある。

マッキナリー氏のマーケティングに有利に働いたのは、専門分野として「交通違反」を選んだことと、スペイン語を習得していたことだ。おかげで、ノースカロライナ州に続々と移民してくるヒスパニック系住民で、交通違反を犯した人達という、ニッチ市場の確保に成功。弁護士として、早期にビジネスを確立することができた。

しかしそれでも新規顧客を獲得するための競争が厳しいことに変わりはない。弁護士たちは交通違反を犯したとしてチケットを受け取った運転者のリストを入手するために金を注ぎこみ、見込み顧客たちに激しいマーケティングを仕掛けていた。

その様子を見ているうちに、マッキナリー氏は「弁護士を必要とする顧客と弁護士とを結びつけるもっと効率的な方法があるはずだ」と考えるようになる。

そこで思い出したのが、以前から利用していたuShipというオンラインのマーケットプレイスだ。荷物をどこかに配達してもらいたいが、重量や容積の制限に引っかかって、UPS(米国の貨物運送会社)では扱ってもらえないという場合、uShipに投稿すると、その配達を引き受けたいという人達が入札を行い、入札者の中から、配達人を選ぶことができる。

”弁護士の場合だって、同様のシステムを適用できるのではないか?”

そう閃いて、BernieSezの基本的なコンセプトが出来上がった。2012年8月のことだ。

しかしマッキナリー氏はハイテク機器のユーザーではあったが、プログラミングの知識はなかった。ハイテク技術者のコミュニティに案件を投稿し、プログラマーを何人も雇ってみたが、満足の行くサイトもアプリも出来上がらなかった。

そこで起業家たちと繋がりのある友人の弁護士に相談した結果、ツテからツテを辿って、最後にJim Young(以下ヤング)氏に辿り着く。マッキナリー氏はヤング氏の技術者としての高い能力に感心し、同氏を事業のパートナーとして迎えることを決める。

サイトとアプリの完成のために、マッキナリー氏がユーザーとして製品に求める内容をヤング氏に説明し、ヤング氏がその技術的な課題に対応するという手順を繰り返した。途中、激しい議論を戦わせることも何度もあった。2人とも別の仕事を持ちながらだったので、時間を見つけるのに苦労したが、2013年11月、BernieSezの正式ロンチに漕ぎ着ける。

当初の顧客はマッキナリー氏の直接の知人がほとんどだったが、やがてノースカロライナ州のローカルメディアを中心し、マスコミで取り上げられるようになり、知名度が徐々に上がり、利用者も増えていった。

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WCNCのニュースによれば、ノースカロライナ州シャーロット在住のMark Curtis氏(以下の左の男性)はスピード違反のチケットを渡された後、BernieSezのアプリを通じて、Matthew Weaver(右の男性、以下ウィーバー)氏に弁護を依頼し、裁判で違反した速度を減らしてもらうことに成功。おかげで金銭と時間の両方の節約に繋がり、同サイトを利用したことに満足しているとインタビューで答えている。

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弁護を引き受けたウィーバー氏はロースクールを卒業して間もない新人弁護士。米国でも、日本と同様、新人弁護士は顧客を抱えている法律事務所に勤めて、経験を積んでから独立することが一般的とされている。

しかしウィーバー氏はオンラインで存在を確立することで、他の事務所に就職せずに、開業できると考えていた。そんな彼にとって、BernieSezは新規顧客を開拓するのにまさにピッタリのサービスだった。

マッキナリー氏は今後、BernieSezが弁護士業界にもたらす変化の可能性について、次のように語っている。

”少なくとも理論の上では、昨日ロースクールを卒業して、弁護士資格を取得したばかりの弁護士でも、我々のサービスを利用すれば、開業することが可能です。事務所を開く必要も、家具を揃える必要もありません。必要なのはiPadもしくはラップトップだけです。”

若い弁護士を中心に利用者が増加中

マスコミに取り上げられるようにまで成長した同サイトだが、ロンチした直後は創設者らが予想していたよりも利用者の確保に苦労したそうだ。

その原因は弁護の依頼主側よりも、弁護士側にあった。弁護士のITリテラシーの平均レベルが同サイトのサービスを受け入れて、スムーズに利用できるほど熟成していなかったのだ。

一般に、弁護士はハイテクの導入にはあまり積極的でないとマッキナリー氏は感じている。通常の業務だけで多忙なせいもあるかもしれないが、使いこなせるようになるまでにある程度時間がかかるアプリなどの場合に、その傾向は顕著だという。

しかし上で紹介したウィーバー氏のように、若い世代の弁護士はハイテクを利用することにまったく壁を感じていない。今後、業界内で世代交代が進むにつれ、同サイトの利用者層は縦(年齢)と横(地域)の両面で増大していくだろう。

「実現しても誰も使わないよ」と思われている商品やサービスでも、数年後には流行していることも大いにあり得る。そんな変化の時代に僕たちは生きている。

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