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所沢市「第2子出産で保育園退園問題」に関する保護者への非難が危険な理由 - 後藤和也

埼玉県所沢市で施行された「第2子を出産し育児休業を取得した場合、第1子が0~2歳児の場合は原則として退園」制度が違法だとして、保護者らが市を相手取り、退園の差し止めを求める行政訴訟をさいたま地裁に起こした。
下の子が生まれて保護者が育児休業を取得した場合、保育園に在園している上の子を退園させ、家庭で子育てしてもらう埼玉県所沢市の運用方法は、子ども・子育て支援法施行規則などに反するとして、保護者11人が25日、市を相手取り、退園の差し止めを求める行政訴訟をさいたま地裁に起こした。

早急な司法判断を求め、仮差し止めも申し立てた。

訴状や申立書によると、保護者は、育児休業を取得した場合でも同規則で上の子の保育の必要性が認められていると主張。提訴後、原告ら13人が東京都内で記者会見し、母親の一人は「子どもにとって、大好きな先生や友達と過ごせなくなることは大きなストレス」と訴えた。代理人の原和良弁護士は「市の政策は、国の少子化対策や女性の社会進出支援、親の願いに逆行するものだ」と述べた。
「育休で上の子退園は違法」保育園児親が市提訴 読売新聞 6月25日(木)18時12分配信

■そもそもの争点とは

前回記事でも述べたとおり、本件の争点は「政策として実効性があるか」「当事者への丁寧な事前説明がなされていたか」であると筆者は考えている。

そもそも論を言えば、自治体には「女性の活用」という国策を後押しすべく保育の場を整備する責任がある。責任を保護者に転嫁するのは本末転倒だ。とは言え自治体の財政事情は一様に厳しく、様々な事情から保育園の純増等を行うことが容易ではないことは理解できる。待機児童問題の解消は一朝一夕ではいかないであろう。

本制度については、第2子育児休業に伴い一時退園した第1子の枠を、待機児童に振り分けることが想定されているが、一方で育児休業から復帰する際には、一時退園した第1子が元の園に再入園できるよう最大限の配慮を行うという。一般に育児休業期間は1年前後が大半と思われ、かつ空いた枠を再入園のために存置しておかなければいけないとなれば、本制度が待機児童問題解消につながるのか極めて疑わしいと言わざるを得ない。

また、今回訴訟まで至った現状を鑑みれば、保護者への事前の説明は足りなかったのではないか。子供は授かりものであり、生まれる時期をコントロールするのは困難だ。唐突な制度改正で対応を迫られては納得は得られないだろう。

■ネット上の反応

今回の問題については、市長自らが「子供は保育園に行くよりも、お母さんと一緒にいたいはず」と時代錯誤ともとれる発言を行ったこともあり、当局側に対する批判が相当数見受けられる。

一方で、「専業主婦は2,3人同時に育児を行っている」「母親が楽をしたいだけではないか」等、保護者への批判も多くなされている。「そもそも小さい子供は母親と一緒に生活するのが自然だ」という意見もある。今回訴訟に至ったということが報道されて以降は、保護者バッシング的な意見が多くみられるようになってきた。

■保護者らへの非難が危険な理由

保護者らは、自分たちの既得権を守りたいがために訴訟を起こしているのだろうか。筆者にはそうは思えない。

働く母親たちは、葛藤しながら保育園に子供を預けている。朝母親と離れがたく泣きじゃくる子供の姿を見れば、「そこまでして何故働くのだろう」という、何とも言えない気持ちになる。それでも果たすべき責任や役割で自分を奮い立たせて、日々悩みながら、親子で毎日保育園に通っているのである。

少なくとも、女性たちに対して「もう子供は産めないじゃん」と思わせた時点で、本制度のどこかに欠陥があるのは明らかだ。

無論、待機児童の問題は解消すべき社会的な課題だ。専業主婦の育児ストレスを軽く見るつもりも毛頭ない。しかしながら、そのような問題に対する怒りの矛先を、保護者らに向けるのは筋違いというものであろう。繰り返しとなるが、待機児童問題の解消の一義的な責任は自治体や政府にあるのだ。

ネット上での保護者らへ対する非難の声を聞くと、「元来子育ては大変なんだ、あなたたちも甘えずに大変な思いをすべきだ」的な論調のものが多いように思う。「保育園に預ける=母親が楽をしている」といった短絡的な発想は大変危険だ。「一人早く帰る社員を、その他大勢の残業をしている社員が冷たい目で見る」といった、職場における過重労働にもつながる発想である。悪い方悪い方に相手を引きずり込もうとする危険な論理だ(「一人早く帰る=アウトプットが優れている」可能性を検証することなく「=楽をしている・仕事が少ない」と安易かつ阿呆らしい視点に基づくものである)。

何故訴訟にまで至らなければならなかったのか。女性活用を推進するためには、市としてどのような対応が望ましかったのか。当事者の目線に立ちながら、丁寧かつ冷静に議論する必要があるだろう。願わくば今からでも、真摯な話し合いの場を設けることはできないのであろうか。


【参考記事】
■所沢市「第2子出産で保育園退園」問題-子育て真最中の産業カウンセラー的視点-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45231318-20150619.html

■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html

■パパでも「産後うつ」になります。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)http://sharescafe.net/45143580-20150612.html

■「うつ」は「うつる」のか-職場でメンタル不調者が発生したときに考えるべきこと-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44493262-20150428.html

■保育園の懇談会で感じた、男女別「話の聴き方」のススメ(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44906053-20150526.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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