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最終回・井原高忠の遺言

最近、テレビ屋が書いた本があまり売れていないとある出版社の人に聞いた。これはかつての様な個性の強い怪物テレビマンが姿を消し、中ヒット位で本を出す自称・ヒットクリエーターが中身の薄い本を出版しているからだと思う。また画面に自ら顔を出しているテレビ屋(やむに止まれず出ている方もいるが)はある種のテレビタレント的要素を持っているので、発売直後、書店に並んだ時に名前も顔も知れているので、平積みになり易い事もあるだろう。ただ発売当初、書店の良い場所に置かれていても、お金を出して買った読者は厳しいので、たかがテレビ屋が滑った転んだ成功談・失敗談、程度の話では余程巧妙に書かない限り、いまどきインパクトが無いし、小粒化しているテレビ屋の書いた本は今後も厳しい状態に置かれるだろう。

そんな中、再三紹介している井原高忠著「元祖テレビ屋大奮戦」(文藝春秋刊・1983年発行・現在絶版)は日本のテレビ界に名を残す大物一流テレビマンがじっくりと語りおこした名著であるので、今読んでもどっしりとした読後感が残る。「光子の窓」「11PM」「ゲバゲバ90分!」他、日本のテレビに強烈な影響を与えた井原さんの最終章は「現在のテレビに言いたいこと」という“井原高忠の遺言”の様な文章だが、いま読み返しても古びない強烈な警句に満ちた文章である。(例によって原著の文章を編集の上、採録する。)

「この間も、若手ディレクター、プロデューサーを集めて、大演説したんです。
とにかく、朝から晩まで、なんでこんなに寄ってたかってわめいているのか?
『ズームイン朝』の徳光君なんかは、非常に面白いことを言っても、ソフトでちっともうるさくない。静かに面白いことを言っている。だからいい。あとは押して知るべし。なんで朝からああ叫んでいるのだろう。見てる方は起き抜けですからね。昼になって『笑っていいとも』が始まる。タモリという人は、大騒ぎしても気にならない。他の人は大騒ぎしてうるさいですが、タモリは一種の天才ですからね。うるさくない。

そして夜の番組なんてのは、2流3流タレント集めてワーワーわめいてる。深夜でもわめいてる。今や一種の麻薬中毒みたいに、テレビに出てる人も作る人も、大きな声でワーワー騒いでいないと心配でしょうがないという気がする。

セットもまた、極め付きのひどさですね。ホリゾントの前できっちり照明当てて綺麗にやってれば、いいと思うのに、安手のセットに、電飾つけて、ワーワー、大勢のタレントが騒いでるでしょう。これは正気の沙汰とは思えない。だから、冗談じゃないって言うんだ。テレビっていうのは画面なんだから 、画面で盛り上げればいい。いい絵作れないから、くだらないナレーションを入れて盛り上げようと思ってるんでこれは大間違いだ。」

「朝から晩まで、愚にもつかないことで騒いで、自分の作ったものに自信がないから、出てきた人間に『面白いですね。素晴らしいですね。』って言わせている。そんなの視聴者がいう事であって、出てる奴のいう事じゃないってんだ。そんなのは全部やめろ。

それを辞めると、今度は局の編成の人間が心配でしょうがない。こんなに静かで大丈夫だろうか。こんなにセットがシンプルで大丈夫だろうか?もうみんな全員中毒ですよ。もういっぺんゼロから考えてやれって言ってるわけ。

もちろん中には大騒ぎして視聴率取る番組があってもいい。『オレたちひょうきん族』みたいにある程度才能がある人達が作っていれば。ただね、あれがあたったからといって、才能のない制作者までがコーフンして、全部アレになるというのは異常なんです。とにかく騒ぎまくっていないと、局にいる人は心配でしょうがないんだね。

でも、絶対にそうじゃない。これからはもう、静かで耳触りじゃなくて、言葉が良くて、シンプルで、そして絵で見て見られるものを作った方がいい。」

「テレビ屋はテレビの絵を作る職人ですから、テレビが存在する限りは絵というのものが無くなる訳ではない。だから、絵を作っていくことを根本的に考えるのが、一番大事じゃないかと思うんですよ。もう一つは『言葉の使い方』。例えば『ですね。』という言葉があるが、あんな無駄な言葉は乱発すべきでない。方々のチャンネルで『ですね。』『ですね。』ってやっている。出版なら校正でまっさきに落ちる言葉です。一掃すべきなんです。」

「そして『あれを出すと視聴率が取れます。』とか申しまして、テレビ屋はいろんなものをテレビに出しますね。そしてみんなでそれを真似しますね。だけど、全てのものごとは考えてやらないとダメなんです。要するに自信がないんだよ。『あれをやると視聴率取れます』ってことは、作り手で言うと馬鹿か白痴だよね。視聴率がかりに取れても、やらない方がいいことがある。」

「もちろんテレビ屋で秀でた人もいますが、大部分の人たちはおよそ無考えに、ただワーワーやって、その日暮らしをしている。もう一遍テレビの素晴らしさを思い出してテレビを磨き上げてほしいですね。

昔は、テレビ屋は好きなものを必死でやっていた。映画青年だったら『映画を抜けるようなテレビドラマを作ろう』とか音楽好きは『日本一お洒落な音楽番組を作ろう』とか。かつてテレビって見ていて嫌なものじゃなかった。これが大事なんです。嫌じゃないっていうことが。タレントの悲惨な生い立ちなんかテレビでもって家庭に入れるべきじゃないっていうんだ。

だから『ぼくはやっぱりこれが大好きだ。それでもこれで視聴率取るんだ。』って言ってほしいのね。『ぼくは大好きだ。だけど誰もみません』っていうと、これはやっぱり商売だから、具合が悪い。給料もらってやってるんだから。自分が好きで、なおかつ視聴率がとれるってものを作る努力をもっとしてほしい。 それとテレビの場合、自分の子供に見せても恥ずかしくないってのが、一つの基準じゃないでしょうか。子供は鋭いですし。『オレ達ひょうきん族』の『でたかりディレクター』とか言って大騒ぎしてるじゃないですか。あれはあれなりに、きっと、自分たちの子供にみせたかったんじゃないかと思うの。パパこんなことやってるんだよって。だからよかったんじゃないかとおもうの。 ぼくはそういうふうに思うんですけどね。」

私は井原さんの以上の言葉がとても「痛い」。悪名高い「テレビのひな壇」を最初に作ったのは私だし、ロケVTRを流している間スタジオのタレントさんのリアクションを画面上の小窓に入れたのは私が最初だ。画面をスーパーだらけにもして来た。シンプルとは真逆のゴテゴテしたテレビ画面を作りだして来た。私は井原さんが示唆するのと真逆なことをやって来たテレビ屋だった。流りものに安易に流されず「すべてのことの意味を考えろ」・・・井原さんの警句はいまさらになってしみてくる。手持ちカメラの発達等、テレビは進歩した様に見えるが、この本が発行された1983年から進歩していないのかも知れない。

この際、一度まっさらにして、「すべての意味を考えれば」、最も新鮮な番組が出来るかも知れない。
(了)

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