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東日本復興計画私案(1) ―少子高齢社会のモデル都市をー

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宮城県石巻市の日和山に登る。地震と津波に襲われ破壊された街路で眼にした光景とはまったく異なり、そこでは何事もなかったかのように家屋が整然と並んでいる。太平洋や旧北上川を見渡すことができる場所に佇み、息を呑んだ。広大なる廃虚。表現しようとすれば揮発する。言葉が現実に追いつかない。戦後世代の私にとっては経験したこともない写真のなかの世界だ。ヒロシマやナガサキ。そして空襲で焼け落ちた東京……。しかし眼前に広がるのは、まごうことなき事実である。つい先日まであまたの日常生活が続いていた実時間の強力で暴力的な破壊だ。

 海岸線に長く連なって広がる被災の空間。それをいかにして復興させるのか。江戸時代には地震災害に遭ったとき、関東では「万歳楽」、関西では「世直し」と民衆は唱えた。「鯰絵」に描かれた「地震鯰」が破壊者であるとともに救済者としてのイメージを与えたことにも重なる願望の表明であった。苦境を新生へのきっかけにすることだ。そのためにはまず日本全体のなかで被災地が置かれている現状を出発点としなければならない。言葉を替えれば「少子高齢時代」における創造的復興である。日本は人類史にもまれな高齢時代に入っている。人口に占める65歳以上の比率は23・1パーセント(男性20・3パーセント、女性25・8パーセント。平成22年9月1日。推計人口概算値)。ところが岩手県は27・1パーセント、宮城県は22・2パーセント、福島県は24・9パーセント(いずれも平成22年)。朝日新聞の調査でも死者の55・4パーセントが65歳以上の高齢者であることが判明している(4月10日付)。被災地の高齢化は日本のなかでも進んでいるのだ。医療技術の発達、経済成長による豊かな食料・福祉制度の充実などによって、日本人はいままでに考えられないほど寿命が延びた。高齢化率は2050年には37・8パーセントになると予測されている。こうした時代の大きな枠組みのなかで東日本復興を位置付けなければならない。

 石巻を歩き、出会った被災者の方々に意見を伺った。ある高齢世代の男性は語った。「私たちはここで生まれ、育ってきた。これからどうなるかわからないが、この街を出るつもりはない。でも若い人たちは違うだろうね」。こうした意見が多い。高齢者は被災地に残り、若者は街を出て行く。この傾向は一時的には避けられないにしろ、それでいいわけはない。地震や津波を前提にした生命を守る復興はいかにあるべきか。私は仙台に向かった。4年ほど前の河北新報(平成19年9月4日付)に掲載されたある記事を見つけたからである。「大津波への備え 自らの判断で命を守る」(渡辺慎也)。冒頭にはこう書かれている。

「仙台東部に10メートル超す巨大津波/死者・行方不明者 数万人にも/逃げ切れず次々と波にのまれる/二〇××年×月×日、各新聞は号外にこのような大見出しを付け、未曾有の巨大大津波被害の惨状を報じる」

 「仙臺文化」編集人だった渡辺さんに話を聞いた。地震と津波の予測はなぜ可能だったのか。それは東日本大地震で大きな被害を被った仙台市若林区にある弥生時代の水田跡(沓形遺跡)で津波によって運ばれた海の砂が層になって発見されたこと、貞観津波(869年)があったこと、そこから大津波の周期性を勘案したところ、2010年から2210年までの200年間に再来がありうると判断したからだ。その論考のなかで眼にとまった部分がある。「直ちに行動しても、残念ながら避難場に恵まれないことが、仙台東部の特性でもある」「町内ごとに二十メートルの津波に耐え得るよう八階建て以上の集合住宅」(拠点避難場所)を設けるべきで「最上階には津波防災設備を施した『地域民集合室』」を置くべきだと提案している。「地域民集合室」は電源と通信機能を備え、食料、毛布、医療用品、簡易トイレなどを備蓄しておく。

 渡辺さんは東日本の復興防災都市構想について「住民から意見を公募すればいい」という。仙台は戦災復興が速かった。渡辺さんも「焼け跡がすごいスピードで変わっていった。とくに青葉通りの広さには驚いた」と回想する。「私権」を制限してでも復興計画を進めた当時の岡崎榮松市長の強力な指導力があったからこそできたことである(注1)。関東大震災時に後藤新平がアメリカの都市計画家チャールズ・ビアードから「新しい街路を設定せよ、その路線内の建築を禁止せよ、鉄道駅を統一せよ」と電報でアドバイスされた手法を実行したのだという。(続く)

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