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「中立から介入へ」 南シナ海における姿勢を変化させるアメリカ - 岡崎研究所

米外交政策研究所のチャン上席研究員が、National Interest誌ウェブサイトに5月16日付で掲載された論説にて、米国は南シナ海でより強い態度を取ることに決めたのかもしれない、と述べています。

 すなわち、過去40年の米国の東アジア海洋紛争に対する態度は、1970年12月31日に起草された電報に負うところが大きい。当日複数の中国の巡視船が米国の石油探査船Gulftrexを追尾していた。米国務・国防両省が対策を協議したが、軍事力でGulftrexを保護しないこととした。米太平洋司令部に送られた電報によれば、決定の前提は、米国は地域の海洋紛争では中立を守るという想定であった。

 この想定は、その後何十年にもわたり、南シナ海を含む地域の海洋紛争に関する米国の政策を形づくった。

 5月12日、米国はこの政策を変更しようとしたように見えた。国防省当局者によれば、カーター国防長官は、南シナ海の航行の自由を保障するため、南シナ海で中国が領有する島の12海里(22キロ)以内に米船舶と航空機を送る、などの選択肢を要請した。これには先例がある。1980年代にリビアがシドラ湾の支配を要求したとき、またペルシャ湾でイランが国際航行を妨げた時、米国は船舶、航空機を送った。

 米国が南シナ海の紛争に関与しない政策を取っているのは、オバマ政権の外交姿勢の反映である。エジプト、シリア、クリミア、東ウクライナなどのほぼすべての危機で、オバマ政権は、自らと米国の利益に確信を持っていないようであった。その政策は混乱し、揺れ動くものとして見られた。

 このような状況の下で、中国は自らの目的達成のため、米国が断片的に不快感を表わすのを無視できると考えた。中国は、東南アジア諸国に対する米国の軍事的関与の控えめな増加でも、米・フィリピン間の高度防衛協力協定の締結でも、態度を変えなかった。昨年12月に国務省が南シナ海紛争に初めて直接介入し、中国の要求の根拠に疑問を投げかけたが、中国は米国の警告に耳を傾けるどころか、南シナ海での土地の造成を加速化させた。中国は明らかにオバマ政権の中国政策の信憑性を疑っている。

 米国は今南シナ海における中国の行動に対応しなければならないという、困った立場に立たされている。米政府は南シナ海でより強い態度を取ることに決めたのかもしれない。中国が米国のことをより真剣に考慮ことを希望するが、もし中国が米国の決意を試そうとするなら、米国は軍事力の行使の準備もすべきである、と論じています。

出典:Felix K. Chang,‘Is America about to Get Tough in the South China Sea?’(National Interest, May 16, 2015)
http://nationalinterest.org/feature/america-about-get-tough-the-south-china-sea-12901

* * *

 カーター国防長官が、南シナ海の航行の自由を保障するため、米船舶と航空機を送る選択肢を要請したことを根拠に、南シナ海での中国の行動に対し生ぬるい態度しか示さなかった米国の政策が変わるかもしれない、と言っている論説です。

 重要なことは、米国が、南シナ海でのこれ以上の中国の勝手な振る舞いは許せないと判断し、それに基づいた行動を取るかどうかです。米国は、中国が建設した人工島近辺にP-8「ポセイドン」哨戒機や沿海域戦闘艦を送っています。カーター長官の要請通り、12海里以内に立ち入るかどうか、また、米軍の航空機と艦船を今後も継続的に派遣し続けるかどうかが、次の焦点と言えるでしょう。

 これは、オバマの決断にかかっています。オバマは長らく中国との関与を優先しようとしてきました。しかし、中国の行動はオバマの期待を裏切るものでした。「アジア回帰」を標榜する一方で対中関与を重視してきたオバマの姿勢が、中国を増長させた一因になっていると思われます。

 6月12日付本欄でも紹介した通り、最近、米国の対中国関与政策を支持する対中協調派の中心人物であった中国専門家ピルズベリーが、自らの著書の中で「自分の対中認識は間違っていた。中国に騙されていた」と述べ、評判になっています。このような対中認識の変化は、米国の官民を問わずに見られ、今後広がり、強まっていくものと思われます。それは米国の対中政策の変化をもたらさざるを得ないでしょう。

 ASEAN関連の会議や、シャングリラ対話(アジア安保会議)といった、アジア太平洋の国際会議だけでなく、6月のG7でも、南シナ海問題、航行の自由に大きな焦点が当てられました。南シナ海をめぐる情勢は、曲がり角にさしかかっていると言えそうです。

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