米人気歌手のテイラー・スウィフトは21日、著作権使用料と無料の音楽配信をめぐるアップルとの争いで勝ち点を挙げたが、この快挙の本当の意義はまだ明らかにされていない対価の詳細にかかっている。
一方、アップルにとっては、当初思われていたより大きな痛手ではないかもしれない。テクノロジー業界の巨人である同社にすれば関連費用は微々たるものにすぎない上、速やかに方針転換したことでエンターテインメント業界から好意を勝ち取った可能性がある。
アップルは21日夜、30日に始動する定額制の楽曲ストリーミング(逐次再生)サービス「アップルミュージック」の方針を一転。3カ月の無料お試し期間中はアーティストに印税を支払わないとする案を撤回した。
これは、スウィフトがアップル宛ての公開状で抗議したことを受けたものだ。スウィフトは3カ月印税を支払わないとする方針について「ショックで失望した」と非難し、大勢のアーティストやプロデューサーの不満に加勢した。スウィフトは交流サイト、タンブラーの投稿で「私たちはiPhone(アイフォーン)の無償提供など求めない。音楽を見返りなしに提供するよう私たちに求めないでほしい」と述べた。
今後の問題は、アップルが楽曲の1回の聴取に対して、いくら支払うかだ。スポティファイやアールディオなどのストリーミングサービスは、各月の定額利用料総額をその月の聴取数で割った額を印税単価としている。スポティファイの昨年12月の米国の印税単価は1聴取当たり0.68セント(約0.84円)だ。
販促期間中のレコード会社やアーティストへの対価の支払い方法はサービスによって異なる。音楽業界関係者によると、例えばスポティファイは3カ月99セントのお試し期間を設けているが、その間は通常の印税の半分を支払っている。
スポティファイは無料の広告付きサービスも提供しており、この印税単価は有料サービスの約5分の1。無料サービスの12月の米国の印税単価は1聴取当たり0.14セントだった。
スポティファイが音楽出版社に公表しているデータによると、スポティファイの12月の印税支払額は有料サービスが総額2570万ドル、無料サービスが580万ドル。
アップルがお試し期間中に支払う印税額がスポティファイと同程度だとした場合、スウィフトの抗議によってアップルミュージックの立ち上げ費用は数千万ドル増える可能性がある。といっても、アップルにとっては取るに足りない額だろう。同社の1-3月期(3月28日まで)純利益は136億ドルで、手元キャッシュは1930億ドルだ。
アップルは、お試し期間中の支払金額については言及せず、顧客が定額料金を支払い始めた時点で印税単価は上がるとだけ述べた。サービスの利用から3カ月は印税単価のベースとなる顧客からの定額料金の支払いがないため、アップルは別の算出方法を発案し、近くそれを音楽会社に通知する見通しだ。
アップルは故意に安い額を提示したとみなされれば、スウィフトなどのアーティストから怒りを買う恐れがある。
スウィフトはアップルの方針転換について、短文投稿サイトのツイッターに「喜んでいるし、ほっとしている」と書き込んだ。ただし、最新アルバム「1989」をアップルミュージックで配信するかどうかはコメントしなかった。ダウンロードとCD売り上げを保護するため、スウィフトは同アルバムを定額制音楽配信サービスでは一切提供していない。
レコード会社のビッグ・マシーン・レーベル・グループは、「1989」をアップルミュージックで配信するかどうかは言及しなかった。
By ETHAN SMITH and DAISUKE WAKABAYASHI