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講演会「中国の現状と課題」

過度の被害者意識捨て尊厳獲得を
根強く残る100年の屈辱


共産党一党支配の中国にも当然、多様な意見がある。1840年のアヘン戦争以降、約100年間の屈辱の歴史に対する過激な被害者意識が、今後の中国の発展に足かせになりかねない、といった指摘もそのひとつだ。5月末、東京・赤坂の日本財団ビルで行われた講演会「中国の現状と課題」でも、中国の若手研究者が同様の立場から「(中国は)怨恨、被害者意識を捨てない限り尊厳は得られない」と述べ注目された。

大国が大国たり得るには、各国から信用され尊敬される “品格”が必要である。国際社会は、躍進する中国の経済力や軍事力を認めつつも、強引な外交姿勢を前に、この国が今後、どこまで国際社会のリーダーになり得るか、不安と期待の眼差しで見守っている。

過度の愛国心や被害者意識は国内の不満をそらすため政権によって利用されてきた面もある。経済格差が拡大し国民の不満が高まる中で、一層肥大化する可能性も否定できない。若手研究者のような冷静な意見こそ、この国には必要ではないかー。今後の日中関係を占う意味でも注目に値する。

講演会は笹川平和財団笹川日中友好基金と中国の共識傳媒集団(周志興総裁)が共催した。「中国の政治外交、経済、社会分野などで活躍し、政策決定や世論形成にも影響力を持つ」中国人若手研究者4人が講演に立ち、「被害者意識」に関しては北京外交学院世界政治研究センターの施展主任が「“一帯一路”戦略と中国の世界歴史責任」の演題で取り上げた。

この中で施主任は中国政府が経済、外交政策の柱とする現代版シルクロード・一帯一路 に言及する形で、中国が国を越えた普遍的価値である「公共財」を世界に提供するには何が必要か、述べた。慎重な言い回しを筆者なりに解釈すれば、中国が国際社会の尊厳を得るには、狭いナショナリズムから国を越えて地域の安定や発展に貢献する世界主義へシフトすることが不可欠。そのためにもまずは中国社会に内在する被害者意識を捨てる必要がある、といった論旨だったと思う。

戦後70年、中国は世界第2位の経済力と強大な軍事力を備え、十分、世界の大国となった。そうした中で「この国が長い歴史の中で世界の中心であった」というプライドが膨らみ、一方でアヘン戦争から約1世紀間、欧米諸国や日本に侵略された歴史を屈辱と捉える「被害者意識」が強まっているのだという。

習近平国家主席が掲げる「中華民族の偉大な復興」に刺激された愛国主義の高揚、全体の収入水準は上がっているものの所得分配の不平等さを示す指標であるジニ係数が「慢性的暴動の危険がある」0・5を超えたともいわれる格差拡大に対する不満が影響しているのかもしれない。

しかし、これでは世界のリーダーに相応しい品格を身に付けることは難しい。施主任は「中国が被害者意識を捨て責任ある影響力を行使しよりよい国際環境を手に入れることが中国の利益になる」とするとともに、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しても「もう一つの“炉”ではなく、アメリカと協力して正義の世界秩序となり、国際経済貿易の新しい秩序を推進することにある」としている。

Webを検索すると、同様の意見は2010年10月、中国共産党機関紙・人民日報系の国際情報紙「環球時報」にも掲載されていた。中国人民大学国際関係学院・東昇副教授の寄稿「過激な被害者意識は国の復興を防げる」がそれで、「今の中国に国が滅ぼされるという危機感も焦燥感もない。それなのに100年前の国辱が植え付けた『被害者意識』だけは根強く残っている。・・台頭する大国として列強と心穏やかに肩を並べるには相応しくない」などとしている。

政権内部にもこうした意見が根強くあるとみられ、中国人の友人によると、過度な愛国主義や被害者意識を中国の今後にマイナスと見る意見は近年、増える傾向にあるという。

何度か中国を訪れ、政府に近い関係者と話す機会もあった。日本を“加害者”と見る歴史認識の中で、日本人として、同じ考えを声高に問うのを差し控える気分があったが、無用な遠慮だったかもしれない。(了)

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