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<できの悪い小説をなぜ出版するのか?>元少年Aの「絶歌」は手記のはずなのに、「小説」のようだ

リチャード・ディック・ホークスビーク[古書店経営]

***

「勤勉な郵便配達人のように花から花へと花粉を届けるモンシロチョウを見ても、アクリル絵の具の塗り潰したようなフラットな青空や、そこに和紙をちぎって貼り付けたような薄く透き通った雲を見ても、そのすべてが僕を蔑んでいるように感じた(太田出版「絶歌 元少年A」p.17)

どうだこの、過剰な比喩。元少年Aは比喩の虜になってしまったようだ。全般に漢字も多い。例えば、「塒」はなんと読むのか、ああそうか。これは「ねぐら」だ。(「トグロ」とも読む)

象徴に「象徴(カオ)」とルビを振り、本性には「本性(ケモノ)」とるルビを振るセンス。古書店をやっている筆者も開いた口がふさがらない。

こういう文体のせいだろう。読んでいるウチにこれがノンフィクションではなく「私小説」のような気がしてくる。私小説とて、事実を書くわけだからと思いつつ読み進むと「私」が取れて、小説のような気がしてくる。小説ならばそこにはフィクションが入っている。しかもこれはあまり出来のいい小説とは言えない。佳作にさえ入らない。

出版の是非に関する論議に、筆者は興味がない。

筆者は本書を、少年Aがどんな精神鑑定を受けたかが知りたくて購入した。しかし、その記述はごくわずかだった。ただ、興味深いのは少年Aが、イメージと情報と言葉で、闘志を持って鑑定医と対峙したとする点である。

「見抜かれてたまるか」と言うことである。鑑定医の皆さんが思っている「異常快楽殺人者」のイメージ通りに演じて見せましょう、と言うことだ。鑑定医と少年Aとのあいだに共感は築かれておらず、記述通りだとすれば鑑定医の敗北である。

ただし、少年Aは、鑑定医が下した「性的サディズム」との診断には異を唱えない。鑑定医の前で演じきったからではなく、そう自認するからである。

少年Aが、32歳になる現在まで心引かれたものとして取り上げている事物を羅列しておく。

  • 松任谷由実 「砂の惑星」
  • フロイトの「エロスとタナトス」
  • 三島由紀夫「金閣寺」
  • 大藪春彦「野獣死すべし」
  • 古谷実 「ヒミズ」
  • 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」
  • 村上春樹「トニー滝谷」
  • ヴィクトル・ユーゴー「レ・ミゼラブル」
  • 中宮寺「弥勒菩薩半跏思惟像」

単純労働をして本ばかり読んでいると無性に文章が書きたくなる、そういう経験をしたことはないだろうか。筆者は、昔、旋盤工のバイトを一ヶ月続けたとき、そうなって、書いた。できあがったものは、実に鼻持ちならないものであったと記憶している。

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