和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲したイルカを水族館が入手しているのは倫理規定に違反するなどとして、世界動物園水族館協会(WAZA)から会員資格を停止された日本動物園水族館協会(JAZA)が、会員施設による追い込み漁イルカ入手を禁止し、WAZAに残留することを決めた。
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WAZAの強硬姿勢に「伝統文化であるイルカ漁の否定だ」「欧米の価値観の押しつけだ」という反発の声が上がっている。欧米からの批判の中に、日本への感情的な反発があることは否めないが、背景には、イルカ漁だけでなく、水族館や野生生物のショーに対する認識の、日本と欧米との大きなギャップがあると言える。問われているのはむしろイルカ漁ではなく、日本の水族館のあり方なのだ。
JAZAは自らの目的として種の保存、教育・環境教育、調査・研究、レクリエーションの4つを挙げる。だが長年、レクリエーション中心の経営を続けてきた日本の水族館は、欧米先進国の施設に比べ最初の3つに関する取り組みは遅れている。
日本の水族館で絶滅危惧種の保存に関する展示などは極めて少ない。「イルカショーをやらない水族館」を標榜し、調査研究にも力を入れている福島県の「ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)」などはまれな例だ。
一方、シャチのショーで有名だったカナダのバンクーバー水族館は2001年、シャチの飼育を中止。多額の資金を投じ、野生のシャチの調査や園内の環境教育プログラムを充実させた。米国のモントレーベイ水族館は、世界の漁業資源に関する研究や持続可能な漁業・魚食を目指す活動で知られる。
欧米では野生捕獲のイルカ類の展示が例外的となっているのも日本の水族館との大きな差である。欧州連合(EU)では1997年以降、野生イルカの捕獲と取り引きが厳しく規制され、スイス、英国などイルカ飼育施設自体がない国も多い。米国でも72年の海洋哺乳類保護法によって水族館による野生イルカの捕獲は厳しく規制されている。欧州の環境保護団体の13年の報告では欧州で飼育されているイルカの数は323頭で、その75%が人工繁殖個体だ。野生個体は82頭にとどまり、減少傾向にある。これに対し日本の保護団体のほぼ同時期の調査では、国内の飼育頭数は約590頭。10年前に比べ18%増で、その90%近くが野生捕獲のイルカである。
日本の水族館が今回の事態の結果、直面することになった根源的な問いは、日本の水族館がイルカのショーに代表されるレクリエーション施設にとどまるのか、種の保存や調査研究、環境教育などの重要課題に力を入れる施設に変わるのかというものだ。
それは水族館に行く利用者が向き合うべき問題でもある。単にショーを見るために金を払うのか、自分の払う金が、一部ではあっても野生生物のために使われてほしいと望むのか。今回の問題を熟慮のきっかけにすべきだろう。