記事

「私は信じる」豊田社長のメッセージ

トヨタのアメリカ人女性役員ジュリー・ハンプ氏の麻薬密輸容疑での逮捕を受け、豊田章男社長が会見を開きました。

ラジオでこの会見を聞き、豊田社長の「ハンプ氏を信じる」と繰り返しおっしゃった様子に非常に感銘を受けました。

会見でまず豊田社長は「世間をお騒がせして申し訳ない」と謝罪した後、「今は仲間を信じ、真実が明らかになるように当局の捜査に全面的に協力することです。ハンプ氏が法を犯す意図がなかったということが明らかになることを信じています」と、彼女の無実を信じる発言を、一言一言をかみしめるように繰り返しました。

彼女が本当に意図して法を犯したのかどうか、現時点では逮捕した警察も含め誰にもわかっていません。また、今後ハンプ氏が起訴されたとして、裁判で最終的に有罪が確定するまでは、犯罪者ではなく「被疑者」にすぎません。しかし、逮捕の時点で既に彼女はほぼ犯罪者のように扱われ(例えば、テレ朝NEWSではハンプ氏を「役員の女」と呼んでいます)、マスコミや世間の厳しい視線は「なぜ犯罪者を雇ったんだ?!」と本人にとどまらず、トヨタという会社にも牙をむいてきます。

もしもハンプ氏が本当に有罪であったケースのことを考えれば、「こんな人物を雇ってしまって申し訳なかった」と逮捕時点でトカゲの尻尾切りをすれば、会社の受けるダメージは最小限にとどめられるかもしれません。

しかし、豊田社長はそうしませんでした。世界で数十万人の従業員の生活を支える企業のトップとしての立場をじゅうぶんわきまえた上で、「ハンプ氏を信じる」と言い切ったのです。それどころか、「ハンプ氏が日本になじもうと努力される中で、サポートが十分だったか私を含め、解明に努めたいと思います」と、ハンプ氏をかばい、今回の逮捕がまるで自らの過失であったかの発言さえされました。

世界有数の大企業のトヨタと比べるべくもありませんが、同じ一経営者として、私には今回の豊田社長の発言はとても他人事とは思えません。

例えばお客様から我が社のスタッフのミスだとクレームがあったとき、社員の言い分も聞かず「申し訳ない」とすぐに謝り、すべてをその社員のせいにすれば会社の受けるダメージは最小限ですみます。しかし、実際の現場ではそうでないケースも往々にしてあります。よくよく社員の言い分を聞けば、お客様に非があるケースも多々あり、よしんば本当にその社員に非があったとしても、往々にしてそうなってしまった過程には、やむにやまれずそうせざるを得なかった背景があるケースもなきにしもあらずなのです。

そんな時、社員にすべての罪をきせてお客様に上司が謝罪をすれば、事は丸く収まるかもしれませんが、それによってその社員は深く傷つき、また、他の社員にも「会社は社員を守ってくれない」と思わせてしまうことが多いのではないでしょうか。

しかし逆に、社長が会社の命運をかけて「信じる」と言いきってくれたら、その社員のみならず、他の社員さえも会社に対し「この会社の社員でいてよかった」と思うでしょう。少なくとも私であれば、そういう上司や社長の下で働きたいと思います。その意味で、「信じる」という豊田社長の言葉はハンプ氏のみならず、トヨタの全ての社員たちに向けた「私はあなたたちを信じる。私たちは仲間だ」というメッセージだったと思うのです。

4月に着任したばかりでまだホテル暮らしをされていたというハンプ氏は、慣れない異国でいきなり逮捕され、いま現在、この日本の地でたいへんな不安と試練の時を過ごされていると思います。彼女を直接知るわけではないですし、本人が故意に日本の法を犯したのか私に知るすべはありませんが、豊田社長が会社と社員の未来を賭けて「信じる」と言い切ったハンプ氏が、自らの潔白を証明し、無罪放免されることを願ってやみません。

あわせて読みたい

「トヨタ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。