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法科大学院をめぐる「朝日」社説論調の苦しさ

法科大学院について、朝日新聞が久々に6月17日の社説で取り上げています。しかし、その内容はいつもながら首を傾げたくなるものです。とりわけ、今回についていえば、現在の「改革」路線の無理と苦しさを、推進論調の中でさらしているという印象を強く抱かせるものでした。

校数の絞り込み、修了者7割合格に向って、年司法試験合格「1500人」を掲げ、合格不振校の強制閉校の措置も視野に、立て直しを目指す政府改革案。「確かに」入学志願者数は、落ち込んでいる。敬遠傾向の原因はカネと時間をかけても受からない法科大学院の現実と、受かっても就職難で将来の見通しがきかない業界の現実。社会のニーズを踏まえた合格者見直しも理解でき、受験要件化がある以上、法科大学院に合格実績が期待されるのは当然――。

さすがに「朝日」も、無視できない法科大学院をめぐる現実。しかし、ここまでの現状認識を示しながら、「朝日」は、このあとこれをなんとか「改革」路線維持の方向にもっていこうと試みます。

「だが、法を通して公と私のあり方や大学の自治を学ぶ場が、閉校や補助金削減といった政府の圧力に常にさらされているのは好ましいことではない。加えて、合格実績ばかりを重視すれば、法科大学院の受験予備校化が避けられまい」

「朝日」はこれに加え、お決まりの旧試「一発試験」からの脱却という原則論と、法学部出身者以外の「多様」性確保という理念を挙げ、「未修コース」の不振を嘆き、社会人が通える夜間・休日指導などの実践を求めています。

しかし、いうまでもありませんが、「朝日」のこの展開は前記現状認識とはちぐはぐで、その解決への道を示していないばかりか、全くかみ合っていない。むしろ、現状を無視しているようにすら見えます。「政府の圧力に常にさらされている」のが問題といっても、そこまで追い込まれているのが法科大学院の現実です。「受験予備校化」を懸念しても、時間とカネをかけて「受からない」制度に「価値」を見出せないことが、「確かに」存在する志望者敬遠につながっていることは、「朝日」も認めている通り。「一発」批判と多様性の意義を繰り返すのはいいですが、旧試に比べ、意欲ある社会人のチャレンジを明らかに阻害するプロセス強制に対し、効果ある是正策を打ち出せなかったのがこの制度の実績です。それを考えた時、「未修コース」の根本的な無理を度外視して、「夜間・休日指導」でなんとかなるとることができるのかー―。

しかも、このあと「社会のニーズ」を踏まえて合格者見直しに理解を示したはずでありながら、本心では増員路線を維持したい「朝日」は、この点でも、相当無理な論を進めます。司法過疎解消、法テラスの整備を増員政策の「成果」とする認識を示したうえで、さらなる増員必要を示唆してこう書いています。

「それでも特殊詐欺などに巻き込まれる人、ストーカー・DV被害に悩む人は絶えない。助けがいる人に無料相談などの情報が届きにくい現実もある」
「法律家の保護でなく、市民が使える法律サービスが十分かどうかの観点から、今後の法曹人口を柔軟に考えていくべきだ」

当ブログのコメント欄でもご紹介頂いていますが、この点については猪野亨弁護士が自身のプログで徹底的に批判されていますので、是非、ご覧頂ければと思います。要は、特殊詐欺も、ストーカー、DV事件も弁護士人口の問題ではなく、警察、自治体、弁護士の協力関係のもと、迅速に安全対応が求められても、弁護士増では解決しない。ストーカー、DV事件に関する法テラスの資力要件撤廃も一種の民間委託だが、本来警察が全力で対応すべきなのだ、ということです。

特殊詐欺、スト―カー、DV事件への対応のために、これまで同様に弁護士増員政策の継続が必要とする意見は、企業ニーズなどを強調する弁護士会内の増員肯定派のなかからもほとんど聞こえてこない話です。「朝日」はあくまで増員基調の根拠を「市民サービス」の必要性で説明しようとしますが、たとえそれが存在しても、弁護士の努力に丸投げした増員政策だけで支えることの無理は、既に「改革」が実証しているのではないでしょうか。それを無視しているばかりか、今回の例示に関しては、猪野弁護士が指摘するように、筋違いともいえる、いかにも苦しい印象を持ちます。

「法律家の保護でなく」と、「朝日」は増員基調を見直す方向が、あたかも法律家の自己保身に基づくという印象を与える表現をしています。しかし、前記した無理を考えれば、「朝日」が期待するような「市民サービス」に対応できる、あるいはそうした意欲を持った弁護士を現実的に減らす方向に作用しているのは、ほかならない「改革」路線なのであって、客に市民のために「法律家の保護」が必要という観点があっても、少しもおかしくありません。

なぜ、「朝日」がこんなに苦しい主張を展開しているのかについて、もはや説明する必要もないように思います。法科大学院と増員政策の正しさと無理を疑わない。疑わせまい――。伝わってくるのは、そのことに対する「朝日」の並々ならぬ強い思いだけです(「『前提』を疑わない『前提』」)。

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