前渋谷区長の娘という地盤を持ち、与党から盤石の支援を受けて出馬した現職都議会議員と、野党が相乗りして擁立した野党候補という強力なライバルを破り、下馬評を覆して無所属・無推薦で勝利した長谷部健前区議会議員。
得票数2万5千票、次点との差はわずか3000票という接戦を制した裏側には、ネット選挙における貴重な体験が残されているのではないでしょうか。
今回は「勝つ!政治家.com」さまのアレンジで、長谷部陣営でネット選挙を担当した加生健太朗さん・土井隆さんとお会いする機会を設けていただきまして、その舞台裏を、余すところなく伺いましたので、早速、ご紹介していきたいと思います。
■使用するツールは絞り込む!公式HPとFacebookの2つだけ
まず最も印象的だったのは、使用メディア・ウェブツールを限定した決断です。ネット選挙に力を入れなければ!ということになると、
「まずは公式HPのリニューアルだ」
「FacebookとTwitterもしっかりやらないと」
「最近はLINE@っていうのがあるらしいぞ?!」
「インスタグラムはどうする??」
など、様々なメディア・ウェブツールに手を出しがちです。それぞれに明確な戦略と強みを持っているならそれも良いのですが、得てしてすべてが中途半端に終わっているケースが多いように思います。
加生健太朗/PRプランナー
※ 選挙前には弊社のセミナーにもお越しいただき、知見を深められていました。
http://katsuseijika.com/lecture/
選挙のわずか1ヶ月前に参戦を表明した長谷部陣営は、時間と現状を客観的に分析。アレもコレもと手を出すより、「ネット上のチラシ」としても機能し、プロフィールをしっかりアピールできるHPと、コミュニケーションツールとして最も適したFacebook、この2点にのみ絞り込むことを決めたそうです。
「選択と集中」
と言うのは簡単ですが、選挙のような「何でもアリ」の場で、何かを捨てるという決断をするのは非常に難しいもの。ネットという一見「(金銭的な)コストがかからない」分野こそ、限られたリソース(マンパワー)を集中して投下することが大事なのかもしれません。
■ 長谷部健さんのFacebookページとホームページのアクセス数
・選挙期間中のFacebookページのいいね数「2,685いいね!」
・選挙期間中のFacebookページのリーチ数「198,012リーチ」
・選挙期間中のホームページのアクセス数「13,528」
・選挙期間中のホームページのアクセス数渋谷区のみ「12.2%」
■ネットは「コミュニケーションツールとして」活用する
さらに絞り込んだメディアを、彼らは使い方も限定していきます。大きく分けると選挙においてネットは
・メディアとしての使い方
・コミュニケーションツールとしての使い方
の二種類の用途があります。前者はいわゆる「情報発信」で、こちらから伝えたい政策や信条・想いなどを記事や動画にして配信し、多くの人に届けようと努めるもの。
一方で後者は、候補者陣営と支援者、あるいは支援者同士が交流をする場としてネットを活用する使い方です。この中で自然と候補者すら予期しなかったやり取りが生まれ、その情報が「拡散」していくことがあります。
長谷部陣営が重視したのはまさに後者で、メディア的な使い方は自慢のHPとクオリティにこだわった動画を作った程度。あとはコミュニケーションツールとしてもっともすぐれたFacebookを核として、支援者たちとの交流に重きを置いて情報発信・やり取りを続けていたそうです。
土井 隆/株式会社コアース 代表取締役社長
その結果、陣営ではない第三者から好意的な情報発信が生まれるなどの事象も起こり、自分たちがメディアとなって発信するよりも多くの支持を獲得できたとのこと。
「渋谷区長選の超絶ジャイアントキリング」
http://agora-web.jp/archives/1639908.html
「急がば回れ」的な発想かもしれませんが、「拡散希望!」などとメディア的な発信をしているだけでは、なかなか情報は広がって行かないもの。まずは目の前にいる支援者を大切に、質の高い情報を地道に発信していくことが、実は「拡散」につながる近道なのかもしれません。
■とにかくポジティブな情報だけを発信する!
3つ目として、長谷部候補本人からの強い希望もあって、とにかく「ポジティブな情報」「読む側が楽しくなる・嬉しくなるような情報」だけを発信するように心がけたそうです。
ネット選挙においては、対立候補へのいわゆる「ネガティブキャンペーン」も許されていますから、時としてそれを大々的に行う候補がおり、先の参院選ではそれで当選した候補が「ネット選挙の成功例」ともてはやされたことがありました。
でもそれって、なんだか悲しいことですよね…足の引っ張り合いというか、そんな選挙をして勝ち抜いても、候補者も有権者もレベルアップする気がしません。
なので、若干精神論にはなりますけど、このような「正々堂々とした」心掛けのネット選挙陣営の勝利は、選挙という世界においても喜ばしい事例になると思います。
■まとめ~みんなで長谷部候補のようになろう?!~
最後に、とにかく担当者の方々が「これは長谷部という候補だからできた手法だと思う」と繰り返していたことが印象的でした。確かに「メディアとして」ネットを使うだけならば、お金を積んで選挙直前にネットコンサルでも雇えば、どんな政治家でも行うことができます。
しかし見てきたように、「コミュニケーションツールとして」ネットを使うことは、一朝一夕にはできません。長谷部候補には12年間で積み上げた多数の実績があり、その中で築いてきた確かな人脈と支援者がおり、それらのすべてが「ネット」という空間を通して有機的につながった…というわけです。
これは確かにその通りで、私も過去記事において何度も「しっかりしたネット発信ができている政治家は、普段の政治活動が充実している証拠」と繰り返してきました。「長谷部さんにしかできない」のではなく、「すべての政治家が長谷部さんのようなネット活用ができるように」政治活動をするようになったとき、政治の世界とコミュニケーションは激変するのではないでしょうか。
私自身の彼らの体験を聞き、非常に勉強になりました。3期12年を全うした長谷部現区長のような政治家になれるよう、私も努力をして参ります!本日の記事が、多くの政治家の皆さまの一助となれば幸いです。
それでは、また次回。
画像を見る東京都議会議員(北区選出)
おときた駿1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンで7年間のビジネス経験を経て、現在東京都議会議員一期目。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、地方議員トップブロガーとして活動中。 おときた駿公式ブログはこちら
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