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韓国MERSに関心がない欧米 感染症学は植民地経営のために発達した - 村中璃子

村中璃子 (医師・ジャーナリスト)

「MERS感染拡大 韓国政府は悪くない」というタイトルで、記事をウェブに出してから10日あまり。私がこれまでに書いた感染症もののウェブ記事の中で、これほど騒がれたものもない。タイトルだけ見て好きなコメントをする人が多かったが、きちんと中身を読み、正しく評価してくれる読者もたくさんいた。

インフルエンザとは違い「知らない間に罹ること」はない

 10日間で確認された感染者数は5倍に、そして、死者数は7倍になった。しかし、幸いにも、MERS(中東呼吸器感染症)は相変わらず「当初の予測を超えない範囲」で流行している。

 韓国における最初の患者が、中東のどこでどのように感染して来たのかは未だに特定されていない。また、患者を搬送した救急車の運転手が感染していることなどから、「MERSの感染力は意外とあるのかもしれない」との印象も受ける。しかし、最初の患者をのぞけば、3次感染でも4次感染でも、患者が感染した機会は分かっている。

 やはり、MERSはインフルエンザのような「知らない間に罹っていた」というような病気ではないのだ。この事実は世界中の科学者や政府関係者に絶対的な安心感を与えている。

 遺伝子解析の結果、現在韓国で流行しているMERS株は、中東で流行しているものと何ら変わりがないことが分かり、突然変異して毒性や感染力を強めている可能性は否定された。もちろん、これはMERSが今後も突然変異しないことを約束することではない。しかし、韓国での流行が突然変異を理由に起きているのではないという証拠は、国際社会にとっても非常に心強い安心材料である。

 韓国における最初の患者が「風邪にかかったかもしれない」と、最初の医療機関を受診した日(5月14日)から1カ月。現在までに確認された、韓国人のMERS感染者数は150名、死者数15名になった(6月15日、WHO発表による)。

実際の致死率は10%以下の可能性

 前回の執筆記事「MERS感染拡大 韓国政府は悪くない」の中で予測した通り、感染者は次々と「発見」され、その数は3桁にのぼった。しかし、現在の韓国における致死率はちょうど10%。当初、40%と言われた致死率とは異なり、死者数を感染者数で割り算することのできる人であれば、感染者数の数が増えるにつれ、理論上の致死率が日々落ちていることに気づくはずだ。

もちろん、10%という致死率でも「ただの風邪」にしたら十分に高い。しかし、症状が出ないため、あるいは症状が軽いために検査せず、MERSと確定しない人がまだ相当いることを考えれば、この10%という数字がまだまだ過大評価の可能性もある。新型インフルエンザの致死率も当初は極めて高いとされたが、最終的には0.45%以下との計算になった。(注)

 韓国のMERS報道で面白いのは、「どこまで感染が広がったのか」については色々騒がれるのに、臨床経過や治療・予防についての報道が少なく、病気としてのイメージが持ちにくいこと。防護服を着用していた医療感染者が続々と感染し、短期間で亡くなるという報道や、治療薬に関する報道を毎日聞いたエボラ出血熱と比べると、一般の人にとってもだいぶ「コワくない」病気だ。

 欧米のメディアでも、韓国のMERSは「国際」欄の「アジア」で大きく取り上げられることはあっても、テレビや新聞のトップで報じられることはまずない。WHOのウェブサイトでの扱いも小さく、「流行収束には時間がかかるだろう」と関係者がコメントすることがあっても、事務局長やスポークスマンが国際社会に注意や協力を呼びかけることはない。

「極東」で起きているローカルな流行

 国際社会にとっての「脅威」とは、あくまでも欧米社会に危機が及ぶ可能性のこと。植民地関係の歴史があり、本国から遠く離れたアフリカやアジアから「得体のしれない病気」がやってくる、という構図が存在しない限り、韓国で広がろうが、中国に患者が出て行こうが、グローバルには存在しないのと同じ。韓国が悪かろうがなかろうが、所詮は「極東」で起きている対岸の火事なのだ。

 そもそも、感染症学という学問は、プランテーションで働く労働者の生産性を保つために発達した学問だ。欧州では広大な植民地をもつイギリスとフランスを中心に、アジアでは、植民地での結核やマラリアのコントロールで苦戦した日本で発達した。旧植民地アフリカからの移民を国内に抱え込む欧米にとって、エボラ出血熱は脅威のそのものだった。しかし、MERSが中東から出てアジアで局地的に流行したところで関心の対象とすらならない。

 今回の韓国のMERSに対しては、国内に多くの韓国人を抱え、往来も多い日本が、欧米よりはるかに高い関心を抱いている。ネット上には「韓国政府の対応が悪い」「病気を日本に持ち込ませるな」といった単純な言説が溢れている。

 もっとも、韓国政府への不信感は、海外でというよりも、韓国国内で強まっている。最初の患者を特定するまでに時間がかかったのはまだしも、そこからの政府の対応はやや楽観的にも過ぎ、なによりも、情報公開が遅かったことが韓国国民の怒りと不安を買っている。

 疫学的にも遺伝子的にもMERSの感染が、韓国の地域社会、ひいては国際社会へと広く拡大していく可能性は低い。とはいえ、MERSは潜伏期が最大で2週間と長く、年間500万人もの往来があることを考えれば、100%の水際対策は不可能で、日本にすでに入ってきていてもおかしくはない。大事なのは、韓国を他山の石として、国内で「流行させない」ようにすることだ。

(注)http://www.virology.ws/2009/06/16/how-many-people-die-from-influenza/

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