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- 2015年06月24日 08:06
超党派議連も下支えする休眠預金活用とソーシャルインパクトボンドの今
インパクト投資シンポジウム
東京証券取引所で5月28〜29日に開催された「G8社会的インパクト投資シンポジウム」の、2日目の取材に行ってきましたのでレポートにまとめます。2日目のテーマは「ソーシャルインパクトボンド」(以下、SIB)です。聞き慣れないビジネスパーソンも多いかと思います。SIBとは、2010年に英国で開発された社会投資モデルのことで日本語では「社会的インパクト債権」などと言われています。
ソーシャルセクター(NPOなど)やパブリックセクター(自治体など)へ向けた新たな資金調達の仕組みであり、投資家から活動資金を調達した後、NPOなどによる社会問題の解決の成果に応じて、政府や自治体が投資家に配当を支払うモデルのことです。自治体のリスクの一部を投資家とシェアする“クラウドファンディング”と考えるとイメージがしやすいかもしれません。
SIBの仕組みを使うことで、資金面などのリソース不足で事業の実施に二の足を踏んでいた自治体が、積極的に地域課題の解決に取り組めるようになるとのことです。
以下の動画(4分)の説明がわかりやすいのでご参考まで。図解が多いので音声なしでも十分理解いただけます。
国内のSIBの事例
世界では様々なSIBの事例が出てきていますが、2015年4月より日本でもSIBの第一号パイロット事業が横須賀市でスタートしています。当時の記者発表のレポートは『社会貢献型の投資でリターンを得られるSIBが、ついに日本でスタート』という記事によくまとまっていますのでご興味がある方はどうぞ。
プログラムがスタートして2ヶ月経つわけですが、現時点でどこまで進んでいるのか。シンポジウムでは、吉田市長本人がSIBプログラムとしての「特別養子縁組支援」についてスピーチしていました。
行政としては低コストで課題解決に挑戦でき、投資家サイドにリスクを移転することで、自治体の課題を解決する方法であるSIB。ただし社会課題は市町村単独で解決するには難しく広域的なアプローチが必要になってくる、とのこと。
特別養子縁組に関しては『本当の誕生日と名前を知らない子ども--サヘル・ローズ氏の衝撃スピーチ』というイベントレポートでもまとめているので、お時間あるときはぜひ。ちなみに「6,000いいね!」近くいった執筆記事となっております。
SIBではないですけど、皆さんの身近な例でいえば「ふるさと納税」のモデルが近い存在としてパネルディスカッションで言及されていました。
また、課題としては、「インパクト評価」が重要であることも話題になっていました。例えば、「何か社会に良いことしたからいいよね」ではなく、「100万円寄付し、生活に困っている〇〇人をサポートし、行政コストを〇〇万円削減できました」みたいな社会的インパクトを数値にすることで、成果がはっきりし、長期の安定運用を目指す投資家たちにむけた商品になりうる、と。
課題としては、成果の可視化、企業・自治体・NPOのセクターの連携、行政よりNPOがパフォーマンスを発揮できる分野の見極め、などもピックアップされていました。
休眠預金の活用が日本を救う?
あなたは、「休眠預金」という単語を聞いたことはありますか?休眠預金(休眠口座)とは、長い間引き出しや預け入れなどの取引がされていない、"眠っている"銀行預金のことです。最後にお金を出し入れした日や定期預金の最後の満期日から、銀行では10年、ゆうちょ銀行では5年以上経ったもののうち、預金者本人と連絡のつかないものをいいます。日本全体の休眠口座の金額は毎年800億円を超えるとされています。(参照:休眠口座について考えるための情報サイト)
SIBは投資のリスクが大きいため(直近で低リターンとなる)、休眠口座など投資のリスクが比較的低い資金の獲得が必須となるのでしょう。日本のSIBを語るには、この休眠預金活用をセットで考えることが重要なようです。
また、NPO法人フローレンス・駒崎さんが、パネルディスカッションの締めコメントをしていたのですが、個人的に目頭が熱くなりました。というわけで、休眠預金活用についてディスカッションにおける駒崎さんのクロージングコメントを書き起こしてまとめます。
本日ご参加の皆さん、社会的インパクト投資(SIB)が実現するには、この休眠預金活用にかかっていると言っても過言ではありません。
まさに歴史が変わる瞬間に今、立っています。その実現の命運はここにいる「志士たち」(登壇された議員の先生たち)にかかっています。この志士たちが党内や国会内でのゲリラ戦で勝てるかどうかは、皆さんの後押しにかかっているのだと思います。
この先生たちに立ちはだかろうとする議員の先生もいるかもしれません。その制度に反対する先生たちには、我々が法案成立という奇跡を求めているということを、声を大にして、皆さんから発信してほしいです。
今日はメディアの方も参加されていると思いますが、ぜひこの話題を取り上げて欲しいと思いますし、個人で参加されている方もFacebookやTwitterなどのSNSで情報発信して欲しいです。政治家の方々に直接「休眠預金活用はいつ実現させるんですか?本国会でやりますよね?」とSNSなどでコメントしていってほしい。これも小さいですが“ロビーイング”(私的な政治活動)です。勘違いされている方も多いですが、ロビーイングは決して悪いことではありません。
政治・政策は、よりよい社会作りになくてはならないものです。私たちが政治に関ることによって、より良い社会の実現に貢献できることもあるんだ、と証明していきたいと思います。
日本は課題先進国であり、世界最速のスピードで少子高齢化に突入しています。人類で最初に様々な社会課題に突き当たるのが私たちの住む日本です。しかしながら、それは課題解決先進国となりうる機会を与えられているとも言い換えることができます。
我々が最初に、テストの課題を解くことによって、他の人類にシェアすることができます。そんな人類全体に貢献できるチャンスをもらっているんだと認識しています。日本が世界に誇れる国になるチャンスです。
その課題解決をできる最高のツールとして、この休眠預金があるのだとしたら、我々はうまく活用し世界の課題解決の歴史的なチャンスを得ようとしているのではないでしょうか。もう三ヶ月後には決着は着いています。世界に先駆けた「休眠預金活用大国」になっているか、それとも、「あーそんな話あったね」で終わるか。この三ヶ月が勝負です。
今まさに私たちはその分かれ道にいます。ぜひ今日いらっしゃる皆さんは、この場所から実現にむけた後押しをしようではありませんか。そして、共に歴史的偉業を成し遂げようではありませんか。
これからのソーシャルインパクトボンド
駒崎さんがおっしゃったように、今回、休眠預金活用の法案が通らなかった場合、SIBの普及は正直難しいのかもしれません。そのままの仕組みでは、投資側のリスクが大きすぎるというのもあるでしょう。NPOやソーシャルビジネスへの投資も同様ですが、社会問題の解決につながる投資は投資家側のリスクやリターンが少ない場合も多く、慈善事業以上の投資は難しいという側面もあるでしょう。誰にもなんのリスクもなく社会課題解決をすることはできません。実績や事例ができるまで、理解のある投資側をどれだけ巻き込めるかがポイントになるのかもしれません。
SIBの可能性は社会課題解決に非常に効果的であることは事実なので、各方面のプロフェッショナルたちがどこまで関ることができるか。まずあなたが知るべきは、社会課題解決のために様々な手法が生み出されており、日本の将来に向けて、様々なセクターで動いている人がいるということです。
そして、個人であってもより良い社会を作るべく、小さなロビー活動として、休眠口座活用を国会議員にプッシュすることも忘れずに。最後に。僕もあなたにメッセージを。これはフローレンスの駒崎さんもよく使っていたフレーズです。
「あなたが見たいと思う世界に、あなた自身が貢献しなさい。マハトマ・ガンジー」 (You must be the change you want to see in the world. Mahatma Gandhi)
■関連サイト、ページ
・G8インパクト投資タスクフォース
・休眠預金活用推進議員連盟>
・ソーシャルインパクトボンド解説書(PDF、12ページ)
・「社会的インパクト投資」で討論会開催
(取材協力:日本財団)