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財政健全化計画等に関する建議ー官邸に向けた挑戦状⁈

 このところ国会は混乱状態というか、膠着状態が続いている。安保法制(政府は平和安全法制としているが)、年金機構の情報漏洩問題、労働者派遣法改正案、主にはこの3つを巡る与野党の攻防である。

 安保法制については、憲法審査会で、招聘された専門家3人が口を揃えて集団的自衛権を違憲と評したことで野党側は攻勢を強め、一方の与党側は手を替え品を替えの防戦一方の対応、これが混乱に拍車をかけた。

 年金機構の情報漏洩問題については、厚労委員会の質疑で次々と問題が明らかになり、政府側の釈然としない答弁に野党側は更に反発を強めている。

 そして、労働者派遣法改正案。異例の総理入りの質疑は民主党、共産党の欠席の中で行われたが、民主党は議員による議場封鎖、委員長及び総理の入場阻止を試みたり、議場内で席に座らずにヤジを飛ばしたり、さらには委員長席を包囲して議事を阻止したりといった実力行使に及んだ。その様子を映したニュース映像をご覧になった方々も多いのではないか。これによって同法案の採決は先送りされたが、ここで与党が強行採決にでも持ち込むようなことになれば、混乱が拡大することは必至であろう。

 厚労委員会では、このところ労働者派遣法改正案と年金情報漏洩問題がごちゃまぜにされて質疑が行われる傾向があるようであるが、政局の道具という点はさておき、それぞれ別問題なのであるし、非常に重要な問題なのであるから、野党には冷静な質疑、与党には丁寧な対応をお願いしたい。(その点、維新の党の井坂信彦衆議院議員の質疑は、冷静沈着で見事であった。)

 そうした中、6月1日、財務省の財政制度等審議会は、「財政健全化計画等に関する建議」を政府に対して示した。その内容は、さながら安倍政権、安倍官邸に対する挑戦状のようなものである。今回はこの「財政健全化計画等に関する建議」について考察を加え、今後の政策や政局の行方について勝手に予想してみたい。

 なお、ここで、「建議」という用語が使われているが、審議会というと、通常であれば、大臣から諮問を受けて検討し、その結果を答申するので、出された結果も「答申」という用語が使われる。今回は財務大臣から諮問があったわけではなく、審議会として、財政健全化計画の策定に当たって政府はどう考えるべきかを、いわば提案したものであるので、「建議」が使われている。内実はともあれ、形式上は審議会による政策提言とでも理解していただければ分かりやすいと思う。

それをなぜ「挑戦状」とまで形容するのか。端的に言えば、「建議」の内容がアベノミクスを否定するものだからである。

 ここでアベノミクスについておさらいしておくと、よく三本の矢と形容されるように、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、それに③成長戦略によって攻勢されている。①は異次元の金融緩和によりお金の量を増やして通貨の価値を下げることで物価を程よく上げてデフレからの脱却を目指すもの。②は簡単に言えば財政出動を増やすことで、これは公共事業の大幅増に象徴される有効需要創出策。③は規制改革を中心に経済成長を促す政策のこと。

 国会での代表質問では、①は着実に行われている(「矢は飛んだ」と形容する議員が多い)が、②は方向性を誤り、③は未着手とされることが多い。確かに、③は議論こそ行われているが、結論は先送りか中途半端。霞が関のやる気のなさが如実に表れている。(個別の解説をしたいところであるが、かなり長くなってしまうので、今回はこうした抽象的な表現に止めておく。)

 これを財政再建という観点から見ると、デフレからの脱却、成長戦略による経済成長で税収が増加し、つまり歳入が増加し、プライマリーバランスの改善につなげることができるものであるということである。

 その先には消費税率の引き上げの凍結というものがある。すなわち、経済成長で税収が増加するので、増税する必要はないという考え方である。(これについては安倍総理は明言はしていないようであるが、大義なき解散と言われた昨年の衆議院議員選挙の背景には、消費税率引き上げを巡る官邸と財務省の対立があったとされる。)

 今回の「建議」はこのシナリオを根本的に否定している。例えば、内閣府が今年の2月に発表した「中長期経済財政に関する試算」では、2020年度の国・地方のプライマリーバランスをベースラインケイース(何もしないケース)で16.4兆円の赤字、経済再生ケースで9.4兆円としており、これは「高い経済成長率が実現できたとしても、それに伴う税収増だけでは財政健全化目標は達成できない」ことを如実に示すものだと評している。

 また、これは旧みんなの党や現在の維新の党の政策の一つであるが、国や地方の資産売却によって債務を圧縮するということについても、個々の資産の保有目的や性質を踏まえれば、売却可能な資産は極めて限られていると、否定的な態度を明確にしている。

 その上で、プライマリーバランスの黒字化に加え、財政収支の均衡を図ることが財政健全化の王道としている。要すれば、消費税率の10%への引き上げは必ず実行し、かつ歳出の改善、つまり財政政策を抑制的なものに移行すべきということである。

 これに関連して、「これまで以上にこれを増加させ、財政事情の悪化を通じて将来的にさらなる国民負担の増加をもたらしたり、社会保障財源である消費税増収分が他の用途に用いられているかのような疑念を招いたりすることは許され」ないとしている。

 この「建議」がアベノミクスの否定であることは分かっていただけたと思うが、なぜこれが官邸に対する挑戦状に等しいものなのかと言えば、これまで官邸の力が強く、比較的おとなしめであった財務省が、「建議」という形式で政権に対する反旗をあからさまに翻し始めたものであると考えることができるからである。つまり、それができるぐらいに官邸の力が相対的に弱まったということ、霞が関、永田町、もっと言えば平河町に地殻変動が起き始めているということであろう。

 自民党内はご承知のとおり一枚岩ではない。安保法制にしても党内が一致して積極的というわけではない。先日の平和安保特委で維新の党の落合貴之衆議院議員も指摘していたが、宏池会系統は基本的にハト派で専守防衛で集団的自衛権には消極的である。谷垣幹事長は財務省ベッタリで消費税率引き上げには積極的。二階総務会長はハト派。

 安倍総理は最強とまで言われることがあるが、それは早晩過去のものとなる可能性も十分あるのではないか。どうしても与野党の対決に目が行きがちであるが、与党内の動きに着目した方が、今後の政局や政策の行方はより見えてくるだろう。

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