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スイスフラン暴騰でわかったFXの致命的欠陥

金融ジャーナリスト 鈴木雅光

久々に「黒い白鳥(ブラックスワン)」(注1)が、マーケットに姿を現した。スイスフランの暴騰である。1月15日、スイスの中央銀行がスイスフラン(以下、CHF)の無制限売り介入を突如、中止したことを受け、それまで1ユーロ=1.20CHFにほぼ固定されていたのが、1ユーロ=0.86CHF前後まで、CHF高が加速したのだ。対円で見ても、1月15日の始値は1CHF=114円台だったのが、一時は157円80銭台をつけ、一瞬のうちに、対円で40%弱も上昇した。

もしCHFをFX(外国為替証拠金取引)で買っていたら、物凄い利益が出たはずだ。証拠金100万円で25倍の取引をしたとき、想定元本は2500万円。1CHF=114円で、約22万CHFの買い「ポジション」(注2)をつくった後、157円に値上がりした際に清算できれば、2500万円の想定元本が3454万円まで膨らみ、瞬時に954万円もの利益を手にできた。

とはいえ、利益を手にした投資家がいれば、必ず多額の損失を被った投資家がいる。実際、CHFが暴騰した翌日以降、「ヘッジファンドのエベレスト・キャピタルがファンドを閉鎖」「ドイツ銀行が約176億円の損失」など、損失を被った企業の名前がニュースに流れ、ネット上では大きな損失を被ったFX投資家の阿鼻叫喚が並んだ。いうまでもなく、この損失は、CHFの売りポジションを持っていた投資家が被ったものだ。

FX投資家の中には、納得のいかない人も多かっただろう。何しろ今回のCHF高は瞬時の出来事だったため、損失額が一定以上に膨らむのを防ぐ「ロスカット」(会社により多少異なるが、預けてある証拠金に対して、「含み損」(注3)が80%に達すると、保有しているポジションが強制決済される)が働かなかったFX会社が多かったからだ。たとえば、預けてある証拠金額が100万円だとしたら、含み損が80万円に達した時点で強制決済され、それ以上損失が膨らまなくなるはず。だが、今回はそれが機能しなかった。

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なぜなら、1ユーロ=1.20CHF前後から、0.86CHFになる過程で、本来なら市場に一定数いるはずの「CHFの売り手」が、ほとんど消えてしまったからだ。CHFの無制限売り介入を中止するというサプライズニュースで、CHFの値上がり必定と見た市場参加者が、CHFの売り注文を引っ込めた。売り手がいなければ、新たな売り手が出てくるまで、CHFは上昇せざるをえなくなる。そのため、レートが大幅にCHF高方向に飛んでしまった。

売り手がいない状態で、瞬時にレートが大幅に動いてしまうと、いくらロスカット注文を入れていたとしても、その注文は執行されない。「CHFは下落する」というシナリオに基づいてCHFを売っていた投資家たちは、CHFが上昇する中でCHFを買い戻し、CHFの売りポジションを清算しようと試みたが、ようやく注文が約定されたときのレートは、ロスカットのレベルを大きく超えたところまでスリップしていた。

当然、証拠金の額を超えた損失については、「追証(おいしょう)」(注4)といって投資家が負担する。

今回、「ロスカットが必ずしもリスクマネジメントに役立つとは限らない」ことが判明した。ブラックスワン的なマーケットの動きから財産を守るには、自分が取れるリスク許容度を超えたポジションは持たないに尽きる。

注1 黒い白鳥:事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象
注2 ポジション:決済して利益や損失が確定する前の残高
注3 含み損:売買成立前に起きる損失
注4 追証:追加保証金

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