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中国 国際法重視の姿勢を示した背景 「法律戦」と南シナ海問題 - 岡崎研究所

パシフィック・フォーラムCSISのレンツ、ハイデマン両研究員が、5月8日付Diplomat誌ウェブサイト掲載の論説で、中国は国際法を重視する動きを示しているが、南シナ海の問題では比等が提起した海洋法条約の仲裁裁判への参加を拒んでおり、国際法を単なるガイドラインや外交政策の一手段以上のものとして認めなければならない、と中国に批判的な見解を述べています。

 すなわち、今年の初め、中国外務省は省内に国際法規委員会を設置した。この委員会は、海外に逃亡した汚職容疑者の引き渡しを実現するのが当面の活動とされているが、中国が国際法に関心を高めることは歓迎すべきことである。国際法規につき専門知識を増やすことは大国であるための必要条件である。

 注視すべき分野のひとつは、海洋法である。最近、南シナ海の領有権に関するフィリピンとベトナムの提訴に関して、仲裁裁判に参加しない権利を行使した。中国は、法的な解決を避け二国間での解決を主張する一方で、南シナ海において着々と埋め立てや施設建設を進めている。

 もし中国が徐々に国際仲裁裁判を受け入れる方向に行くのであれば、前向きなことである。中国南海研究院(南シナ海国家研究所)の呉士存院長は、「専門家が育ってくれば中国も仲裁裁判など国際法規を使って中国の国益を確保していくであろう。しかし、現在の国際法規が機能していないということであれば、中国はこれらの法規を変えていくことを求める」と述べている。かかる発言は国際法規への信頼性を損なうものである。国際法規に基づく問題解決に対する中国のコミットメントが不確かであれば、中国が今後仲裁裁判に参加したとしても、それは現場で既成事実を作り上げるための引き延ばし戦術とみなされるであろう。

 条約に基き南シナ海の紛争を解決するに当たっての障害は、中国の海洋法条約第298条宣言(海洋境界画定の強制解決は受け入れないとの宣言)である。しかも、中国は、この宣言を、1996年の条約批准時ではなく、批准の10年後の2006年に行った。これは条約上認められていることではあるが、中国の法解釈や手続きの一貫性の欠如として周辺国が懸念するところとなっている。そもそも中国は国際法について過度にプラグマティックなアプローチをとってきている。中国の一部学者は岩礁やサンゴ礁も島としての地位を持つと主張している。

 中国が国際法規に一層大きな役割を果たさせるというのであれば、国際法を単なるガイドラインや外交政策の一手段以上のものとして認めねばならない、と論じています。

出典:Patrick M. Renz & Frauke Heidemann,‘China's Coming 'Lawfare' and the South China Sea’(Diplomat, May 8, 2015)
http://thediplomat.com/2015/05/chinas-coming-lawfare-and-the-south-china-sea/

* * *

 中国は、今や多くの条約を締結し、また、主要な国際機関に加盟することにより、国際法規の理解や実践を深めており、国際法規の専門家も増え、国全体として持つ国際法規に関する専門知識も大いに増大していると推測されます。

 開放前の時代には、中国は極めて特異な、硬直した国際法理論を取っていたと思われるので、中国が今日の国際法につき理解を深め、外交の中で国際法を使っていこうとすること自体は、一般論としては結構なことです。

 しかし、それが実際に結構なことになるのかどうかは、次のような点につき、中国の今後の行動を見ていく必要があります。

 第一に、硬直化した主権重視です。1990年代半ば、APECで具体的協力活動を進める際に中国はしばしば主権を持ち出して抵抗しました。今の国際社会でも、もとより主権は重要であり、これを軽視する国はありませんが、同時にそれを踏まえて、紛争や問題を解決し協力を進めようとしています。中国が国際協調の精神をもって国際法を使おうとしているかどうか、それを端的に示すのが紛争の司法的解決ですが、この点極めて消極的です。

 第二に、国際法の政治目的での利用です。中国は、国際法の適用に当たって極めてプラグマティックなアプローチをとっていると言われます。中国は二国間交渉による解決を好みます。最終的には、政治が優越するというのであれば、法の尊重にはなりません。

 最近の中国による国際法重視の姿勢の背景には、外交全般において「法の支配」が強調されていることと関係があるかもしれません。つまり、西側の「法の支配」論へ対処するために勉強を強化しようとしている可能性があります。仮にそうであれば、今日の国際社会の基盤をなす国際法を理解し順守しようとするよりも、西側の議論に反論するための理論武装をしようとしていることになります。

 中国南海研究院院長が示唆するように、今の国際法は西側資本主義国の作ったものだとか、途上国の意見が入っていないものだとか、そのため一部の法規は変えていかねばならないといった議論に向かうのであれば、中国の現状に対する挑戦が、地政学、経済の分野などに加え、国際法規の分野にまで拡大することを意味することになります。それが中国の目指していることであると見て間違いはないでしょう。

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