- 2015年06月08日 19:24
月額25ドルでコンサート行き放題のアプリ「Jukley Unlimited」
音楽の愛好家なら、ライブやコンサートで生の演奏の迫力をダイレクトに感じることは何よりの楽しみだろう。米国の主要な都市ではライブハウスが生活に密接しており、午後9時に終わるショーなら子連れで鑑賞することもできるらしい。
コンサートなども日本より多くあり、大物ではないミュージシャン、名前があまり知られていないアーティストのショーでも充分に見ごたえがある。これらのショーを観るために米国を訪れる日本のファンも多くいるという。
とりわけニューヨークはライブハウスの質も伝統も高く、耳の肥えた客が夜毎有名な開催地に足を運ぶ。そのニューヨークでロンチされた「Jukley Unlimited」を今回は取り上げよう。1ヶ月に25ドルを払えばライブやコンサートのチケットが好きなだけ手に入るという、ライブ参加し放題をうたった新しい形のサブスクリプションサービスだ。
人々がもっとライブに気軽に行けるようなソリューションを
Jukley Unlimitedの創業者はBora Celik(以下、セリック)氏。同氏はソフトウェアのディベロッパーになるべく教育を受けてきたが、大の音楽ファンでもあったことから、音楽業界に深く関わってきたという。ラジオ番組を主催したこともあるし、クラブのDJを務めたこともある。また100近い数のコンサートのプロモーターも行ってきたそうだ。
セリック氏はプロモーターの仕事を通して、ライブ業界が抱えている問題を知るようになった。それは1回あたりのライブの客席を思うように埋められないこと。コンサートチケットの半分は買い手がつかず、米国における年間損失は240億ドル(約2兆8800億円)にものぼるという。
この問題をどうにかしたいと考えていたセリック氏は、エンジニアの経験とスキルを生かし、人々がもっとライブに気軽に行けるようなソリューションをつくることを構想する。人々をライブに惹き付けるために重要と考えたのが、自分が好きだと思える音楽を発見できること、そしてそのライブを一緒に行ける友人を探せることの2点だった。
そこで、自分の興味のあるアーティストが近くでライブを行うときにはお知らせし、チケットを購入できるアプリ「Jukely」を開発。単に利用者が自分の好きなアーティストを登録するだけのものではなく、SpotifyやRdioなどの利用者が使用している音楽サービスと紐づけして好みを分析し、興味のありそうなアーティストがライブを行うときにはお知らせするようにした。
またライブは複数で行くものという概念からソーシャル機能も充実させ、facebookやtwitterなどから、一緒に行けるかも知れない友人の推薦を行ってくれる機能も追加したという。
もっとも「近隣の良さそうなライブがあったらお知らせし、そのチケットを購入できる」サービスは「WillCall」も行っていたため、Jukely独自のサービスとはならなかった。面白いことに両者はほぼ同時期にサービスをはじめたようだ。
こうした競合との差別化も意識したのか、セリック氏らは2014年にJukelyとはまたちがった、新たなサービスに着手する。それが月額25ドルの利用料を払えば、同サイトが関わっているライブやコンサートは無制限で参加できるコンサートのサブスクリプション・サービス「Jukley Unlimited」だった。
一定の料金を払えば自分の興味のありそうなライブをお知らせし、行きたくなったら無料で参加できるというコンセプトの同サービスは好評で、ニューヨークでロンチをしたときには13もの会場と契約を結ぶことに成功。良質なアーティストを揃えていると評判を呼び、利用したい人たちが集まったという。
このニューヨークでの成功を皮切りに、Jukley Unlimitedは本格的にサービスを展開。ロサンゼルス、サンフランシスコ、オースティン、シカゴ、マイアミ、トロント、シアトル、フィラデルフィア、デンバーでもサービスを提供するようになったのだ。
より自発的に、積極的に好きなアーティストを発掘するサービス
Jukley Unlimitedが取り扱っているジャンルは幅広く、DJやEDM、ブルース、フォーク、パンクロックなどがある。また出演するアーティストの選考はセリック氏らが行い、お眼鏡にかなった良質なアーティストが選ばれているそうだ。
利用者は月額25ドル払えば、Jukleyが関わったライブに無制限に参加できるようになる。さらに月額45ドルの会員は友人1人をショーに連れて行くことも可能だ。プランのサービスをフル活用した場合、利用者は月60のイベントに行ける計算になるとのこと。
同サイトは各地の会場と契約を結び、プロモーターと直接取引を行ない、サブプロモーターとして貢献。またサブスクリプションサービスの利用料で得た収益は、会場のプロモーターやアーティスト、代理店などと共有しているという。
Jukley Unlimitedの特徴のひとつに、参加しているアーティストがブレイク前の新進アーティストという点がある。Jukelyで見る事のできるアーティストやバンドは、多くの人が知っているような有名アーティストだが、「Unlimited」はほとんどの利用者がまだ知らない人たちなのだ。
そのためライブに参加したアーティストを気に入るか、ショーの内容や力量に満足できるかどうかは行ってみなければ分からない。同サービスは一見不利とも思えるこのサービスを、どのように利用者に売り込み、魅力を引き出しているのだろうか。
セリック氏はこの点について、そもそも自分たちのサービスはすでに人気のアーティストを取り扱うものではないと話す。このサービスのコンセプトは新しい音楽やアーティストをファンに紹介することであり、新進アーティストにいち早いファンベースを構築することに魅力があるというのだ。
”多くの人は好きなアーティストを限定していて、本当に好きなアーティストのチケットだけを購入する。そのために他のアーティストと出逢う機会を失ってしまうんだ。僕たちのコンセプトはこうした新しい音楽と出逢いにくいシステムを取り壊して、より自発的に、積極的に好きなアーティストを発掘することにあるんだよ”
- セリック氏
セリック氏の言う「新しいアーティストの発見」を補助しているのが、同氏らがJukleyで培った紐づけの技術だ。Jukley UnlimitedにもfacebookやSoundcloud、Spotify、last.fm、Hype Machine、Rdioなどのサービスから情報を収集し、利用者の嗜好に合いそうなコンサート情報や友人をオススメする機能がある。この機能があるために、利用者は無名のアーティストであっても自分との接点を見出しやすくなっているのだ。
なおサイトの説明によると、現在のところ、利用者は月平均2~3のショーに参加しているとこと。このうち65%の利用者が、自分がこれまで聞いた事のなかったアーティストを見るために参加しているそうだ。「新興のアーティスト発掘サービス」というコンセプトは現状のところ支持されていると言えるだろう。
ショーの成功はその時どれだけ儲かったかで決まるわけじゃない
ニューヨークでJukley Unlimitedを成功させたとき、利用者の大部分が学生だったという。セリック氏はこの傾向は、学生がライブに行くだけの時間を得やすく、お金を出しやすいからだと分析。また学生が多いことは「パーティーに彩りを添えるからプロモーターにとっても好ましい」として歓迎しているようだ。
”このメンバーシップがプロモーターの間でも好評なのは、単に新しい収益が見込めるからじゃない。ショーの成功とはその時どれだけ儲かったかで決まるわけじゃない。みんなによって作られたエネルギー、振動、思い出が作り出すものなんだよ”
- セリック氏
この発言に代表されるように、セリック氏の言葉からは音楽業界を盛り上げたいという意識が垣間見える。
自分たちの利益を増やすのみではなく、自分たちのサービスを通して業界全体を活性化させ、より多くの人たちと音楽を共有するところに目標を置いているのだろう。
事業の成長事例としても面白い事例だ。
「ライブチケットを購入できるアプリ」から「無名・新進アーティストのライブ行き放題」へ、さらには「近くのライブ」から「利用者の嗜好に合いそうなコンサート情報や友人をオススメする」へ、という改善を繰り返しながら成長を遂げている様は、事業企画者には大変刺激になるストーリーではないだろうか。



