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イエレン議長の不規則発言と米金融政策の行方 - 長谷川公敏

このところ、米連邦準備理事会(FRB)は年内の政策金利引き上げを模索している。また先日、イエレンFRB議長は「(米国)株価のバリュエーションはかなり高い」と発言し、米国株価の上昇を牽制した。この発言を受けて、米国株価は大幅に下落し、日欧の株価も大きな影響を受けた。なお、イエレン議長は昨年7月にも「一部業種の株価は割高」と発言し、株価上昇に懸念を表明している。

◆正常化していない米経済

2008年9月に起きたリーマンショックは大恐慌の再来かと懸念されたが、大恐慌研究の第一人者といわれるバーナンキ前FRB議長の「異例の実質ゼロ金利政策」や、「QE(量的金融緩和)」と呼ばれる新たな金融政策により、難なく乗り切ったように見える。だが、景気の体温といわれる米国の物価上昇率は、依然としてFRBの政策目標である+2%を大きく下回っており、米経済はまだまだ正常化していない。(注)

◆バーナンキ前議長の政策意図

通常、資産価格は経済実態を反映する。だが、資産価格が経済実態へ大きな影響を与えるのも事実であり、一方で資産価格は金融政策の影響を大きく受ける。

バーナンキ前議長はこの点に着目し、リーマンショックで大きく落ち込んだ需要を回復させるため、株価など資産価格の上昇を図ったと思われる。つまり、「異例の金融緩和」→「資産価格上昇」→「景気回復」を狙ったわけだ。しかし、FRBは年内の利上げを模索しているばかりか、イエレン現議長は経済正常化のための重要な手段である株価の上昇も牽制したのだ。

◆日本の失敗

中央銀行総裁や政府関係者は、市場で価格が決定される株価などへの言及を避けるべきではないか。

振り返ってみると、三重野元日銀総裁は日本の資産価格が「バブル」であるとの認識から、「株価と地価を半分にしてやる」と豪語、1989年に3回の利上げを実施し、日本の株価が暴落し始めた1990年も2回の利上げを断行した。その後日本の株価や地価は三重野前総裁の思惑以上に暴落し、25年以上経っても、当時の価格からは程遠い状況にある。

未曾有の資産価格の暴落により、日本経済が依然として長期のデフレに苦しみ、経済が正常化していないのは、当時の金融政策が主要因だったといえるだろう。

◆今後のFRB

FRBは年内に政策金利を引き上げるのだろうか。

資産価格が「バブルか否かは崩壊しなければわからない」というのは、世界の常識だ。また、市場は非常に短期的な見方をするため、僅かな景気指標の変動や政策当局者の発言に必要以上に反応しがちだ。事実、リーマンショック翌年の2009年春には、市場では株価の回復や僅かな景気指標の改善から、「年末には利上げ」という見方が大勢だった。更にその後も、市場では「年内には利上げ」という見方が毎年繰り返されている。

FRBは昨年から利上げを示唆するようになっており、従来よりも利上げの可能性は高くなっている。だが「100年に一度」といわれるリーマンショックが、僅か数年で癒えるはずはない。仮に、FRBが史上最高値にあるという理由で米株価を「バブル」と見做したり、市場関係者のように短期的な景気動向を基に年内に利上げを実施するとすれば、米経済の正常化は更に遠のくだろう。

◆政策に逆らうな

蛇足だが、最近、2万円を超えた日経平均株価を見て「バブル」を懸念し、1980年代後半の市場環境と比較するメディアの報道をしばしば見かける。だが幸いにも、日本の政策当局者は「バブル」を否定しており、日本の利上げはまだまだ先のようだ。

「政策に逆らうな」という株式市場の格言に従えば、日本の株価の先行きをさほど懸念する必要はなく、連れて、日本経済も順調に推移するだろう。

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(注)FRBが政策目標にしている物価は、PCE(個人消費支出)価格指数で、直近の2015年4月は前年同月比+0.1%だった。

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長谷川公敏(エコノミスト)

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