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ホソノ・プロセス

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アメリカ側の対応もあのヘリ放水から、明らかに前向きに変化した。

放水のあと、オバマ大統領が

「あらゆる支援を行う用意がある」

と菅総理に電話してきたのである。

日米共同で事態に対処する環境は整ったが、日米が足並みを揃えるまでには、窓口の一元化という壁があった。三月二二日に発足した「原発事故対応に関する日米合同調整会合」がそれである。

この会合は、日米間に起きた不協和音を修正するミッションを帯びていた。

この会議が結成される経緯を少し振り返っておこう。

当初、官邸への常駐を求めた米国側とそれを受け入れなかった日本側のコミュニケーションはうまくいっているとは言えなかった。米国に太いパイプを持つ長島昭久議員の進言を受けてルース駐日大使と会ってから、私の危機感も強くなった。三月一七日、ルース大使から米国が避難範囲を五〇マイル(八〇キロ)に拡大するとの話を聞いた。ルース大使は、「避難範囲は拡大するが、米国は日本と共に原発問題に対処する気持ちに変わりはない」と話してくれた。彼の険しい表情から、米国政府がいかに厳しい認識を持っているが十分にうかがい知ることができた。おそらく、当時ルース大使は、本国に対してわが国の立場を弁護してくれていたのだろう。

私は、大使と別れて官邸に向かい、菅総理に官邸主導で日米会議を設置することを提案した。総理自身もその必要性を感じていたらしく即断してくれた。北沢大臣のサポートも大きかった。

米国側が最も困惑していたのは、関わる省庁の数が多いため、米国側からみると、どこの部署と交渉すればよいかがわかりにくかったということだ。そこで情報の窓口を事務局に一元化する会議を立ち上げることにした。それが、日米合同調整会合であった。

日米合同調整会合に参加したアメリカ側代表の顔ぶれはカストーNRC日本サイト支援部長(米国側座長),ズムワルト駐日米首席公使、その他、海軍、海軍原子炉機関、在日米軍、エネルギー省(DOE)である。

日本側は、福山哲郎官房副長官(同会合の日本側座長)のほか、官邸スタッフ、原子力安全保安院、資源エネルギー庁、原子力安全委員会、外務省、防衛省の制服組と背広組、文部科学省、厚生労働省に東京電力も加わった。各省審議官クラスの出席を求め、メンバーは基本的に固定した。

会合の趣旨は、次の三つに集約される。

・原発施設にまつわる状況に対して議論する

・最悪の事態を回避するための方法に関して意見を出し合う

・必要な機材や装備を日本側からアメリ側に要請し、それに対してアメリカ側が検討して提供する

この会議には副次的な効果もあった。日本国内の連絡調整機能も担うことになったのだ。日本の省庁の縦割りは比較的スムーズに解消した。原発の危機を前に、オールジャパンでやろうという意識がそれぞれに強かったからである。

なかでも比較的スムーズにまとまったのは、資源エネルギー庁、保安院、加えて文科省、原子力安全委員会。三月一一日から原発対応を続けていたので、合同調整会合がスタートする三月二二日には、メンバーの顔だけでなく個性もだいたいわかっていたので、まとまりやすかった。

問題は外務省と防衛省だった。

まず外務省は外交一元化、つまり米国との対応窓口は外務省にという原則がある。その窓口を官邸にしろと言っても、うまくいくものではない。当選同期の松本剛明外務大臣が、「細野のところに一元化しろ」と指示してくれたことでスムーズ進むようになった。ルース駐日大使の意向も働いたように思う。

防衛省には二段構えで対応した。防衛省と米軍とのやりとり、つまり「ミリ・ミリ」には口を出さず、最低限の報告は求めた。たとえばCBIRF(シバーフ:アメリカ海兵隊核専門部隊)が来日した際、事実関係についてのみ報告を受けた。北澤防衛大臣の防衛省内での信頼は厚かった。組織を完全に掌握していた大臣の「(ミリ・ミリ以外の)一般的な話は、細野にやらせろ」との指示で、防衛省にも積極的に関与するようになった。

オールジャパンで対応する体制は整った。各人が省益を捨てて政府一体となって対応できたと思う。集まったメンバーは、誰もが必死だった。

当初は米側にも縦割りの雰囲気があった。リーダー役を担ったNRCは、歴史をたどればエネルギー省(DOE)内の組織であった。現在も、DOEはエネルギー全般に関して広範かつ高度な技術を有しており、たとえばロボットなどによる無人化技術については、NRCよりはDOEが圧倒的に力を持っている。また、原子力に関する研究機関を多数有しているのもDOEであった。そうしたテーマについては、彼らの発言を最大限尊重するよう心掛けた。

アメリカ側のチームリーダーであるNRCのチャック・カストーはユーモアがあって、チームをうまくまとめていた。年の頃は五〇代の後半、原発の技術者として叩き上げの彼は、それぞれの立場を尊重しながら、時にジョークも交えながら会議を運営してくれた。会議の運営がスムーズに運んだのは、カストーの性格によるところが大きかった。

会議の運営は日本側が主導権を握るよう心懸けた。会議では、日本側がまず現状認識を説明し、それに対して米国側が意見を述べるという流れで進行した。米国側のメンバーは自他共に認める原発の専門家である。経験もありプライドもある彼らだが、日本側の見解を尊重し、それを受けて意見を述べる姿勢で会議に臨んでくれた。

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