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戦後70年 なぜ今、憲法改正が必要か - 百地章氏(日本大学法学部教授)

<私の憲法論 第一回>

 憲法改正がいよいよ現実味を帯びてきた。来年の参院選と同時に憲法改正国民投票を目指す国民運動が始まり、自民党の平成27年の運動方針にも、国民投票を視野に「賛同者の拡大運動を推進する」ことが謳われた。

 日本国憲法は、制定されてから今年で69年になる。しかも制定後、一度も改正されていない。そのため、憲法と現実との間にさまざまなギャップが生じていることは、多くの国民が感じているところである。

 また現行憲法は、当初からさまざまな不備や欠陥を抱えている。それゆえ、各種世論調査でも憲法改正を支持する声が上回っている。また、現行憲法は連合国の占領下にあって、GHQが日本を弱体化し無力化するために強制したもの、つまり占領憲法である。

 それゆえ、内容だけではなく手続き的にも重大な欠陥があるから、わが国を真の独立国家として再生させるためには、どうしても憲法を抜本的に見直す必要がある。

 日本国憲法に決定的に欠けているのが「国家観」と「家族観」である。つまり「個人」を絶対視し、「国家」も「家族」も無視ないし軽視してきたのが、日本国憲法であるといっても過言ではなかろう。これでは、国が混乱し、家族が崩壊するのも当然であろう。

 現在の憲法には、「政府」は登場しても歴史的、伝統的な「国民共同体としての国家」とか「運命共同体としての国家」は見当たらない。

 建国以来、皇室を中心に2000年以上にわたって発展を遂げてきた国家、歴史・文化・伝統を共有する「国民共同体としての国家」はどこにも出てこない。

 つまり、日本国憲法の最大の問題点は「国家不在」「国柄不在」にある。したがって憲法に、誇りある日本の国柄を盛り込み、国民に自信と誇りを取り戻させる必要がある。

 現行憲法の最大の欠陥は、国家的な緊急事態に対処するための規定、つまり緊急事態条項が存在しないということである。例えば、大規模テロや大規模自然災害に対する備えが何もない。

 先般、ISIL(アイシル)いわゆる「イスラム国」において、日本人の人質2人が殺されるという痛ましい事件があった。ISILは、日本におけるテロまで予告しており、今後いつテロが起こるか分からない。

 2001年、アメリカの同時多発テロを起こしたのがアルカイダであったが、オサマ・ビンラディン容疑者が殺害された2011年、アルカイダは世界に向けて復讐テロを宣言した。その時、懸念されたのが、わが国の原発テロであった。

 東日本大震災のダメージを受けたことで、当時、福島第1原発は世界中で最も攻撃が容易なターゲットとなっていたからである。しかも発電所の周辺住民は皆すでに避難していたし、周辺の警備も手薄だったから、テロリストたちが復旧作業員に紛れて侵入することも可能であった。

 もし原発テロが行われていたら、どうなったか。幸い、この時は何事もなく済んだが、現在でも危険な状況は変わっていない。原発は、自衛隊の警護対象にもなっていないからである。

 他方、大規模自然災害であるが、あの平成23年3月の東日本大震災の時にも、さまざまな問題が浮上した。

 例えば、ガソリンが不足したため、緊急車両が動けなくなり、助かるはずの多くの命が失われている。また、津波に流されたガレキの処理をめぐって、所有者の了解を得ないまま処理したら、憲法の保障する財産権の侵害に当たり、憲法違反であるなどといった議論もあり、なかなか処理が進まなかった。

 これらは、いずれも憲法に緊急時のための特別の規定がないからで、速やかな改正が必要である。各国とも、国家的な緊急事態に備え、危機を乗り切るための規定を憲法に定めている。先進国で、緊急権の認められてない憲法は存在しない。

 今回のような緊急事態、あるいはそれ以上の緊急事態、例えば首都直下型大地震はいつ起こるか分からない。そのような緊急事態の中で、もし、国会が集会できないような大混乱が生じた場合どうするのか。

 さらに、憲法第9条は1項で侵略戦争を放棄し、いわゆる平和主義を宣言、さらに第2項で「一切の戦力の保持を禁止」している。

 その結果、憲法上、自衛隊はあくまで「軍隊」ではなく、警察組織に過ぎないとされている。「軍隊」の権限は「ネガティブ・リスト」方式で規定される。

 つまり、やってはいけない事柄、例えば非人道的兵器の使用禁止、捕虜の虐待禁止、あるいは非軍事施設への攻撃の禁止、こういった事柄を国際法に列挙して禁止し、これに反しない限り「軍隊」は、主権と独立を守るため自由に行動できる。

 これに対して警察の権限行使は「ポジティブ・リスト」方式で行われる。

 つまり、法律に書かれていることしかできない。原則として制限的なものとされており、警察権の発動は、その障害を除去するため必要最小限度にとどめられなければならない。

 この点、現在の自衛隊はあくまで「軍隊」ではないとされているから、ポジティブ・リスト方式を採用している。そのため、自衛隊法で認められた「防衛出動」の場合を除けば、外国の武装ゲリラが強行上陸してきても、自衛隊は出動できない。これでは、尖閣諸島も守れないであろう。

 したがって、速やかに第9条2項を改正して、自衛隊を「軍隊」とすることが不可欠である。これが自衛隊を正式に「軍隊」としなければならない最大の理由である。

 今年は終戦70年という節目の年である。戦後70年もたって占領憲法を一字一句改正できないようでは、英霊に申し訳ないと思う。その意味でも、今こそ、憲法改正が必要である。 (2015年4月6日号 週刊「世界と日本」第2050号 より )

《ももち・あきら》 昭和21年、静岡県生まれ。京都大学大学院修士課程修了。法学博士。専門は憲法学。現在、日本大学法学部教授、国士舘大学大学院客員教授、比較憲法学会理事長、「民間憲法臨調」事務局長、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」幹事長、産経新聞「正論」執筆メンバー。著書に『憲法の常識 常識の憲法』、『憲法と日本の再生』、『新憲法のすすめ』など多数。

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