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中国の情報統制が進化-客船転覆事故で明らかに

 【北京】悲劇が起きたとき、中国政府が一般市民への情報の流れを統制する手法は、否定と抑圧を特徴としたアプローチから綿密に計算されたアプローチへと進化した。つまり、指導部を好感が持てるように描き、臆測を減らすことを狙う手法だ。

 中国メディアは、何百人もの客を乗せた船が長江で転覆したというニュースを事故発生(1日夜)のわずか数時間後に報じた。その後、犠牲者の数に関する情報も定期的に更新して伝えており、3日の時点で26人の死亡が確認されたと報じている。ただし、事故現場へのアクセスや、十数人の生存者への接触は厳しく制限されている。事故発生から1日半たったものの、乗船していた残りの数百人の生存の見込みに関する情報はほとんどない。

 ある国営報道機関の編集者によると、宣伝工作当局は、国営テレビ局の中国中央テレビ(CCTV)と国営新華社通信の報道のみを使うよう国内メディアに命じたという。3日付の中国紙のほぼ全ては、救助隊員が1人の生存者を水から引き揚げている場面を映した同一の写真を一面に掲載した。

 それでも長江の事故に関しては、政府は従来に比べてかなり大幅な開示を行っている。過去10年間に発生した大きな鉱山事故などの産業事故や、2003年に当局が重症急性呼吸器症候群(SARS)に対応したときと比較するとそうだ。03年の際には、国内でのSARS感染拡大のニュースを数カ月間報道させなかった。専門家たちは今回の開示が進んだ一因として、インターネット時代に悲劇のニュース報道を抑圧することは、賢明でも可能でもないとの認識が広まった点を挙げる。

 北京外国語大学の展江教授(メディア)は、「中国は12年前のSARSの対応時に高い代償を払った。現在は一般市民に知らせないことは不可能だというのが標準になっている」と述べた。そして「もちろん、それが行き届いていない部分もある。国営メディアにニュースを独占させ、それ以外の大半のメディアによる報道を許さない点などだ」と話した。

 今回の転覆事故のケースでは、中国当局は、海外メディアが現場から最も近い町に滞在し、地元の記者会見に出席するのを認めるとともに、ボートを用意して海外メディアのスタッフを現場に連れて行った。海外メディアは転覆した船から100メートルの地点まで行くことができた。

 これは、政治的に微妙な問題となる場合とは対照的だ。少数民族が多く住むチベット自治区や新疆ウイグル自治区で発生する暴動などの政情不安だ。こうした出来事は、治安部隊による厳重な封鎖とインターネット接続や国際通話の遮断につながることが多い。

 当局は依然として転覆事故の救助活動の全体的な進行状況や、何百人もの乗客が川で死亡したのかどうかについて情報をほとんど公表していないが、CCTVはこの間、救助活動の詳細な計画を長々と報じている。

 前出の展江教授は、他の小さな変化も注目に値すると語る。それは、親族や生存者が大げさに共産党への感謝の意を表すという紋切り型の場面がかなり減っている点だ。同教授は「中国の一般市民は注意深く見ている。彼らはお決まりの表現や指導者たちだけに焦点を当てた報道に不満を持っている」と指摘する。

 中国政治の専門家でシカゴ大学北京センターの所長を務めるダリ・ヤン氏は、危機管理の対応で当局者を訓練することが重要だとの認識が政府内で高まっていると指摘する。同氏によると、このような訓練は共産党の研修施設や国務院新聞弁公室で行われている。

 同氏は「より体系的な取り組みも行われている。それはインターネットの圧力が一因だ」と話す。情報は、中国で人気のツイッターのようなミニブログサービスやモバイルチャットプラットフォームを通じて、より迅速に拡散する。政府はうわさが広がるのを防ぐため、このような悲劇の国内報道を制御ないし制限する必要があると考える場合が多い、と同氏は指摘する。

 同氏によると、政府は自らを責任感と決断力のあるように描いて欲しいとも思っている。例えば、メディアは李克強首相がすぐさま転覆事故現場に駆けつけたことや、救助活動を支援するため三峡ダムの水位を下げるよう政府が命じたことを大々的に報じたという。6月4日は1989年に起きた天安門事件の記念日ということもあり、中国政府は客船転覆事故に注意深く対応している。

By GILLIAN WONG

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