記事

失う者、失わせる者は誰か

1/2
福島原発事故の収束は未だ先が見通せず、恐らくはかなりのロングレンジで居住不可エリアができるであろうことは想像に難くない。

ここにきていくつか気になることがある。

それは「避難するべき」という問題と、「避難できない」という問題をどう考えるか、である。

※ここで言う避難とは中長期の「転居」もしくは「移住」という意味合いで考えて頂きたい。

一方では「被曝リスクの見積もりがどうしても精緻にできない以上、避難すべき」であり、もう一方は「被曝リスクの見積もりは一定以下では判断不能なのだから、避難するかどうかは自主判断であるべき」である。

さて、ここで問題になるのは基本的には以下の点になるだろう。

1:果たして避難の必要があるとして、それを強制することはできるか

2:避難するリスク、避難しないリスク

3:避難しなかった場合、それがどのような意味を持つか

4:このことから派生して考えるべきことは何か
■終わらない夢、覚めない夜

果たして中長期に転居・移住を強制することができるのか。

まずこの問題の場合、「災害対策基本法」がベースとなるであろう。

極めて多岐に渡る条文の中で、居住に関する部分は下記である。
    第三節 事前措置及び避難
    (市町村長の避難の指示等)

    第六十条  災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。

    2  前項の規定により避難のための立退きを勧告し、又は指示する場合において、必要があると認めるときは、市町村長は、その立退き先を指示することができる。

    3  市町村長は、第一項の規定により避難のための立退きを勧告し、若しくは指示し、又は立退き先を指示したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。

    4  市町村長は、避難の必要がなくなつたときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。

    5 都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなつたときは、当該市町村の市町村長が第一項、第二項及び前項前段の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町村長に代わつて実施しなければならない。
    第四節 応急措置
    (市町村長の警戒区域設定権等)

    第六十三条  災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、警戒区域を設定し、災害応急対策に従事する者以外の者に対して当該区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該区域からの退去を命ずることができる。

    (応急公用負担等)

    第六十四条  市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、当該市町村の区域内の他人の土地、建物その他の工作物を一時使用し、又は土石、竹木その他の物件を使用し、若しくは収用することができる。
言うまでもなく、これは第四節は緊急措置であるため、永続的とも言える中長期の措置としてこれを援用することは拡大解釈に過ぎるだろう。

では第三節はどうか。これはどちらかと言えば事前措置であり、これもまた中長期の措置として援用することは難しいだろう。
もうひとつの関連法として「原子力災害対策特別措置法」がある。
    第三章 原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等
    (原子力緊急事態宣言等)

    第十五条  主務大臣は、次のいずれかに該当する場合において、原子力緊急事態が発生したと認めるときは、直ちに、内閣総理大臣に対し、その状況に関する必要な情報の報告を行うとともに、次項の規定による公示及び第三項の規定による指示の案を提出しなければならない。

    一  第十条第一項前段の規定により主務大臣が受けた通報に係る検出された放射線量又は政令で定める放射線測定設備及び測定方法により検出された放射線量が、異常な水準の放射線量の基準として政令で定めるもの以上である場合

    二  前号に掲げるもののほか、原子力緊急事態の発生を示す事象として政令で定めるものが生じた場合

    2  内閣総理大臣は、前項の規定による報告及び提出があったときは、直ちに、原子力緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言」という。)をするものとする。

    一  緊急事態応急対策を実施すべき区域

    二  原子力緊急事態の概要

    三  前二号に掲げるもののほか、第一号に掲げる区域内の居住者、滞在者その他の者及び公私の団体(以下「居住者等」という。)に対し周知させるべき事項

    3  内閣総理大臣は、第一項の規定による報告及び提出があったときは、直ちに、前項第一号に掲げる区域を管轄する市町村長及び都道府県知事に対し、第二十八条第二項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法第六十条第一項 及び第五項 の規定による避難のための立退き又は屋内への退避の勧告又は指示を行うべきことその他の緊急事態応急対策に関する事項を指示するものとする。
さて、ここでは根拠法は「災害対策基本法第六十条」となっているように、実際のところ基本的には「中長期」のそれは「想定されていない」というよりも「欠落している」と言っても良い可能性がある。

原発立地自治体における緊急時対応や訓練が概ね原発事故(もしくは緊急事態)が1日から数日で落ち着くことを想定していたことを考えれば、これは何も不思議なことではない。

そもそも我が国において、災害であろうとも「住居」は「私有財産」として「極力国が関与せざるもの」であり、復旧・復興にあたっても「自立再建」を求められる性質がある以上、逆説的に言えば「恒久的にそれを取り上げる」に等しい「居所の強制的かつ永続的立ち退き」は法的には極めて難しく、また「考えたくもない」事項であったに違いない。

そうであったからこそ、一坪地主のような抵抗運動が一定の効果を上げた側面がある。

ここで日本国憲法の下記条文が思い浮かぶ方もいるだろう。
    第三章 国民の権利及び義務
    第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
基地や空港といった公共インフラは確かにこの条項に関連するものであり、ある程度の制約も止むを得ない側面はあるだろう。

しかし、逆に今回の場合は「公共の福祉に反しない」どころか、「個人の福祉」である。

このように「強制的に転居させる」ことは「法的には難しい」と言わざるを得ないように思える。

いかにそれが「放射線」「放射能」による影響があろうとも、短期・緊急避難であれば別として、中長期または半永続的にそれを行うことは、憲法に規定される国民の権利を損なう可能性がある。

また、何より災害対策基本法は「市町村長」が主導でこれらの指示を出すことになっている。今回のように「市町村全域」をそう指定せざるを得ない事態である場合、短期間ならまだしも中長期に渡る場合、市町村自体の自死とも言うべき強制避難指示などをその当該首長が出せるだろうか。

恐らくは出せまい。そして出しても出さなくても非難の嵐となるだろう。

一方では「生命に対する重大な危険」という見解での非難となり、もう一方では「永久に故郷を捨てろということか」という見解での非難となる。

住民にとって悪夢であると同時に、どちらを選んでも苦渋となる覚めない夜である。

希望という陽が昇るのがいつになるのか、それは誰にも分からないのだから。

明けない夜はない、とは言うが、いつ明けるか分からない夜、というものは確かに存在する。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「2021年になって未だに?」 NHKきっかけに日本のFAX文化が世界に 海外からは驚きの声

    BLOGOS しらべる部

    07月29日 17:14

  2. 2

    コロナ感染急拡大で日本医師会が緊急声明、全国への宣言検討を

    ロイター

    07月29日 20:40

  3. 3

    「ここまでのコロナ対策が失敗だったと認めた方がよいのではないか」杉尾秀哉議員

    立憲民主党

    07月29日 19:13

  4. 4

    菅首相 SNSでメダリストを祝福も感染爆発には“取材拒否”「総理辞めて」の大合唱

    女性自身

    07月29日 14:00

  5. 5

    列車内での飲酒について、JR北海道から回答「お客様に強制することは大変難しい」

    猪野 亨

    07月29日 10:28

  6. 6

    太陽光発電を推進することは、国家安全保障上危険

    赤池 まさあき

    07月29日 10:12

  7. 7

    部下に怖いと思われるのは、「等身大の自分」を分かち合えていないから

    サイボウズ式

    07月29日 17:00

  8. 8

    高校に通わなかった東大名物教授の独学勉強法 本や教科書は疑って読むクセ

    宇佐美典也

    07月29日 12:00

  9. 9

    集団免疫得られるワクチン接種率、70%程度では難しい=尾身会長

    ロイター

    07月29日 12:55

  10. 10

    有村昆と丸岡いずみ、協議離婚が成立

    ABEMA TIMES

    07月29日 17:38

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。