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正義は回復されたのか? 〜ウサーマ・ビン・ラーディン殺害〜

いくつかの疑問



5月2日、ウサーマ・ビン・ラーディンがパキスタンで殺害された旨の報道が駆け巡った。場所はAbbottabadとされている。
 
Steve Herman(Voice of America Bureau Chief)のツイートによると、以下の情報が出てきている。
AP: Bin Laden's compound was 100 meters from a Pakistani military academy.
元ツイート
AP: Discovery of where OBL was living raises questions about how managed to evade capture & whether Pakistan military, intel sheltered him.
元ツイート
「compund」は「壁で囲われた場所」「収容所」などの意味を持つが、なぜそれが「Pakistani military academy」のわずか100mの位置だったのか、そこにパキスタンの軍・諜報機関がどのように関与したのか、果して殺害のために敢えてそこに「釣り出した」または「追い込んだ」可能性は無いのか。いくつかの疑問が残る。
Abbottabadは潜伏先として指摘されてきたパキスタン国境周辺の部族地域「ではない」のであり、このAP通信の情報は今後の情報開示と分析が求められるところであろう。
 
また、
AFP quotes "sr US admin. official" saying #Pakistan NOT notified about op against OBL.
元ツイート
とされているこの情報は果してパキスタン国内情勢への配慮なのか本当のことなのか。アメリカとパキスタンとの関係はここのところ必ずしも良好とは言えない状況であった中、なんらかの「取引」材料とされた、ということはないのか。ここもまた疑問が残る。
果して、「Pakistani military academy」の至近で行われたこの行動はパキスタンに伝えられずに実行された、ということが有り得るのだろうか。最も、パキスタンの諜報機関に対するアメリカの不信を考えれば、有り得るとも言えるが。

果して「殺害」すべきだったのか


 
9.11同時多発テロにおいて、アルカイダ、そしてウサーマ・ビン・ラーディンの関与がかなり早期に断定されていた。
一方で、その関与を裏付けるキーマンと目されているハリド・ジェイク・モハメドについては、悪名高いグアンタナモにおいて水責めが行われたと米政府も認めており、その証言の信憑性には疑問も残る(「CIA長官、アルカイダ容疑者への「水責め」認める」AFP通信)。

アメリカの公式報告(The 9/11 Commission Report: Final Report of the National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States)において、9.11同時多発テロの発案はハリド・ジェイク・モハメドとされており、ウサーマ・ビン・ラーディンは彼から計画を持ちかけられた、とされている。

そもそもウサーマ・ビン・ラーディンは当初計画への関与を否定し、犯行声明を出したのは事件の3年後である。反米闘争に身を投じていた彼が、実際に計画を実行したとしたら、何故これほどの期間を空ける必要があったのだろうか。

そして、肝心のハリド・ジェイク・モハメドについては今だ公判審理が行われておらず、それが行われることが決定したのでさえつい先月のことなのであり、様々な疑問が指摘されている中、真相はこれから解明されるところであるとさえ言える(「9.11被告ら特別軍事法廷で審理へ、オバマ政権が方針転換」 AFP通信 2011/4/5)。

一つだけ言えることは、これらの解明すべき諸々は、ウサーマ・ビン・ラーディンの死によって永久にその本人の口から聞けなくなってしまった、ということである。
他にも多数のテロに関与したとされる彼の口を、結果として封じてしまったのは果して正しい行動だったと言えるのだろうか。
 

為された「正義」とは何なのか?


 
自分としては、今回のウサーマ・ビン・ラーディンの殺害は、上述の点を除いたとしてもなお、「遺憾」であると言わざるを得ない。
民主主義、自由主義として、「あらゆる」犯罪はそれを法の下に裁き、審理の下にその裁きを行うべきであり、抵抗が激しく結果として「殺害せざるを得ない」という状況であったのであったとしてもなお「遺憾」であると。
 
オバマ大統領の声明にもあるように、アメリカは当初から拘束のみならず殺害を企図していた、と言うことはできよう。
And so shortly after taking office, I directed Leon Panetta, the director of the CIA, to make the killing or capture of bin Laden the top priority of our war against al Qaeda, even as we continued our broader efforts to disrupt, dismantle, and defeat his network.
そして、今回の作戦をオバマ大統領はこのように述べている。
Then, last August, after years of painstaking work by our intelligence community, I was briefed on a possible lead to bin Laden. It was far from certain, and it took many months to run this thread to ground. I met repeatedly with my national security team as we developed more information about the possibility that we had located bin Laden hiding within a compound deep inside of Pakistan. And finally, last week, I determined that we had enough intelligence to take action, and authorized an operation to get Osama bin Laden and bring him to justice.
最後の部分は「裁判へと引き出す」と読むことができる。一方、「justice」であり「court」ではない。「justice」は「裁判/正義」の2つの意味を持つが、本来「bring」が場所を用いる言葉であるとすれば「court」=「法廷」の方がしっくりくる。もっとも英語常用者ではなく辞書英語なので、この解釈は自分の語学力の拙さ故の誤解かもしれないが、彼を「正義へと引き出す」ことであったとすれば、その後に述べられる以下の文も納得ができる。 
So Americans understand the costs of war. Yet as a country, we will never tolerate our security being threatened, nor stand idly by when our people have been killed. We will be relentless in defense of our citizens and our friends and allies. We will be true to the values that make us who we are. And on nights like this one, we can say to those families who have lost loved ones to al Qaeda’s terror: Justice has been done.
すなわち、今回の殺害により「正義が達成された」、と。
 
しかし、果たして我々の支持する民主主義・自由主義社会において、今回のことを手放しで「正義」と喜ぶことが望ましいことなのだろうか。
結果として「裁けなかった」という点、そして戦闘による死、という「殉教者」としてしまった点は、決して「勝利」ではないのではないか?

ウサーマ・ビン・ラーディンが果して断定の通り9.11同時多発テロの首謀者であったならば、公開の場で、法廷において彼の掲げる「聖戦の否」を、そして「テロの悪」たることを宣言し、立証すべきではなかったのではないか?

オバマ大統領の声明からは「拘束を目指したが結果として殺害せざるを得なかった」というニュアンスは感じられない。
 
確かに戦争状態であった、という点、戦闘中の死である、という点で、必ずしも不法な殺害であったとは言えないだろう。

しかし、9.11同時多発テロの結果、イラク侵攻を生み、そしてその根拠とされた大量破壊兵器存在の情報は結果として虚偽であったという点を考えれば、なお一層慎重に、かつ可能な限りの拘束を目指すべきだったろう。その努力をしなかった、ということはできないが、していた、ということも今の段階ではできない。

そしてなにより、ニューヨークタイムズの指摘にあるように今回の殺害が「共和党から外交政策を絶えず批判されてきた大統領に極めて重要な勝利をもたらした」という大統領選へ絡んだ作戦であった可能性もまた、現状では否定し得ないのである。アメリカの大統領は「戦時」大統領ほど支持されるのだから。

今回のウサーマ・ビン・ラーディン殺害は、確かに“アメリカ”の「正義」ではあったかもしれない。9.11同時多発テロは、その惨劇において憎むべき、忌むべき行為であった。しかし、これが「テロ」に対する「自由を愛する人々」にとっての「正義」であったのか、については疑問を感じるのである。


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