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【正論】パラリンピック通じ共生社会を

(産経新聞【正論】2015年6月3日掲載)
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日本財団会長
笹川 陽平

2020年の東京五輪・パラリンピックまで5年余、日本は2度にわたって五輪とパラリンピックを同時に開催する初の国となる。前回1964年のパラリンピックは障害者スポーツを発展させる大きな契機となった。

半世紀を経た現在、高齢化社会が進み、誰もが参加できるインクルーシブな社会の構築が大きなテーマとなっている。スポーツが社会に与える力は大きい。パラリンピックを成功させることが新しい社会を築く手掛かりとなる。

サポートセンターの立ち上げ

しかし、選手の育成を含め競技団体の基盤はあまりに弱い。われわれは、長年取り組んできた「高齢者や障害者がともに住む街づくり」を教訓に「日本財団パラリンピックサポートセンター」を立ち上げた。オールジャパン態勢でパラリンピックの成功を目指したいと考える。

初のパラリンピックは60年のローマ五輪で戦争負傷者を中心にした「ストーク・マンデビル国際大会」として開催された。パラリンピックの名称は日本人の発案。64年の東京大会で初めて使われ、88年のソウル大会から正式名称となった。2000年のシドニー大会から五輪開催都市での開催も義務化されている。

64年大会には22カ国から500人を超す選手が参加し、現天皇陛下が皇太子として名誉総裁を務められた。渡辺允著「天皇家の執事―侍従長の10年半」(文春文庫)には、大会終了後、東宮御所で開かれた慰労会で「日本の選手が病院や施設にいる人が多かったのに反して、外国の選手は大部分が社会人であることを知り、外国のリハビリテーションが行きとどいていると思いました」との感想を述べられた、と記されている。

大会に先立つ61年、スポーツ振興法が制定されたが、五輪の施設整備が主眼で、所管の厚生省(現厚生労働省)にも障害者スポーツに対するビジョンはなく、日本選手のほぼ全員が療養先の病院や障害施設からの参加だった


定着していない障害者スポーツ

その後、全国障害者スポーツ大会やジャパンパラリンピック競技大会などが整備され、2011年に成立したスポーツ基本法はスポーツを通じた国づくりを明記、14年には障害者スポーツの所管が厚労省から文部科学省に移管された。今秋には文科省の外局としてスポーツ庁も発足し、長く弊害が指摘された縦割り行政は改善されつつある。

しかし生涯スポーツと一般スポーツの間には、組織面だけでなく、国民の目線にも垣根がある。テニス界の雄、ロジャー・フェデラーはかつて日本のマスコミから「何故、わが国にあなたのような世界的選手が出てこないのか」と問われ、けげんな表情で「クニエダがいるじゃないか」と答えたという。

クニエダ(国枝慎吾)は車いすテニスで初めて年間グランドスラムを達成した国際的なスーパースター。フェデラーが目標とするアスリートでもあった。こんな逸話にも障害者スポーツがスポーツとして定着し切っていないわが国の実情がある。

サポートセンターには東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、JOC(日本オリンピック委員会)、JPC(日本パラリンピック委員会)は言うまでもなく、政財界やメディア・教育界、自治体関係者にも参加を求め、国を挙げた態勢でパラリンピックを盛り上げることになる。


注目される日本の取り組み

受け皿となる競技団体の現状を見ると、東京パラリンピックで予定される22競技への出場を目指す国内の協会、連盟26団体のうち7団体は法人格を持たず、選手強化費が出ても経理処理など実務に対応できない状況がある。

これでは選手強化は難しく、センターに各団体の事務所を設け、人的、資金的にサポートするほか、障害者対応が可能なボランティアリーダーの育成、パラアスリートの雇用促進、さらには途上国の障害者スポーツの育成などにも取り組むことになる。

前回ロンドン大会で英国は北京大会を大きく上回る五輪29個、パラリンピック34個の金メダルを獲得、熱気でパラリンピックの入場券280万枚も完売し、大会は大成功に終わった。

ロンドンを見るまでもなく、大会の成功は五輪だけでなくパラリンピックの成否で大きく左右される。メダル至上主義に走るわけではないが、成績が上がれば障害者スポーツに対する理解も広がり、競技の裾野も広がる。JPCが目標とする金メダル22個が実現するよう支援を強化したい。

世界は今、超高齢化社会のトップを走る日本が、今後どのような社会をつくるか注目している。目指すべき社会は、年齢や障害の有無にかかわらず、体力・気力を備えた人が、その能力に応じて参加できる共生型社会である。

東京パラリンピックはその試金石であり、来るべき共生社会に向けた大きな一歩にしたいと考えている。
(ささかわ ようへい)

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