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【読書感想】胡椒 暴虐の世界史

リンク先を見る 胡椒 暴虐の世界史
作者: マージョリーシェファー,Marjorie Shaffer,栗原泉
出版社/メーカー: 白水社
発売日: 2014/12/25
メディア: 単行本
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内容紹介

16~19世紀、血眼になって胡椒を求め、アジアに進出したポルトガル、オランダ、イギリスのなりふり構わぬ行状を、現地の人びと、海賊、商人らのエピソードで描いた傑作歴史読みもの。

 15世紀から17世紀にかけての「大航海時代」は、当時ヨーロッパで珍重されていたスパイスを求めてのものだった、と言われています。

 当時は、胡椒が同じ重さの金と交換されていた、などというエピソードも聞いた事があり(この話は、ちょっと眉唾物みたいなのですが)、すごく価値が高いものであったことは間違いないようです。

 胡椒はほとんど世界中で使われているスパイスだが、西欧の人たちはそれがどんな植物から採れるのかを知らないことが多い。木に生えると誤解している人もいる。だが、インド南西部のケーララ州で育った人なら、胡椒をすぐに見分けられる。なにしろこの地域で胡椒は、アメリカ東部で夏になると芝生にはびこるタンポポと同じく、ごくありふれた植物なのだ。黒胡椒はつる植物で熱帯にしか自生しない。熱帯以外の地ではどうしても育たないというこの事実こそ、胡椒が世界史にこれほど大きな影響を与えた理由の一つである。

 胡椒は、ヨーロッパでは穫れなかったため、一攫千金を目指した人々が、胡椒の産地を目指して、海に出ていったのです。

 この本では「胡椒」そのものについての説明にもページが割かれており、「胡椒」についてのさまざまな「歴史的な誤解」についても言及されています。

 中世の人びとは腐りかけた肉のにおいを隠すため、あるいは肉の防腐剤として胡椒を求めたとよく言われるが、そうではない。さまざまな香辛料を使ったのは主に富裕層だが、金持ちはいつでも新鮮な肉を手に入れることができた。裕福な人たちは肉を大量に食べた。とりわけ、鳥の肉を好んだ。空の鳥は神に近いと考えたのだ。野菜は土に育つので、それだけ神から遠い卑しいものとされた。そこで人びとはありとあらゆる種類の鳥類や哺乳類をせっせと食べた。ハト、クイナ、ノバト、クジャク、ヤマウズラ、チドリ、サギ、ツル、ハクチョウ、ガチョウ、ウサギ、ブタ、シカ、羊、雄牛など、飛ぶ鳥も、足の速い動物も遅い動物もこだわらずになんでも食べた。たとえば1309年、カンタベリーで催された修道院長の就任祝いには、ガチョウ1000羽、ハクチョウ24羽、子ブタ200匹、羊200頭、雄牛30頭が食べ尽くされた。まさに肉類の大盤振る舞いで、その総経費のおよそ13パーセントがスパイスのために使われた。

(中略)

 金のない人たちはスパイスに手が出せなかったし、生の肉を食べることもほとんどなかった。胡椒をわずかばかり、それとスペインから来るクミンを買うのが精いっぱいで、食事といえばパンや粥や水っぽいチーズばかりであり、ときたま魚を食べた。とはいえ、胡椒が肉の腐臭を隠すために使われたという通説は、そうではないと歴史家たちがどんなに力説しても、いまだにまかり通っている。

 中世でも、「食べられる立場の人は、新鮮な肉を食べていた」のです。

 それにしても、すごい大盤振る舞いだなこれは。

 仏教的な感覚からすると、宗教的なお祝いにこんなに殺生をしてもいいのか、とかちょっと思ってしまうのですが、そこは文化の違い。

 金持ちは、高価なスパイスを味つけのためにガンガン使い、貧乏人は、スパイスを使う必要がないものを食べる。

 中世というのは、こんな「食の格差社会」でもあったのです。

 僕もこの本を読むまで、「スパイスは肉の臭みを消すため」に使われていたとばかり、思い込んでいたのですけど。

 いずれにしても、「価値の高い贅沢品」であることは間違いなく、熱帯でしか育たない胡椒を求めて、たくさんの国の人々が、ヨーロッパ各国から、アジアを目指したのです。

 ちなみに、胡椒を求めて航海に出た人たちがどうなったかというと、首尾よく胡椒を手に入れて、何十倍もの利益をあげた者がいる一方で、乗員の半分くらいが死んでしまったり、現地に着いたものの、各国の争いに巻き込まれて十分な仕入れができなかったりと、大きなギャンブルだったようです。

 ポルトガルのキャラック船は2000トン近い巨大な船だったが、膨大な数の犠牲者を出した。フランソワ・ピラールは、キャラック船からなる船団の運命を語っている。1609年にリスボンを発った四隻の船には、それぞれ兵士、船員、船客ら1000人が乗っていたが、ゴアに到着したときは各艇に300人ほどしか残っていなかった。船が過密状態であれば死亡率はとりわけ高くなった。

 1500年代、あるイエズス会士は悲惨な報告を送った――一隻では1140人のうち500人以上が、ほかの一隻では800人のうち300人が命を失ったという。17世紀になると、ポルトガルはインドの駐屯隊を補充すべく、数千人もの兵士を送り込んだ。1629~34年にかけて、リスボンを発った5228人の兵士のうち、生きてゴアの地を踏んだのはわずかに2495人であった。インドに無事に着いたからといって、命が保証されるわけではなかった。17世紀、インドにおけるヨーロッパ人の平均生存年数は三年であった。死因としてコレラだけを見ても、1604~34年の間に2万5000人のポルトガル人が死亡した。なるほど、東洋行きの船に乗せる船員たちに、出航まで足かせをはめておいたわけである。

 これだけ命を落とす確率が高いと、船員のなり手も少なく、犯罪人を無理矢理乗せた、などという話もあるようです。

 当時は(というか、第一次世界大戦までは)、戦争でも、亡くなる人の割合は兵士の1割にも満たないのが一般的でしたから、胡椒を求めての旅に参加するというのは、従軍するよりも、さらにハイリスクだったのです。

 まったく、行くほうも、来られるほうも、あんまり良いことがあったようには思えないのだけれども……

 アジアでの覇権をまず握ったのがポルトガルで、続いてオランダ、イギリスが勢力を伸ばしてきます。

 この本では、アメリカの進出までの、「東南アジアの胡椒貿易の覇権の移り変わり」が詳述されているのですが、これらの国々は、現地でかなり酷いことをやっているんですよね。

 その一方で、人道的なふるまいをみせようとしたイギリス人のトーマス・スタンフォード・ラッフルズさんのような人もいて、ヨーロッパとは全く違う熱帯の景色に魅せられ、感嘆の言葉を遺している人もいます。

 いつの時代にも、どんな国にも、いろんな人がいるものなのだな、と考えさせられます。

 この本のなかでは、船員たちの食生活についても、一項が設けられているのです。

 海の上に浮かんだ船という環境下で、彼らは長旅の途中、どんなものを食べていたのか?

 動物という動物が、アジアへ向かう飢えた男たちの餌食になった――ペンギン、クジラ、アザラシ、カメ、魚、鳥など、歩き、泳ぎ、這い、飛ぶ生きものは何であれ殺され、食肉になった。人間をまったく知らない動物を、素手で捕まえることもあった。ピーテル・ウィレム・フェルフーフェンという男(1609年に殺害された提督とは別人)は1611年、モーリシャス島の様子を次のように記した。「大きさが白鳥くらいの」鳥を「オランダ人は毎日捕まえては食べていた。鳥はたくさんいた。この鳥だけでなく、野生のハトやオウムも棒きれでたたき、捕まえた」。フェルフーフェンが記した大きな鳥はおそらくドードー鳥であろう。島の生息地にヨーロッパ人が侵入してきた結果、ドードー鳥は間もなく絶滅した。

 本当に「なんでも食べていた」ようなのです。

 こういう「現地調達」のおかげで、絶滅してしまった種もいるくらいに。

 胡椒は、ヨーロッパの人々を「世界」に向かわせる原動力になりました。

 でも、この本を読んでいると、彼ら個人個人の運命は、けっして幸せなものではなかった、と考えずにはいられません。

 これだけ多くの犠牲を出しながらも、人類は「世界」を知っていったのです。

 ちなみに、「今日、胡椒の産出量の世界一はベトナムで、世界全体で作られる胡椒のおよそ30パーセントを占め、インド、ブラジル、中国、インドネシア、マレーシアなどがこれに続く」のだそうです。

 世界の年間収穫量は、約29万トン。

 読んでいると、すごく気宇壮大になる本なんですよね、これ。

 スパイスからみた世界史というのも、なかなか面白い。

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