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川崎少年殺害から見えてくる日本「移民」社会の深層と政治的欠落 - 杉山春

社会につながることのできない少年たち

2015年2月20日未明、川崎市川崎区の多摩川河川敷で、中学1年生上村(うえむら)遼太さん(13歳)が亡くなった。全裸で真冬の川で泳がされたあげく、顔などを繰り返し切りつけられ、工業用カッターナイフで首を深く傷つけられたのが致命傷となった。近くに結束バンドが落ちており、膝にはあざがあった。手足を縛られ、膝をついた状態で暴行を受けたのではないかと推察された。

残忍さが際立つこの殺人に関与したのは3人の少年で、18歳の無職のAが主犯として殺人罪で逮捕された。両親と兄弟がおり、母親がフィリピン人だ。Aは高校を中退していたが、中学時代の同級生B(17歳)と、一歳年下で、別の中学を卒業したC(17歳)が傷害致死で一緒に逮捕された。Cの母親もフィリピン人で、シングルマザーだった。

殺害された少年も、母親がシングルマザーで、5人兄弟の二人目。5歳のとき、父親が漁師を目指して家族で島根県隠岐島諸島の西ノ島町に移り住み、小学校3年生で両親が離婚。小学校5年生になって川崎に移った。中学入学後の昨夏から、部活のバスケット部には顔を出さなくなり、年上の友達と行動を共にするようになる。昨年12月に少年Aのグループと出会い、1月から不登校。このころの写真では、Aに殴られ、目の周りにあざを作っている。

この事件が、フィリピンにつながる少年たちによって引き起こされたと知ったとき、直感的に感じたのは、ああ、とうとう起きてしまったという思いだった。

2004年から8年まで、日本で暮らす、外国に連なる子どもたちの取材をした。外国人少年の犯罪は、社会的包摂の失敗から起きていた。ここ数年、特に、フィリピン人の母親を持つ子どもたちの状況が気になっていた。言葉の問題、学校に留まりにくいこと。虐待に近い暴力を受けて育つために起きる親との葛藤。そんなものを見聞きした。しかも、その背景を理解する力は、支援者側でも不十分だった。社会につながるための特別なサポートは、あまりにも乏しかった。

一方、母子家庭の貧困問題の根深さも日本社会の大きな課題だ。貧困のなかで育つ子どもたちは、社会資源の乏しさにより、やはり社会につながりにくい。

この事件は、現代日本が抱える政治的欠落が、最も弱い立場の少年の惨殺という形で噴出したと感じた。

川崎区の「ニューカマー」フィリピン人女性たち

シングルマザーの困難とはどのようなものか。

通夜の後、被害少年の母親は弁護士を通じて、「少年が学校に行くよりも早く出勤し、遅い時間に帰宅するので、息子が何をしていたか、把握できなかった」とコメントを発表した。この言葉に、多くのシングルマザーや支援者が共感を表明した。

日本のひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%。その85%が母子家庭だ。シングルマザーの約8割が就労している。シングルマザーは、時にダブルワークで家計を支え、そのため子どもと向き合う時間が限られ、子育てに支障が出る。

その背景には、日本社会における母子家庭の急増、労働政策により、家計を支える男性の労働に対し、女性の労働はその補助と位置づけられてきたこと、非正規雇用が拡大したことなどがある。

この事件が起きたのが、川崎市川崎区であったことも、偶然ではない。京浜工業地帯の一角にあり、戦前から多様な人たちが流入してきた土地柄だ。

2015年5月、川崎区の簡易宿泊所2棟が焼け、10人が死亡した。日本の高度経済成長期を支えてきた労働者が高齢化し、生活保護を受けるなどして、かつて「ドヤ」とも呼ばれた宿泊施設で生活していた。この場所は、上村さんや少年Aらが遊び回っていた地域に隣接している。さらにいえば、同区の人口の約5パーセントが外国籍だ。戦前から日本で暮らす在日韓国朝鮮人などの旧植民地出身者やその子孫はオールドカマー、1980年代以降に日本に来日して暮らす人々はニューカマーと呼ばれる。

地域にあるカトリック貝塚教会は、日曜日午後に英語のミサを行ない、外国人200~300人が集まる。その8割がフィリピン人女性だ。80年代後半から90年代初めにかけて「興行」在留資格で来日し、日本人男性と結婚し、日本人の配偶者としての在留資格に変わった。彼女たちを女性移住者と呼ぶ。加害少年には、そんなフィリピン人女性を母親に持つ者が二人いた。

事件は、地域で暮らすフィリピン人の母親たちに強い衝撃を与えた。その一人、10歳の男の子を育てるシングルマザーのマリアさん(仮名 45歳)は言う。

「ショックでした。私は生活保護を受けていますが、できるだけ保護費をもらわなくて済むように、精一杯働いてきました。でも、事件の後は、働く時間を短くして、夕食を一緒に食べて、話を聞いて、宿題をチェックしています。長男は失敗しましたが、次男はちゃんと育てたいんです」

マリアさんの不安定で低賃金の仕事に忙殺される困難は、日本人のシングルマザーのそれに重なる。

非行の末に長男はフィリピンへ強制送還

マリアさんは1990年20歳の時に父親を亡くし、母親と二人の妹と弟一人を助けるために、興行ビザで来日した。マリアさんの送金のおかげで妹たちは大学に行った。

来日当時はフィリピンパブで働き、客の日本人男性と親しくなり、長男を出産した。男性は50歳を過ぎていた。結婚には至らず、不法滞在になり、フィリピンに帰った。長男が2歳になったとき、親族に預けて再来日する。水商売で働き、間もなく鳶職の男性と交際を始めた。男性の母親の強い反対で結婚できず、不法滞在だった。マリアさんの稼ぐお金を運転資金に二人は会社を経営、猛烈に忙しかった。

家庭に入ったフィリピン人女性が働くのは、フィリピンへの送金のためだ。フィリピンから来日した人たちのほとんどが親族に送金している。フィリピン人女性たちは、外国人労働者でもある。

マリアさんは37歳で次男を妊娠して入籍。日本人の配偶者としてのビザを得て、11歳になっていた長男を日本に呼びよせた。長男は中学に入ると家出を繰り返した。学校に行かず、同じような立場の少年たちと遊びまわり、窃盗や万引を重ねた。息子と顔を合わせない時期が長く続き、騒ぎを起こして警察から連絡が来て無事を知った。

長男は17歳で父親になる。だが彼女とはうまくいかず、ビザの更新時に万引で捕まって、フィリピンに強制送還になった。

実はこの頃にはマリアさんはすでにフィリピンに次男を連れて帰国していた。リーマンショックをきっかけに会社が傾いたからだ。夫はフィリピンの学校で次男に英語を覚えさせたいと言った。地元でマリアさんは蓄えていたお金で技術者を雇い、小さな美容室を始めた。帰って来た長男にも手伝わせた。

5年間、日本とフィリピンを行き来し、昨年、次男を連れて日本に戻った。次男に日本の生活習慣や言葉を忘れてほしくなかった。それからまもなく離婚を決めた。夫の暴力が原因だった。

母親への暴力目の当りにして心を閉ざした長男

実はマリアさんは、夫と一緒になって以来、毎日のように暴力と暴言にさらされてきた。久しぶりに日本に帰って、夫から暴力を受けたとき、10歳になっていた次男は、「ママ、もういいよ、この人と別れよう」と言った。その言葉で決心がついた。

離婚を最も喜んだのが、フィリピンで暮らす長男だった。

11歳で来日した長男は、新しい父親が母親を殴るのを目の当たりにした。新しい父は彼にも暴力を振るったが、マリアさんは長男を守らなかった。それどころか、マリアさん自身が密室で、息子たちに手を上げた。夫から暴力を受けて気持ちが荒むと、息子達の反抗を余裕をもって受け止められなかった。長男は家に居場所がなかった。「長男はフィリピンでは誰にでも素直に気持ちを話せる子どもだったと面倒をみていた妹は言いました」。

しかし、暴力のなかで長男は心を閉ざした。その彼を迎えたのが不良仲間だった。マリアさんは誰にも相談できなかった。

「フィリピンでは日本人と結婚するのは幸せなことだと思われています。母や妹に、自分が夫から惨めな暴力を受けているとは伝えられなかった」

地元で暮らす友達のフィリピン女性たちにも話せなかった。皆、同じような悩みを抱えている。会ったときには別の話をして楽しみたかった。

自分を語る言葉を持てない子どもたち

暴力は、自尊感情を奪い、恥ずかしさを生む。それが壁になり、孤立化が進む。

日本人男性と結婚した外国人女性のなかで、DV被害に遭うのは、マリアさんだけではない。アジア人女性のパートナーとなる日本人男性にはブルーカラーや年齢の高い人が多い。彼ら自身、必ずしも日本の社会の中で、恵まれた場所を与えられてきたわけではない。彼らのなかには女性と対等だと考える文化を持ちにくい環境で育った人たちもいるだろう。そのようにして、ジェンダー差別やアジアへの差別が家庭の中に持ち込まれる。

いずれにしても、夫婦のあり方は子どもの育ち方に影響を与える。さらには言葉習得の課題にもつながる。日本で生まれ育ち、一見日常会話に困らないように見える子どもでも、言葉の発達には配慮が必要だ。 

日本人の父親は、しばしば子育てに関わらない。父親がタガログ語や英語を話さなければ、家の中の会話は日本語だ。だが母親が日本語を十分に話せなければ、子どもは語彙を増やせない。学齢期に授業でわからない言葉が出て、ついていけなくなる。母親との会話が深まらない。学校側は、成績の悪さを環境要因とは考えず、本人の問題と考え放置する。

そのように育ったあるフィリピン人の母親を持つ青年は、自分の内面を覗き込んだり、気持ちを語ったりする言葉を持たなかった。中学卒業後、引きこもった。就労したいという気持ちはあったが社会が怖い。不安障害を病み、突如、激しい暴力が出た。彼も父親の母親への暴力を見て育ち、母を守れない自分を激しく責める一方、父への激しい怒りを抑圧した。幼いときから、学校などで差別も体験していた。暴力が爆発した時、直前に何があったのか、記憶が飛んでいてわからない。自分の身に起きたことを言語化できないのは、壮絶な苦しみだ。

フィリピンで生まれ、母親が再婚して、2歳で来日した青年も、家庭の中に養父やその家族から本人への暴力があったと言った。母親にはそれを止める力がなかった。学校ではいじめを受けていたが、親に相談はできなかった。中学時代に激しい非行を体験し、それを克服して高校に進学。今は社会人として働いている。

工事用車両を運転する仕事には自信がある。それでも、24歳の今も毎日仮面をつけて暮らしていると言った。怒りの感情はいつもあるという。何に対しての怒りなのか、尋ねてみたが、明確には言葉にならなかった。

離婚の決断も容易ではない

暴力は連鎖する。一人の人間が凄まじい暴力をふるうとしたら、彼自身が暴力を受けた経験があるはずだ。あるいは、家庭の中でDVを見ている可能性もある。

川崎区の事件の少年Aは幼い時、両親の諍いが始まると、家の外に出て終わるのを待っていたという。

暴力を受けてもフィリピン女性たちがなかなか夫と別れられないのは、原則的に離婚を禁じるカトリック教徒であることが大きいとマリアさんは言う。「それから一人親で育てていけるだろうかという不安も強いです。日本に来て、20年過ぎても言葉がわからない人もいる。そういう人はなおさらです。一人で手続きが出来るとは思えないから諦めてしまう」。

マリアさんが離婚を決意できたのは、フィリピンで暮らし、暴力から遠ざかって、精神の健康を取り戻していたことが力になった。20歳という若さで家族を離れて来日、水商売に就き、生活者としての知恵を身につける機会は乏しかったが、母国で人々の日常生活に触れ、貧しいなりに、生活をする方法を身につけることもできた。

夫に階段から突き落とされた日、マリアさんは自分で警察を呼んだ。さらに、警察に教えられ、市の窓口を訪れ、DV支援を受けた。生活保護にもつながり、自力で家を借りた。公的機関の支援を受けるには力がいる。暴力を受けながら勇気がないままに、時が過ぎていく人もいる。

出自、地域で統一性を欠く日本の対応

日本で暮らす外国籍の人たちは、2014年末時点で212万1831人。1年で3パーセント弱増加している。日本政府はかたくなに移民政策を取らず、代わりに多様な形で側面から外国人労働力を確保してきた。そのため、日本で暮らす外国人の在留資格は出自ごとに特徴がある。

南米出身などの日系人は、日系3世までとその配偶者が得られる「定住」を在留資格に持つ者が多い。仕事を選ぶ上で制限がなく、工場労働などに派遣業を通じて就労する。かつて日本には31万人を超えるブラジル人が生活をしていたが、リーマンショックをきっかけに大きく数を減らし、現在は17万5000人ほどだ。

中国人は、日本人の配偶者としての資格や、留学生、技能実習生など多様な在留資格をもつ。ベトナム人は難民、あるいは技能実習生が多い。

技能実習制度は、建前上は国際貢献として、途上国の若者に日本の進んだ技術をOJTで学んでもらうというものだ。だが、正面切って移民政策をとらない日本が、実質的に単純労働者を受け入れるルートになっている。このことには国内外から、不当労働の温床であるとの強い批判もある。だが、2020年の東京オリンピック開催に向けて必要となる建設労働者獲得を、政府はこの技能実習制度を拡充し、期間を延長したり、再入国を認めるなどして、実現しようとしている。今回も「移民政策」は行われない。

フィリピン人は8割までが女性だ。かつては「興行」の在留資格が多かったが、今は、日本人の配偶者等の在留資格が多い。生活の質は家庭内の日本人の夫との関係に左右され、外からは実態が見えにくい。もちろん、夫婦仲が良く、子どもをしっかりと支える夫婦もいる。一方、言葉の課題などもあり、支援が入りにくく、夫婦の関係が落ち着かない家庭も少なくない。

筆者が日本で暮らす外国人の取材を始めた2004年当時、政府の外国人住民への施策はないに等しかった。地方自治体が必要に迫られて対応し、居住地域によって受けられる支援は大きく異なった。その後、多文化共生指針を出す自治体が増え、義務教育年齢の子どもの就学保証や相談体制の充実、日本語学習機会の提供、医療を通訳付きで受けられるシステム、言語や生活習慣等の違いに配慮した保育環境の整備等々、生活者対応の施策は少しずつ充実してきた。

だが、国としてのまとまりは欠く。学齢期の言葉の学習支援一つとっても地域差は大きい。

移民政策への取り組み「待ったなし」

ニューカマーが日本で暮らし始めて、四半世紀以上が過ぎ、2世が成人していく。次世代は日本社会と混ざり始めている。

ハンディを乗り越え、社会の様々な分野で安定して働く人たちがいる。そうした人たちの背景をよく見ると、親であれ、学校の教師であれ、親身に未来を考えてくれた大人がいたことに気づく。社会を信頼する力が育っている。

一方、社会適応できにくかった人たちがいる。こうした若者について、長年、支援に関わってきた人から「子どもたちは人種ではなく、階層で繋がり始めている。社会から弾かれた子ども同士が、自然発生的に関係を作り、グループ内から抜け出せなくなる」と聞いた。

再び川崎区の事件を顧みると、被害者上村さんは、親や社会から十分な庇護を得られず、少年Aのグループに出会った。その後、無料通信アプリLINEで友達に「グループから抜けると言ったら暴力も激しくなった。もう限界だ。殺されるかもしれない」と伝えている。

上村さんは、西ノ島でも川崎でも友達から愛されたと報道された。リーダーの少年Aは上村さんがグループから抜けて、違う「階層」に戻ることが許せなかったのではないか。事件の約1カ月前、少年Aは上村さんに激しい暴力を加えている。それに憤った上村さんの友人グループは少年Aに謝るよう詰め寄った。彼は「カミソン(上村さんの呼び名)のためにこれだけの人が集まったと思い、頭にきた」と供述している。

少年Aの噴出するような暴力は、上村さん個人に向けられた、というよりも、決して社会の中に居場所を見出せないことへの憎悪なのではないか。

少子高齢化が進み、年間22万人が消えていく日本社会で、外国から人を迎えることはもはや不可欠だ。だが、そのためには、子ども達の未来までも見据えた施策が必要なことは言うまでもない。

社会の中に外国に連なる人たちを丁寧に位置づけていくことは、日本に来てくれる人たちの人権を守るということだけでなく、日本の社会の安定のためにも大切なことだ。

正面から取り組む「移民政策」は待ったなしのはずである。

nippon.com別館


杉山 春
杉山 春 SUGIYAMA Haru
1958年生まれ。雑誌記者を経て、フリーのルポライター。著書に、小学館ノンフィクション賞を受賞した『ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館、2007年)のほか、『移民環流―南米から帰ってくる日系人たち』(新潮社、2008年)『ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書、2013年)など。

■元記事
川崎少年殺害から見えてくる日本「移民」社会の深層と政治的欠落

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