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広報に戦略は必要なのか

NHKドラマ「64(ロクヨン)」の放送が終わった。地方県警を舞台に起こった2つの誘拐事件を広報官の視点で描いた物語で、広報室のメンバーがメディアと組織のはざまで思い悩みながら行動していく。

全640ページの原作の「厚み」には及ばない感じがしたが、主人公の広報官・三上を演じるピエール瀧が捜査指揮車に乗り込み、記者会見場の広報室員に事件の経過情報を送るシーンは、映像ならではの迫力で緊迫感が伝わってきた。

夜を徹した記者会見のシーンは、見ていて本当に悔しかった。捜査の責任者ではない二課長を会見者として出さざるを得ず、記者から突き上げられる。記者からの質問に答えられない二課長が答えを求めてあたふたと捜査本部と会見場を往復する。広報官は二課長と一緒に走り、広報室員はなすすべもなく会見場で立ち尽くしている。

最後には三上が捜査責任者の一課長を口説き落として自らが捜査指揮車に同乗するという荒わざに出るのだが、その前にもできることはあったはずだ。誘拐事件は情報の出し方が格別難しいことはわかるが、たとえ事前に十分な情報が得られなかったとしても、記者の質問を想定することは十分可能である。毎日記者クラブと対峙している広報なら、記者が知りたいことは想像がつく。その上で出せる情報と出せない情報を区別すればいい。時の流れにただ身をまかせるのではなく、会見中であってもやれることがあるはずだ。もっとジタバタしていいのではないのか。

事件の記者会見の経験などないくせに、ちょっと熱くなってしまった。ドラマでは、ひ弱なキャリアの二課長が走りに走ってぶっ倒れるというのが、映像として求められたのかもしれない。いずれにせよ、準備・信頼関係・想像力のどれか、または全部が欠如するとメディア対応はまったくもってうまくいかない、という基本的なことがこのシーンからわかる。

この小説の好きなセリフに、広報室員の美雲が「戦略なしにマスコミ対応ができるとは思いませんが、本当に窓を開こうとするなら、必要以上に戦略を仕掛けないことが最良の戦略のような気がしてなりません」というのがある。三上が県警の広報の役割を窓にたとえたことを受けてのセリフだ。ドラマでも原作に忠実に再現されていてうれしかった。

それにしても、戦略ってなんだろう。このあいだBSジャパンの「あの年この歌」という番組で、THE ALFEEの高見沢俊彦がこんなことをおもしろおかしく話していた。まだバンドが売れる前の1970年代終わり頃に「冬将軍」という曲を作った。曲のイメージから北海道を中心に売り出そうとして戦略をたてた。当時は有線放送が全盛の時代で、札幌を中心に有線向けのキャンペーンを展開したけど、その冬は暖冬だった。冬将軍なんか待てど暮せど来ない。

戦略なんて、こんなものではないのか。しょせん、何かをコントロールしようとしても不可抗力でおじゃんになるときもある。特に広報の仕事は、計画を綿密に立てて発表しても、突然出てきた別の大きなニュースに呑み込まれてしまうこともある。

広報は、結局は愚直にあたりまえのことをあたりまえにするしかないのではないか。企業や組織の等身大の姿を世間に見てもらって信用してもらうことである。広報に戦略という言葉を使うと、身の丈以上によく見せたいという虚栄心が見え隠れているように思えてならない。

そういいながら、わたしもうっかり広報戦略などと口走ってしまうことがあるが、その後かならず自己嫌悪に陥る。よしんば広報に戦略があったとしても、それを戦略に見せないのが広報の品性だと思う。そもそも広報に戦略が必要なのかどうなのか、この仕事に20年近く取り組んでいるが、正直に言うとわたしにはわからない。

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