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「静岡型県都構想」- 大都市行政、広域行政の新たな方向性

 新たな立法措置を講じてまで、その実現に向けた取組が続けられてきた大阪都構想、住民投票によって否決されてから明日(5月31日)で2週間になる。

 国政では今週から安保法制改め平和安全法制が審議入りし、党首クラスやベテラン議員が登壇しての激しい論戦が繰り広げられている。(野党側にツッコミが甘い質問が見られたり、与党側も整理されていない答弁やチグハグな答弁があったりと、まるで特定秘密保護法案の審議の時のように心許ないところもあるが。見事な論陣を張っていたのは、今のところ維新の党の江田前代表や柿沢幹事長、それに「ポツダム宣言」を引き合いに出して、党首討論で安倍総理を窮地に追い込んだ、共産党の志位委員長ぐらいか。)

 そうした中で、静岡県の川勝平太知事が、大阪都構想実現に向けた橋下市長の「勇気と行動力」により二重行政に関して大きな問題提起がなされたと評価した上で、静岡市、浜松市という指定都市が二つある静岡県についても、二重行政の解消を目指していくべきであると述べたことが、報道された。もっとも知事は、東京都同様に静岡市を解体して複数の特別区を設置するといったことを考えているのではなく、市が県から完全に独立する特別自治市や県と市の一体化による行政の一元化を選択肢として考えているようである。(なお、都構想否決に対するコメントに関連して、静岡市の田辺市長は、静岡市としては「特別自治を声高に求めるよりも、政令市(指定都市)として実力をつけていくことが先決。その中で県との連携を模索することが必要」としたようである。あまりにも無味乾燥な内容のコメントに、この方は大都市制度についてどこまで理解できているのだろうかと、邪推したくなる。)

 川勝知事はこの考え方を「静岡型県都構想」と名付けている。具体的な方向性としては、県庁所在地、すなわち県都である静岡市については県と一元化し、市長は静岡市担当の副知事に、市職員は県職員に、現在の行政区は総合区制度を活用して権限を強化するといったことが考えられているようである。一方、浜松市については県庁所在地ではないということもあり、特別自治市として県から独立してはどうかと考えているようである。

 静岡市を廃止はしないが、県都を県の直轄都市として県の行政に組み込み、二重行政を解消するとともに静岡市の行政、地方自治の質の向上を目指す、川勝知事の「県都構想」を一言で表せばこういうことになろうか。

 さて、この「県都構想」、まだ知事のアイディア段階のようであるが、大都市、特に要件の緩和以降に指定都市になった大都市の今後を考える上で、重要な論点を含んでいると思う。

 まず、大都市制度、つまり指定都市制度は、簡単に言えば人口規模の大きな市について、道府県並みの権限を持たせることで自立的な都市経営、地方自治を可能とするもので、近年では地方分権改革や市町村合併の推進の流れの中で、その数が拡大してきた。現在、その数は20都市である。指定都市になることで自立性が高まるといったメリットがある一方で、道府県並みになるのであるから、一つの道府県の中に道府県がもう一つできるということと同じこととなり、二重行政の弊害が生じうるようになる。(このことについては大阪都構想において繰り返し指摘されてきたとおり。)加えて、特にここ数年で指定都市となった市について言えることだが、人口要件を整えるために複数の周辺市町村と合併を繰り返してきたことで、身近な地方自治、地方行政が遠のいてしまいうる。少々雑な言い方かもしれないが、図体がデカくなったことで、小回りが利きにくくなり、きめ細やかなサービスの供給が難しくなってしまうということである。

 次に、人口減少の問題。70万人という人口要件を整えたとしても、我が国全体として人口が減少傾向にあるところ、大幅な出生数の増加ということでもない限り、人口減少は避けて通ることはできない。そうなれば、人口規模が大きいから指定都市という論理は成り立たなくなる。実際、川勝知事は「県都構想」の提唱の背景として、静岡市の人口減少を挙げている。4月1日現在で静岡市の人口は70万3937人であり、いつ70万人を切ってもおかしくない状況である。70万人を一人でも切ったから、もう指定都市足り得ないなどという杓子定規なことは言わないが、なぜ指定都市である必要があるのかという点について、もっと言えば、指定都市制度とは何のために存在しているのか、こうした環境の変化を踏まえて改めて検討する必要が出てこよう。(少々勇み足かもしれないが、人口規模という観点を皮切りに、制度そのものの在り方を見直すというところまで考えを巡らせるべきではないか、ということである。)

 そして、道州制といった新たな広域行政制度の導入を念頭に置いた、道府県と指定都市の関係、道府県の役割をどうしていくべきなのかという点である。「県都構想」のアイディアの中では、県の役割を県庁所在地都市の経営・行政にまで拡大することが示されている。これは、私なりに解釈すれば、指定都市である県庁所在都市の行政を広域的なものと基礎的なもの、住民に身近なものとに分け、前者は県が、後者は市ではなく市の行政区が総合区となって担うということであるかと思う。形式上静岡市は廃止せず存続しながらも、実質的にはその役割を終え、県と総合区が役割分担する、まさに場所を変え、カタチをアレンジした「都構想」と言えよう。

 将来的に道州制が導入された場合に、道や州とその管下にある市の関係を考える時、別の観点から言えば、道州制下での近接性の原則と補完性の原則を考える時、道都や州都を道や州が直轄的に経営した方が効率的であり、当該道や州の成長戦略にも資するという判断もありうる。そうしたことを考える上でも「県都構想」は先行事例となりうるのではないか。

 その他にも論点はありうるが、現状ではまだアイディア段階であるし、県が指定都市を直轄運営するということは現行制度が予定しているものではない。したがって、というより当然のことながら、「県都構想」実現可能の域に達しているものではない。

 しかし、大阪都構想がそうであったように、構想をぶち上げ、検討を重ね、中央政府や国民にその必要性を発信することで、実現一歩手前まで漕ぎ着けた。結果的に実現はしなかったものの、これが起爆剤となって大都市制度について再検討が加えられ、総合区や調整会議といった制度が新たに設けられ、「都構想」そのものではないにしても、それに近い新しい大都市行政が実現する可能性が出てきた。

 静岡市の田辺市長は反発をしているようであるが、「県都構想」十分に検討する余地はあるし、我が国の大都市制度や広域行政制度に変革をもたらす起爆剤となる可能性は大いにあるのではないだろうか。

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