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カンヌ映画祭に登場したシー・シェパード代表 水族館イルカ問題にも便乗 背後にある動物園、水族館潰し - 佐々木正明

シー・シェパードの首領がカンヌ映画祭のレッドカーペットを歩いた。豪華なドレスで着飾った美しい新妻を引き連れて。ロシア出身のその女性とは滞在先のフランス・パリで出会い、今年2月14日のバレンタインデーに結婚したばかり。

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カンヌ映画祭のレッドカーペットを新妻と歩くポール・ワトソン(ポール・ワトソンFace Bookより)

新妻とレッドカーペットに立つ
国際指名手配犯

 64歳のポール・ワトソンは日本や中米コスタリカが出している逮捕状などまったく気にかける素振りも見せず、そして、拘束先のドイツから国外逃亡した行為でインターポール(国際刑事警察機構)が国際指名手配している事実などまるでなかったかのように、堂々と世界のカメラマンたちのフラッシュを浴び、「海洋保護団体シー・シェパード」の存在を世に知らしめた。

 団体が制作に関わった映画祭出展作品の上映に招待されたのだった。「さすがフランス。やることが違う」。ある映画人が言った。「カンヌ映画祭は国際指名手配犯が気軽に出席できる場所なのか」。ある日本人はTwitterでこうつぶやいた。

 反捕鯨国のフランスでは、一部の人々が(もしかしたらほとんどが)、日本の捕鯨やイルカ漁に圧力を加えてきた“貢献者“であるポール・ワトソンを温かく迎え入れている。

 今年3月、日本政府の関係者がフランスに出向き、ワトソンの身柄引き渡しを請求したところ、現地の治安当局者に一笑に付されたのだという。「捕鯨を続けている日本が何を言うか」というフランス人の思いがにじむ。ワトソンはフランス各地で講演活動を続けているが、会場はいつも満員状態。聴衆は「日本の漁師たちは、知性動物に対して残虐な行為を行っている無慈悲な殺し屋だ」と言い放つワトソンの言葉に喝采を送る。

 ゆえに、フランスが世界に誇る映画祭の舞台で、ワトソンが歩いたとしても誰も咎める人はいない。きっと、出席のために費やされたお金が、日本の漁師や捕鯨関係者をいびって儲けた寄付金が元であることに多くの人々が気付いていない。ワトソンと彼の妻は、世界中から招待された俳優や映画監督と同様、フランスではVIP扱いなのである。

 カンヌからインターポールの本部があるリヨンまでわずか450キロ。インターポールの国際指名手配リストに掲載されている巨漢の首領は、人権の国での自由と恋愛を謳歌している。

ワトソンは先に起こった世界動物園水族館協会(WAZA)と日本動物園水族館協会(JAZA)の問題でもかみつくことを忘れなかった。

 JAZA加盟の動物園や水族館は5月21日、WAZAの勧告を受け入れ、和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲したイルカを今後、いっさい入手しないことを決めた。反響は大きく、このニュースは世界中で報じられた。

 さかのぼると、ワトソンは2003年に当時の妻(離婚)と右腕のオランダ人幹部を太地町に送り込み、イルカ漁に妨害を加えた。それがシー・シェパードと太地町の関わりの初めだ。それよりも前から国内外の保護団体が反イルカ漁運動を続けていたのにもかかわらず、ワトソンは「太地の問題が国際的なメディアの注目を浴びたのは、シー・シェパードが国際社会に訴えたからだ」とうそぶき、日本の水族館イルカ問題を解決した最大の功労者はシー・シェパードだと高らかに宣言した。

他人の手柄を我がことのように喧伝する 
シー・シェパードの常套手段

 他者の成果は自らの団体の成果のように売り込む。シー・シェパード成長の奥義だ。だからこそ、結成40年、他団体との手柄争いにも負けず、成長を続けてきた。実際、水族館イルカ問題が大きく動いた背後にはシー・シェパードとは関係のない「Australia for Dolphins」(AFD)というオーストラリアのイルカ保護団体が関わっていた。

 日本のイルカ漁撲滅を団体の活動理念に掲げるAFD代表、サラ・ルーカスは昨年、日本を訪れ、太地町を相手どって損害賠償訴訟を起こしていた。ルーカスが町営のくじら博物館の入場を断られたのは「人権侵害」にあたるとして町に慰謝料を払うよう求めたのだ。

 豊富な資金力があるAFDの活動は多岐にわたる。「オーストラリアの恥」と称して太地町と姉妹都市を結ぶ豪北西部の都市にさえ圧力をかける団体は、今年3月、WAZAのある本部スイスでもWAZAを相手に訴訟を起こしている。太地産のイルカを購入し続ける日本の水族館はWAZAの倫理規定に背いており、WAZAがJAZAを除名しないのはおかしいというのである。

 WAZAがJAZAに最後通告を突きつけてきたのはAFDの提訴の1カ月後だった。それまで日本側との交渉に応じていたWAZAの態度が急変し、JAZAへ強硬な手段に出るようになったのはこの提訴が関連していると、多くの日本側の関係者が指摘している。

 サラ・ルーカスはJAZAの決定後、英紙ガーディアンの取材に応じ、水族館が太地産イルカ入手をやめたことは大きな成果だと強調した。さらに、「(漁の)終わりの始まりだ」と答え、太地町の「イルカ狩り」を完全停止に持ち込むまで活動を強化していくことも強調した。

 WAZAは50カ国以上の動物園、水族館が加盟する民間団体に過ぎない。しかも中国や韓国、ロシアなど加盟していない国家も多い。国際的NGOや国際組織のように人員も予算も少なく、すべての問題に対応できる力は持っていない。

 野生のイルカの入手を制限すれば、次はキリンやゾウなど他の動物の獲得や飼育、園展示にも影響してくる。主要国の動物園、水族館を束ねるWAZAは今回の決断で、自分の首を自分で絞めたのだ−−。動物園や水族館の運営に詳しいある関係者はこう漏らした。

 「WAZAもJAZAと同様に被害者なのだ」

 関係者の言葉は、世界の動物園、水族館がここ数年、どのような状況に置かれてきたかということと深く関わっている。

「動物を搾取してはいけない」「動物にも生きる権利がある」と主張する動物愛護団体は、動物園や水族館に様々な形で圧力をかけている。イルカに限って言えば、すでにオーストラリアやニュージーランドでは飼育している水族館はない。米国でもイルカショーどころか、イルカを展示している水族館自体が減ってきている。

動物愛護の名の下に潰されていく 
動物園、水族館

 完全菜食主義者(ビーガン)のポール・マッカトニーや、ナタリー・ポートマンら有名人を広告塔に持つ米国最大の動物愛護団体PeTAの主張は象徴的だ。「動物を入れる檻や窮屈な囲いは、基本的欲求を享受するための機会を動物たちから奪っている」

 PeTAは動物園や水族館の存在自体を否定している。動物への優しい待遇を推進する「動物福祉」論や、動物に対する人間の恣意的な搾取や抑圧は「種差別」に当たるという指摘、そして、緑の地球を維持するのは、人類の利益のためではなく、この世の全ての生命存在のためだとする「生物中心主義」(人間中心主義と対比される)はイルカや鯨だけでなく、全ての動物の生きる権利を守ろうとする活動家たちの行動基盤となっている。

 こうした論理は、この地球にとって「人間こそが排除すべき敵なのだ」とする過激思想にまでエスカレートさせる。そうして、原理主義者たちを生み、彼らが行動を起こす「正義」へと昇華する。

 太地産イルカを断ち切ったJAZAの決定は世界の動物愛護団体から歓迎されている。この歓喜の裏で、一部の活動家たちは仲間や資金を募り、動物園や水族館を地球上から廃止しようと目論んでいる。

 日本の水族館でもそうした波を受けて、「水族館の水槽を空っぽにしよう」という運動がすでに始まっている。

 新妻と一緒に歩いたカンヌ映画祭のレッドカーペットはワトソンの人生にとってよほど意義高いことだったに違いない。彼の言葉にその気持ちが表れている。

 「ヤーナ(妻の名前)と私は2人でディナーやパーティーに参加する機会を得た。私たちは海洋保護や気候変動問題など実に多くの人たちと会話を交わすことができたんだ」

 興奮冷めやらぬワトソンはその勢いで支持者たちにメッセージを送った。イルカ漁は「カニバリズム(人食い主義)」と一緒で、「21世紀の時代に、動物に危害を加え、死に至らしめる残虐な文化が存続してはならない」のだという。

 「シー・シェパードの目的は、イルカのいる全ての水族館を閉鎖することだ」

 もしかしたら、今回の日本の水族館イルカ問題は将来起こりうる「水族館テロ」につながる大きな節目となった出来事だったのかもしれない。

 命あるものの尊さを伝えてきた動物園や水族館の存在意義がいま、大きく問われている。

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