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朴槿恵大統領はなぜ第三国での日本批判を繰り返すのか 日韓で食い違う「告げ口」理解 - 澤田克己

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韓国の朴槿恵大統領が5月4日、安倍晋三首相が米上下両院合同会議で行った演説について「慰安婦被害者たちをはじめとする歴史問題に対する真の謝罪をして近隣諸国と信頼を強化できる機会を活かせなかったことは、米国でも多くの批判を受けている」と述べた。「米国で批判されている」と主張することで、安倍首相を批判したといえる。朴大統領は20日には、ユネスコのボコバ事務局長との会談で、戦時中に徴用された朝鮮人が働かされた施設を含む「明治日本の産業革命遺産」を世界文化遺産として登録することに反対する考えを伝えた。

 ボコバ氏との会談に関するニュースが流れてきた時、私は編集局内で「朴槿恵さんらしいよね」という声を聞いた。朴大統領が日本にケチをつけるのは珍しくない、という反応だ。驚きがないから、このニュースは翌日の新聞に小さくしか載らなかった。安倍首相の演説への反応にしろ、世界遺産にしろ、日本では「またか」という受け止め方が強いというのが、率直な評価だろう。

 ただ、日本でいわゆる「告げ口外交」と言われる言動について、韓国では一般に「告げ口」という意識が共有されていない。韓国では、朴大統領は「正しいことを正当に言っているだけ」であり、「告げ口」という評価は当たらないという感覚が強い。韓国人とこの話題を話すと、話がかみ合わないことが多いのだ。

 こうした認識の差は、韓国と日本の社会意識の違いからくるように思われる。韓国側の特徴として挙げることができるのは、やはり儒教の影響だろう。ただし、過去の事象にどれくらい適用すべきかは判断が分かれるとしても、基本的人権のような普遍的「正しさ」というものがあるという感覚は、欧米社会にも強い。さらに、世界遺産問題では日本側の主張にもかなり苦しい部分があるのだが、この点については後述しようと思う。

「正しさ」への強い確信

 朴大統領は安倍演説を批判した際、「このように日本が歴史を直視できず、自らの過去の問題に埋没していこうとしているといっても、それは私たちが解決してあげられない問題だ」と続けた。ずいぶんと「上から目線」に感じられる発言だ。朴大統領のキャラクターということもあるのだろうが、それだけではなく、自分たちの立場が絶対的に「正しい」という確信が背景にあると見るのが自然だろう。

これは、儒教に基づく韓国社会の伝統的思考法に則ったものだ。韓国では、「正しさ=正義」が絶対視される。別の言い方をするならば、道徳性が非常に重視される。ただ、正義や道徳性の判断基準は自分たちが決めるので、その感覚を共有しない他者から見ると「正義の押しつけ」になってしまう。だから、日本とは「正しい歴史認識」を巡って衝突することになる。

 現代韓国研究の第一人者である慶応大の小此木政夫名誉教授は「近世までの朝鮮は経済的に豊かでなく、軍事的に強大でもなかった。中国の儒教文明の強い影響下にあったこともあり、『何が正しいか』という名分論で自分たちの正統性を主張するしかなかった。中国との関係では、力ではかなわないから、論理的な反論をする以外に方法がない。それが、『正しさ』を追及する伝統を生んだのではないか」と話す。

 1980年代までの強権的体制の下ではこうした意識が顕在化することはなかったが、民主化と冷戦終結によって重しが外れ、「伝統」の影響力が復活してきたと考えられる。こうした現象は、韓国に限らず、東欧などでも見られることだ。

強い序列意識が背景に

 韓国の社会意識に大きな影響を与えている儒教・朱子学は、序列意識の強いものだ。そして、序列上位のものには道徳性を強く求める「徳治」が強調される。この考えは、国際関係にも持ち込まれる。韓国が自らより序列上位にあると考える欧米先進国や国際機関に徳を求めて、韓国の正しさ=日本の不当性を訴えようとなるようだ。

 その裏には、強大国に力で対抗できない「小国」だと自らを規定する意識がある。周辺国の思惑と争いの中で、自らの運命を主体的に決められずにきた朝鮮半島の歴史を背景にしたものだ。

 だから、過去の侵略行為を否定し、慰安婦問題での日本の責任を否定する(と韓国が考える)安倍首相を、米国が歓迎するようなことは、あってはならないことだ。米国を訪れる外国首脳に対する最高のもてなしである、上下両院合同総会での演説の機会を安倍首相に提供し、過去への謝罪をしない安倍首相に拍手を送ることは言語道断ということになる。

 それなのに実際には、慰安婦問題や植民地支配について演説で明言しなかった安倍首相に、米国の議員たちは総立ちの拍手を送った。韓国の感覚からすれば、あってはならないことだ。韓国メディアが演説後、「韓国外交の敗北」などと大きく書き立てるほどのショックを受けた背景には、こうした感覚があるといえそうだ。

 日本と同じように、韓国にも「国連信仰」がある。世界遺産の問題でユネスコが「正しい」姿勢を見せることに期待する韓国の心理は、安倍演説への反応に通じるものだ。米国やユネスコに「正しい主張」を伝えることは、決して「告げ口」などとは評されないのである。

日本研究者の「声明」に安堵

 米国の著名な日本研究者ら187人が5月4日、慰安婦問題などで安倍首相に批判的な見解を示した「声明」を発表した。賛同者はその後、457人に増えている。

 声明は、慰安婦問題について「最終的に何万人であろうと何十万人であろうと、いかなる数にその判断が落ち着こうとも、日本帝国とその戦場となった地域において、女性たちがその尊厳を奪われたという歴史の事実を変えることはできません」と指摘。戦後70年の今年は「日本政府が言葉と行動において、過去の植民地支配と戦時における侵略の問題に立ち向かい、その指導力を見せる絶好の機会」だとして、安倍首相に適切な対応を取るよう求めた。

 韓国メディアが歓迎したのは当然だが、その背景には、やはり「国際社会が味方をしてくれた」という安堵感があるはずだ。

 研究者たちの声明は、慰安婦問題が「韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました」と中韓を批判する一方で、「強制連行」があったかどうかよりも「非人道的制度を取り巻く、より広い文脈」を重視すべきだと指摘している。普遍的な人権問題としてとらえる国際社会の潮流を反映しつつ、単純な日本批判に陥らないよう苦心した跡のうかがえる内容だ。

 残念ながら韓国メディアの多くは、自分たちの「正しさ」に合う部分だけに焦点を当てて報道し、中韓への苦言は無視したり、簡単に触れるにとどめていた。

 ただ、朝鮮日報が「日本に対する世界の著名な歴史学者たちの批判を、第三者によるものだから意味があるというならば、韓国に対する彼らの苦言も第三者によるものだから価値があると受け止めるのが成熟した姿勢だ」というコラムを掲載するなど、一部ではあるものの、正面から受け止めようとする姿勢も見られたことは留意すべきだろう。

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