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SNS時代の口コミ、本物のニュースとはならず

わたしは、平凡な高校の最終年度を終えた後、生まれ故郷の小さな英国週刊紙のピーターズフィールド・ポストに新人記者として入社した。その後、BBC、CNN、ロイターを経て、ウォール・ストリート・ジャーナルのビデオ部門の編集長となった。50年後の今も、ジャーナリズムに対する深い尊敬の念は変わらない。ジャーナリズムは各方面から攻撃を受け、国民の信頼をある程度失ってはいるが。

 わたしの若手記者としての最初の数カ月間は悲惨だった。文章能力はほとんどなく、自分に求められているものが何か本当のところ分からなかった。ダイヤル式電話で、情報源に電話を掛け、ベルが2回鳴っても誰も出なければ電話を切り、上司に「誰も家にいません」と報告するのだ。

 それから、最も基本的な仕事を与えられた。地元の人たちの誕生、結婚、死亡の詳細について詳報することだ。私の最初の単独での仕事は、エリザベス女王がイングランドの小さな町を訪れたことに関する報道だった。「女王は最近ひかれた風邪の後遺症もなく、お見えになった」と記事を書いた。次の日、そのいい加減な報道に対し叱責を受けた。よい勉強になった。

 当時は書く技術は原始的だった。番号付きの白い1枚の紙に、1ページに1段落の記事を書いていく。続く場合には、最後に「MF(more to follow)」、終わる場合には「ENDS」と記す。署名は入れず、一人称では記事を書かなかった。いずれの行為も、とんでもなく自己陶酔的だと思われていた。

 わたしの記事はそれから、先輩記者にからかわれ、ずたずたにされる。そして印刷工場に行き、植字工が最終原稿を鉛の文字列に変えて印刷する。何日も経って、トラックで運ばれてきた新聞の束がオフィスのドアに届けられるまで、自分の記事がどうなったのかは分からない。

 ジャーナリストの仕事は苛酷であり、大半は退屈で、非常に屈辱的でもあった。違うと思うこともときにはあったが、われわれは全ての記事で世界を変えようとしているわけではなかった。われわれの仕事は小さなコミュニティー内の重要な動きをつまびらかにし、それを地元のニュースを知るのに他に方法のない、ごく限られた読者にとって読む価値のあるものに変えることだった。

 過去50年間で何が変わったのだろう。古いジャーナリストは今も影響力を持っているのだろうか。われわれの重要性は失われ、インターネット、フェイスブック、ツイッターやユーザー主導型のコンテンツに飲み込まれてしまったのだろうか。

 わたしは今も、ジャーナリストは自らを歴史の初稿を提供する存在だと考え、できるだけ公平であるよう努めるべきだと信じている。真のジャーナリズムが、果てしなく続く「リスティクル」(リスト=箇条書きとアーティクル=記事を融合させた造語)や、でたらめの撃ち合い話になり下がるはずがない。それらは多くの熱を生み出すが、光はほとんど生み出さない。また、真 のジャーナリズムは、自動化されたウェブサイトから日々降りかかってくる情報に取って変わられてもいない。

 ジャーナリストは現在、素早く頻繁に記事を出すよう迫る容赦ないプレッシャーにさらされている。称賛される のは「速報」で、目立つ表示がされ、新たな動きを刻々と報じることが期待される。このプレッシャーは、誤報が不可避に なることを意味する。期待されているのは、誤りがすぐに訂正されることだ。ケーブルテレビのニュースでは、「長時間違いが放置されるわけではない」として、この 問題が軽視されることが多い。

 わたしの考えからすると、正確さよりスピードを重視するこの姿勢は、ジャーナリズムの失敗の象徴だ。今 日も、わたしが半世紀前に仕事を始めたときと同様、真面目なジャーナリズムには慎重なニュース判断が必要とされる。読者との信頼関係が壊れると、その 修復はほぼ不可能であることを認識する分別も必要とされる。

 長期的に影響力のあるジャーナリズムは、何かに取りつかれたような、人をイライラさせてばかりの編集者の労力のたまものだ。記者に情報源のチェックとダブルチェックを要求した上で、再度チェックを要求するような編集者だ。正確さと公平さは、読者の信頼を測る尺度である。

 わたしはこの教訓を若い時に学んだ。ダイヤル式の電話と金属活字が使われていた時代にだ。だが、信頼こそが維持する価値のあるものだ。ジャーナリズムがそれをできれば、今後50年間はジャーナリズムにとってまずまず良い時代になると思う。

 (筆者のクリス・クレイマーは現在、WSJのビデオ担当グローバルヘッド)

By CHRIS CRAMER

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