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続・それまでになかった新しいものを創るということ

それまでになかった新しいものを創るということ」という記事で紹介した画家 山口晃さんが、5月17日のTBSの情熱大陸でも特集されていた。やはり売れっ子だ。
「見たぞ!ゆるキャラ絵師のマジ顔 画家 山口晃」という微妙なサブタイトルが付けられていたが、「遅筆」で知られる画家の数ヶ月先の個展に向けた取り組みを密着取材するという番組の目論見が、取材スタッフの次の一言で吹き飛んでしまった。

「次の新作の何かを探している(のですか)?」

一般の団体の京都ツアーの案内役をして菊乃井(料亭)での昼食の余興に絵を描いたりするという、画家の奇妙な様子を取材するところまでは和気藹々と、取材スタッフと画家との距離も近くなったようだった。
そして、山間の温泉旅館で逗留をはじめた。絵の道具がないので、文筆家のように、その場で制作をすることはない。
画家が面白い大切と思う独特の発想が形になるまでは、当然ながら人々はそれを理解することができない。その発想と人々の理解とのギャップが大きければ大きいほど、きっと画家は穏やかな表情に秘められた野心を掻き立てられている。
その大きなギャップを埋めるための戦略を徹底的に考え抜き、表現の構想を練り上げる。そのために、実際に描く時間と同じぐらい(あるいはそれ以上)の時間を費やす。
「それまでになかった新しいものを創るということ」より
縁側で昼寝をしたり、窓の下の渓流を縄張りとするアオサギの様子を観察したりする(きっと)長い時間が流れ、画家がMacBook Airで誰かの絵を眺めているときの質問だった。取材スタッフは、そろそろ画家の言葉が欲しいと思ったのだろう。それは「番組の構成」を考えるとどうしても必要だったのだろうが、不運にも地雷を踏んでしまった。

画家は明らかにうろたえた。
そういうことはあまりしないんですね...
その質問はあまり良くないですね...
そういう考え方は良くない...
危険ですね...この段階で...

カブトムシってサナギの時にいじると死んじゃうんですよ...
今、そういう時期なので...なかなかね...
いまの質問は、サナギをグッとつつくような...うん、デンジャラスな質問ですよ...
そう言いながら、頭の中で説明のための言葉の塊が浮かんできてしまうのを、必死に打ち消そうとしている。言葉の塊がコンテキストを持ってしまうと、どんどん固まっていってしまう。今はその段階ではない。「画家が面白い大切と思うこと」、あるいはそれをどう表現するかは、画家の中でもまだ明確になっていない。まずはじめに、これまでの自分の枠や既成概念を打ち壊して、ひたすら発散しなければいけない。きっとツアーの案内役を買って出たのも、そんな意図もあったのかもしれない。

画家自身も収拾がつかなくなってしまった。話した言葉を打ち消しながら、後ずさりしながらなお話す。
「新作のためとか、そういうのとかでは一切ない、ということですらない、ということを言わない...」
取材は数ヶ月間中断した。個展に向けた取り組みを密着取材するという狙いははずれた。しかし、山口晃さんには申し訳ないが、番組としてはすごく面白かった(興味深かった)。

[画像をブログで見る]

企業の中で、それまでになかった新しいモノやサービスを創り出そうとするビジネスマン(シリアル・イノベーター)は、もちろんアーティストとは違うアプローチが必要だろう。グループでつくるか独りでつくるかという問題ではない。アーティストは完成するまで人々の評価を必要としない。その構想を説明して意見を聞こうなどとは思わない。そういう見方からすると、スティーブ・ジョブズはアーティストだったのかもしれない。「リーン・スタートアップ」でエリック・リースが提唱している「思いこみは捨てて、顧客から学ぼう!」という考え方とは対照的だ。

「それまでになかった新しいものを創るということ」においては、その構想を固めるまえに、まずこれまでの自分の枠や既成概念を打ち壊すところから始めなければならない。この如何にして「発散」するかというところは、アートとビジネスの両シーンで共通するように思う。 その発散の仕方は人それぞれだろう。いろいろなものを見たり、いろいろなことをしてみるのは、構想のヒントを得るためではない。どんな方向がいいのかはわからないが、とりあえず自分の意識や視座を自分から離れたところに置いてみるためだ。画家はアオサギを観察して、そのスケッチに次のような言葉を書いた。
「生きものらしくないライン ギソウ」
「だからなんなのか」ではなく、観たものをコンテキストを持たない単語や言葉のまま放置するために、スケッチとして書いたのだろう。

このブログのタイトルでもある「デザイン思考」は、2008年6月のHarverd Business ReviewでIDEOのティム・ブラウンが提唱したものだ。
Put simply, design thinking is a discipline that uses the designer's sensibility and methods to match people's needs with what is technologically feasible and what a viable business strategy can convert into customer value and market opportunity.
デザイン思考とは簡単に言えば、技術的に実現可能であり、採り得る事業戦略によって顧客価値と市場機会に転換することができる何かを、デザイナーの感性と手法を用いて人々のニーズに調和させる専門分野である。
デザイン思考は、どちらかというと問題解決型のアイデア創出とその実現の方法論で、IDEOのコンサルティングでの多くの実践経験を踏まえて「デザイナーの感性と手法」が非常に論理的にプログラムされている。

このブログでは、「それまでになかった新しいユーザー体験」を提供する「ハード」「ソフト」「サービス」による製品を、どのように創り出すかについて考えている。それには問題解決型のアプローチでは限界がある。「それまでになかった新しいユーザー体験」が、「画家が面白い大切と思う独特の発想」に近いものならば、それを創り出すにはやはりアーティストの感性が必要だろう。

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