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宮崎駿は『オタクの大王』であるという仮説

「宮崎駿は『オタクの大王』であるという仮説」 雑誌「映画秘宝」。価格1000円越えのややマニアックな映画雑誌だ。その「映画秘宝」がこの出版不況の中、発刊20年を超えたということで「<映画秘宝>激動の20年史」というムックが発売された。当時の映画オタク・マニアの好む映画のみならず20年間のサブカルチャーの一断面を描く素晴らしい出来になっている。いわゆる出版の営業やマーケティングに頼らない「オレたちのやりたいことをやる!」「オレたちの好きな事をやる!」で生きのびてきた珍しい雑誌だ。 巻頭、映画評論家の町山智弘氏と柳下毅一郎氏が発刊当時の混沌とした時代を語るのだが、編集部も狂乱の中、トンデモナイ映画狂が出てくるのだ。怪獣に魅せられ全て日本で製造・発売された何百という怪獣模型(中には映画化・テレビ化されない怪獣もあった)を買いまくる少年、香港映画に魅せられまだ日本語版・翻訳もないVHSを山の様に香港で買い付け広東語で見ていた男、大カンフースター・ブルース・リーの世界で現存する全ての写真を一人で収集していた男。・・・町山・柳下ら「映画秘宝」のスタッフは彼らの力を借りて、多少の権利元との喧嘩をものともせず、狂ったような企画を出し原稿を書きまくり雑誌作りにのめり込んだという。まさに「映画秘宝」は映画オタクの総本山だった。

また、一方こんな人もいる。私のある友人は英米SF映画にのめり込む余り、時々アメリカで開催されるSF映画オタク・愛好者の為のコンベンション(大会)に日本から何十年前から行っていたのだが、現地で出来たマニアの友人が長じて後に有名SF監督・撮影監督・ハリウッドの映画会社幹部になっていたり、そのおかげで英米有数の映画スタジオ・SF映画関係者との人脈が出来てしまったという。模型やイラストやコスプレや原作小説に耽溺したオタク少年達が、偉大な監督になっていたのである。映画スタジオの幹部と今でも「あれは見たか?」とメールでやりとりしていると言うのだから面白い。

マニア・オタク・愛好者・収集家・・・時に一般人にはネガティブな意味を持つこれらの呼称で呼ばれる人々も、よく考えればエンターテイメント業界に多大なる貢献をしてくれる。もちろん映画やテレビやアニメやゲームに多大な金銭的見返りをしてくれる。関連グッズも収集してくれる。イベントも盛り上げてくれる。「映画秘宝」で扱われる「映画芸術」とほど遠い「低予算映画」「おバカ過ぎて笑える映画」にも熱狂してくれる。本当にマニアはありがたい。しかしこうしたある種ジャンクでもあり奇妙なコンテンツのファンが、将来一流のコンテンツメーカーになって行くこともあるのだ。

私は小学生の頃から洋モノ映画・小説マニアだった。おそらく東京中心部生まれという環境がそれをさらに加速させたのかも知れない。神保町・浅草・有楽町が近かった。テレビでも午後になると各国映画の名作を上映していた。アマゾン・ツタヤがないがA級からC級まで何でも見れた・読めた。読者には偉そうに聞こえるかも知れないが、子供なりにこだわりがあり、同じ東宝特撮モノでも「怪獣モノ」より押川春浪作の「海底軍艦」を愛し、英国の「サンダーバード」は大好きだったが、アメリカの「スタートレック」は苦手だった。好きなものへのめり込み方が激しいのに、嫌いなもの(たとえばジョン・ウェインの西部劇)には目もくれなかった。
わたしも立派なオタクだった訳だが、私の家はお金持ちではなかったので関連グッズやパンフレットを買う訳にいかなかった。ただ山ほど見た・読んだ。それが長じてオタクのまま、テレビ局に入り、番組を作るわけだが、作る上において、この私のこだわりと言うのか「オタク性」と言うのは、非常に役に立ったとは言え、邪魔になったとは言えないと思うのだ。細部にこだわりぬく「オタク性」、見えない所にも手を抜かない「オタク性」はコンテンツのクオリティとオリジナリティを増すことがあると思うのだ。

「オタク」という言葉の定義には正確には大塚英志さん等論客の解説を待たなければならない、「おたく」「オタク」「otaku」と表記の違いで意味も異なる。案外深い世界であることがわかるし、対象が映画とゲームでは対極的になる。

そしてオタクでは私と比較にならないが、極論、スタジオ・ジブリの宮崎駿さんは究極の「オタクの大王」だと思うのだ。クリエーターであるにはある種の「強烈なオタク性」が必要だという私の仮説はある意味、通用すると思うのだが、どうだろう。(ちなみに高畑勲さんも「オタクの巨人」だと思う。)

昨年の6月、私は文藝春秋社から「ヒット番組に必要なことはすべて映画に学んだ」という本を版元やジブリ・鈴木敏夫さんのご厚意で上梓させて頂いた。まさに私の映画マニア・オタクぶりを刻んだ本である。ただ執筆するときに留意したのは、テレビ・映画・アニメ等の制作者・愛好者・視聴者にも面白く思える「エンターテイメントのツボ」を私の仮説も含めて書き込もうとした事だ。「どうしてこれが笑えるのか」「どうして悲しいのか」「どうして勇気をあたえるのか」を理屈っぽく説明させて頂いた。

実は発売前、こんなことがあった。
原稿のゲラ刷りを出版前に弊社を引退していた「あるテレビの巨匠」に見せた。
食堂で大先輩がじっと凄い早さでゲラを読む。
この方は、「テレビ屋が見るべき映画100本」の素晴らしいリストを社員に配っていた。いつも「テレビ局に入って来るのにあの映画すら見ていない社員がいる。」と嘆いていた。いつも「古い映画には限りないヒントがある」と言っていた。だから一度読んで頂きたかった。
読み終わったのか、やがて目をあげて大先輩は大声でこう言う。

「吉川!これは映画オタクの本じゃないか!!」
・・・・・

しばし沈黙。私が口ごもっていると、「まあ飯でも食おう」といってハンバーグライスをおごってくれた。私の本の話は一言もない。「じゃあ」と言って帰って行く。
後ろ姿を眺めながら「先輩。ひょっとしてアナタも立派なオタクだったのではないでしょうか。オタクってオタクの事をなかなか認めたがりませんからね・・・。」等と思った。まして巨匠になればなるほど。

・・・・そして、たぶんスタジオ・ジブリの宮崎駿さんに偶然にも直接
「失礼ながら・・・。宮崎監督もある種オタク性をお持ちですよね」などと言ってしまったらどうだろう?きっと監督にモノ凄い早口で反論されると思うのですが。
でも、ある種、クリエーターには粘着性のあるオタク性が必要でなのではないでしょうか?・・・この仮説間違っているでしょうか?(了)

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