記事

アメリカ主導の国際秩序を維持する「希望の同盟」を訴えた安倍演説 安倍首相演説 識者の目(3) - 小谷哲男

2015年4月29日、安倍首相は日本国総理大臣として54年ぶりに米国議会の壇上に立ち、演説を行った。54年前の池田勇人首相、58年前の祖父・岸信介首相などに続き史上4人目。上下両院合同会議として米国国会議員が一堂に会した場においては、史上初だった。
戦後70年であることも手伝い、演説前には、慰安婦問題に対する謝罪は入れるのかといった「歴史認識」に関する表現ばかりに注目が集まっていた。
しかし、当の安倍首相の口からは「強い日本への改革」、「戦後国際平和を米国と築いた自負と維持への決意」、「女性の人権が侵されない世の中の実現」、「積極的平和主義」、「日米同盟の堅牢さ」など、未来に向けた強い意志が伝わる文言が発せられ続けた。
演説の表面的な文言からだけでは読み取れない安倍首相が発信したかったメッセージとは果たして何だったのか。そのメッセージを米国政府、国会議員、メディア、民衆はどう受けとったのか。日本はこれからどのように振る舞っていくべきか。3人の識者に縦横無尽に論じてもらった。

 「昨日の敵は今日のトモダチ」─安倍晋三首相が米国議会上下両院合同会議での演説で米国人に送ったメッセージを一言で表すなら、こうなるであろう。

 日米は、太平洋戦争で凄惨な戦いを経験し、双方に数多くの犠牲者を出した。この演説で、安倍首相は戦争で失われた米国人の魂に「深い悔悟」の哀悼を捧げた。

 そして、硫黄島の戦いに従事したローレンス・スノーデン元海兵隊中将と、硫黄島守備隊司令官・栗林忠道大将の孫である新藤義孝国会議員の握手という「歴史の奇跡」を実現させたが、この瞬間とりわけ大きなスタンディング・オベーションがわき起こった。

 日米の和解に謝罪は必要ない。ただ、威厳を持って悲劇の歴史を共有するだけである。日米の和解を体現した安倍演説は、米国の議員に大変好意的に受け止められた。共和党の重鎮であるマケイン上院議員は、「日米の歴史の共有による和解を知らしめる歴史的な演説だった」と評価した。ベイナー下院議長も「演説は日米同盟の誇り高く歴史的な転機となった」と述べている。

 また、安倍首相は演説で先の大戦に対する「痛切な反省」に言及し、これまでの首相と同じくアジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけないと述べた。これは「村山談話」も継承することを意味している。その上で、前週にバンドン会議で行った演説でも強調したように、今後もアジアの平和と発展、繁栄のため、力を惜しまないことを誓った。

靖国神社参拝の動揺を払拭

 2013年末、安倍首相の靖国神社参拝後に米国政府は「失望」という声明を出した。この声明の発出を主導した上院議長でもあるバイデン副大統領は、安倍演説を聞いて「アジア諸国に共感を示したことに最も好感を持った」と述べた。靖国神社参拝で一時動揺した在米の日米関係専門家も、大多数が今回の演説を高く評価している。

 安倍演説は日米の和解や過去への反省のみを強調したわけではない。むしろ、日米が、戦後の世界で自由と民主主義を守るために共に歩んできたことがその主題である。

 戦後70年を経て米国が主導してきた国際システムは、現在経済面でも安全保障面でも大きな挑戦を受けている。挑戦を突きつけているのは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やアジア新安全保障観を提唱する中国である。この挑戦に立ち向かい、自由で公正、かつ開放的な地域秩序を維持するためには、日米とも国内で厳しい改革が必要となる。

 そのような中で、安倍演説は日米同盟を「希望の同盟」と位置づけた。日本はかつて国際秩序に挑戦したが、戦後は米国と共に秩序を維持し、今後はこの秩序をさらに発展させて世界に希望を与え続けよう─日本人の代表である首相が、米国人を代表する議員たちにこのように直接訴えかけた意義は限りなく大きい。

 日米はTPPを通じてアジアの経済秩序を改善し、米国のアジアリバランス政策と日本の積極的平和主義の相乗効果によって、地域の平和と繁栄に貢献しなくてはならないからである。

 一方、以上のような安倍演説のメッセージを理解することなく、中国や韓国に向けて謝罪をしなかったという的外れな批判が、中国や韓国、そして米国と日本の一部にも広がっている。そもそも、日本の首相が米国の議会で行う演説で、第三国に向けた謝罪を求めること自体が非常識である。しかも、安倍首相は村山談話も河野談話も引き継ぐことを何度も表明している。

偏狭なナショナリズムで歴史をもてあそぶのは危険

 歴史認識問題が繰り返される根本的な要因は、中韓だけでなく日本の一部にも偏狭なナショナリズムから歴史を政治的に利用する勢力がいることである。われわれは歴史の前に謙虚でなくてはならない。8月に予定される安倍首相の戦後70年に関する談話では、歴史をもてあそぶ危険への警鐘を自戒も込めて含めてもらいたい。

あわせて読みたい

「日米首脳会談」の記事一覧へ

トピックス

議論福島第一原発処理水の海洋放出は許容できるリスクか?

ランキング

  1. 1

    橋下徹氏 毎日新聞は訂正すべき

    橋下徹

  2. 2

    都構想リーク記事に陰謀の匂い

    青山まさゆき

  3. 3

    NHK「しれっと」報道訂正に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  4. 4

    精子提供を年間100回 男性の葛藤

    ABEMA TIMES

  5. 5

    杉田議員が差別発言繰り返す背景

    文春オンライン

  6. 6

    JALの旅行前検査 医師が「ムダ」

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    菅首相の社会像「腹立たしい」

    畠山和也

  8. 8

    田原氏「菅首相は地雷を踏んだ」

    田原総一朗

  9. 9

    日立金属が3200人の人員削減へ

    ロイター

  10. 10

    鬼滅旋風で頭抱える映画配給会社

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。