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インド洋へも展開する中国の原潜 - 岡崎研究所

4月12日付のDiplomat誌で、インドのObserver Research財団の上席研究員であるゴーシュが、先頃、アデン沖の海賊対処の中国部隊に原潜が配備されたことを紹介し、これは海賊対処というよりも、むしろ将来のインド洋海域への展開に向けた動きである、と警告しています。

 すなわち、中国がアデン湾沖の海賊対処部隊の一部として原潜を配備したことは、インド海軍に強い警戒感を与えた。これは極めて大きな戦略的な意味合いを持つ動きである。

 潜水艦は海賊対策には適さない。速度の遅い潜水艦では海賊の高速で動く小舟を追跡できないし、魚雷で攻撃できるものでもなく、潜水艦は海賊対策には不必要なものだ。更に、海賊行為は減少し、関係国はプレゼンスを縮小しているのに対し、中国は、逆に増強している。

 2014年12月13日から2015年2月14日までの中国原潜の配備の意図については、種々の疑問がある。インド海軍は、中国がインドの西部海域で水路調査を行っていた可能性があると言う。

 中国の意図については次のようなことが考えうる。

 (1)中国が、海賊対処を隠れ蓑に使い、艦船をインドの裏庭などの遠い水域で長期にわたって作戦行動させていることはよく知られている。更に、日本の海上自衛隊とインド海軍との協力を通じて日、印の能力を評価することができる。

 (2)今回の原潜配備は特にインドに対し戦略的メッセージを送った。中国海軍は7カ月という長期にわたって遠方海域で行動できる投射能力を持ってきている。

 (3)従来型原潜の行動は沿岸部に限られたが、技術進化したシャン級やジン級原潜は、技術水準の高いもので、今回の配備は、外洋海軍としての展開能力などを持っていることを再確認させるものとなった。

 (4)中国は、インド洋での頻繁な行動を通じて当該水域の状況を把握することによって、今後の潜水艦のインド洋配備を容易にすることができる。

 (5)他国が海賊対処派遣部隊を縮小しようとする中で、中国が部隊を維持、増強する背景には、将来の展開に備えて、艦船、潜水艦、要員の習熟を図っていることがある。将来、中国の潜水艦がベンガル湾やアラビア海、あるいはインド沖のチョーク・ポイントでインド海軍を待ち伏せし敵対行動をとるといったことは考えられないことではない。

 インド洋で行動する海軍力を持ってきた中国は、今やインドの海洋隣国となった。インドはこの潜在的な脅威を無視してはならない、と警告しています。

出典:P. K. Ghosh ‘Chinese Nuclear Subs in the Indian Ocean’ (Diplomat, April 12, 2015)
http://thediplomat.com/2015/04/chinese-nuclear-subs-in-the-indian-ocean/

* * *

 この事例は、増強する中国の海軍力の行動範囲が拡大していることを示しています。中国は、潜水艦や対潜水艦能力の向上を図っていると言われます。冷戦時代には米ソの間で潜水艦を巡って激しい競争と対立が続きました。潜水艦は、残存性の高い、重要な戦力です。米海軍のムロイ中将は、2月25日の米下院軍事委員会で証言し、中国海軍の潜水艦の数が米軍を上回ったとの見方を示したと言います。

 中国から見れば石油輸送ルートの安全確保ということもあるのでしょうが、中国原潜のアデン沖への配備はインドに強い危機感を引き起こしているようです。ちなみに、著者のゴーシュはインド海軍の退役軍人です。インドと中国は海洋隣国となったというゴーシュの言葉が印象的です。中国潜水艦の増強と活動の拡大は、日本を含むアジア太平洋にも直接関係する重要事項で、日米印豪等の協力が求められる所以です。

 この事例で更に注目すべきことは、短期的配備ではありますが、アデン沖の海賊対処部隊の一部として組み込むことによって、原潜の遠方展開を行っていることです。中国は、PKO参加などを通じて、軍事力の遠方展開について習熟を積み重ねています。国連安保理常任理事国のPKO派遣が歓迎されるようになったのは、冷戦終了後のことですが、今年の2月末現在、中国は2370名を派遣しています。因みに日本は272名です。中国が大いなる自信を持ち、「大国外交」を強く進めようとしていることは明白です。その際、増強を続ける中国の軍事力について、中国側は、それは中国の防衛だけではなく、PKOや海賊対処への参加などを通じて世界の平和に貢献し、世界の期待に応えるものでもある旨述べています。しかし、専門家が兵力の内容、武器の種類を見てみますと、上記ゴーシュが指摘するように、やはり勢力拡大、海洋進出の要素が強いようです。

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