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東芝不適切会計事件への雑感(その2)-ガバナンス・コードとの関連で

私が何度も読み返している本に伊丹敬之教授の「経営を見る眼」(2007年 東洋経済新報社)があります。伊丹先生のご著書は「日本型コーポレートガバナンス」「経営戦略の論理」など愛読しているものも多いのですが、とりわけ上記「経営を見る眼」は私のような経営の素人にもたいへんわかりやすく読める好著です。

ところで、同書84頁には「会計測定という写像」について「会計測定という写像の結果は、会計数値として独り歩きを始めることがある。利益が独り歩きを始めて、ROEが企業経営の行動に影響を与えるように、写像が実体を動かすことすらある。本来写像は実体を反映するだけのものであるはずなのに、写像を気にして人間が行動を変えてしまうのである。」と記されています。会計基準の適用に裁量の幅があるとすれば、やはり自社を一番きれいに写す方法を選択するのは当然ですが、あまり気にしすぎると「粉飾」リスクが生まれる、ということでしょうか。

また、同じく226頁には、人間の管理システムのむずかしさが語られています。管理システムの一環として、上司の(部下に対する)情報収集は大切ですが、「そのような管理のための上司による情報収集は、高次の経営判断のためであり、現場の実態を知る必要がある。・・・しかし、どのような目的で情報が収集されるにせよ、情報を集めれば、それに部下は反応してしまう。意図して集めている情報を焦点に行動を変えさせたいと思っていなくても、情報を集めればその情報をお化粧する方向で部下は反応することが多い。」とも述べられています。組織の管理システムは、上司がいかに部下の行動に影響を及ぼすかが大切だそうですが、不可避的に部下の「お化粧インセンティブ」にも影響を及ぼすことがあります。いずれもコンプライアンス経営にとって名言であり、実務上不正防止や不正発見に活かしたい内容です。

しかし、私的にたいへん尊敬する伊丹教授が、このたびの東芝社の社外取締役であり、とりわけ指名委員会等設置会社における監査委員会の委員である、という事実は、なんともショッキングです。ご承知の方も多いと思いますが、会社法上で認められている機関設計のうち、執行と監督の分離が最も進み、コーポレートガバナンスの理想型とみられているのが指名委員会等設置会社です。東芝社の場合、取締役5名(うち社外取締役3名)で構成される監査委員会が設置され、なんと監査委員会専属のスタッフも5名いらっしゃるとか。まさにスピード経営とモニタリングの充実を兼ね備えたガバナンスのお手本ではないかと思います。

そのような理想のガバナンス体制を具備した東芝において、かなり規模の大きな会計不正事件が発生(発覚)した、というのは、ガバナンス・コードの適用を間近に控えた証券市場にとってはかなりショックな出来事ではないでしょうか。今回の件は東芝社固有の事情によるものだと信じたいところですが、第三者委員会報告書の内容次第では、これだけのガバナンス体制を備えた東芝でも起きたのだから、これは東芝社だけの問題ではない深刻な課題と評価せざるをえないのかもしれません。

このたびのガバナンス改革は「攻めのガバナンス」の実現であり、会計不正の未然防止や早期発見を主たる目的とする「守りのガバナンス」の実現とはやや異なります。しかし適切なリスクテイクを図る前提として、機関投資家はリスク管理能力にも関心を向けているはずであり、そこに問題があれば資本コストは上がるはずです。やはり、ガバナンス評価は(これまでのような)組織の仕組みの問題にとどまらず、たとえば社外取締役はどのよう行動によって中長期の企業価値向上に役に立つのか、といった将来のストーリーの問題であり、またこの1年、どのように貢献したのか、という過去の業績評価の問題こそ重要な要素になるものと考えます。

もちろん、昨日のエントリーでも書いたように、どのような経緯で会計不正が発覚したのかはいまだ不明ですが、「攻め」に強い社外取締役さんは「守り」にも強い、というのが私の持論なので、このような工事進行基準の不適切適用に基づく会計不正の発見は、取締役会における報告や議論によって、その予兆は見出せたのではないかと考えています。後だしジャンケンによる想像ではなく、定例の取締役会での議題審議や報告において、なにか違和感のある話が出ていたのではないかと。もし、そのような違和感すら感じられないほどに巧妙な会計不正事件だったとなれば、社外役員の存在は企業不祥事の予防や発見には無力ということになってしまいます。適切なリスクテイクのために社外役員が活用される時代だからこそ、どうすれば守りのガバナンスも機能するようになるのか、そのあたりも今後のガバナンス・コードの実施の中で検討されるべき課題だと思います。

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