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シリコンバレーから学ぶべきは新産業の創造だけでなく、生み出した技術・産業を守り抜くことも

日本では衰退産業と思われがちな半導体メモリ、実は右肩上がりの成長産業です。

2015年2月の世界半導体市場は前年比6.7%増

2014年の世界半導体売上高ランキング

「2月の売上としては過去最高。売上が前年実績を上回るのは22ヶ月連続」だそうです。

その中で特に成長しているのはメモリ産業。メモリ専業のマイクロン(アメリカ)、ハイニックス(韓国)が前年比37%、27%の成長。世界のメモリ産業全体で史上最高の売り上げだそうです。

半導体メモリは日本では「終わった産業」扱いですが、日本だけがずっこけている。だから日本では衰退産業に見えているだけ。

1980年代にはメモリ産業で世界トップになった私達は何をやっているのか・・・

新聞などで語られる、「識者」の「定評」など当てにならないのです。

再び成長しているマイクロンはメモリ発祥の地、アメリカの生き残り。メモリカードやSSDのサンディスクは、様々なメモリを発明したインテルのスピンオフで生まれたシリコンバレーの企業。

半導体メモリはDRAMもEPROM(不揮発性メモリ)も生まれたのはアメリカです。

その後、1980年代に日本企業が台頭し、多くのアメリカ企業がメモリ産業から撤退に追い込まれました。そして、1990年代に三星電子などの韓国企業が日本企業を追い越していきました。

その結果、2000年代に日本の電機メーカーの多くはメモリから撤退に追い込まれ、今では東芝しか残っていません。

メモリ発祥の地、アメリカ企業は本当にしぶとく、不調時には政治的手段、ロビー活動(アンチトラスト、ダンピングなど)を使ってでも生き残ってきた。

1980、1990年代の日米貿易摩擦はアメリカの半導体メモリ産業の生き残るための戦いでもありました。

TPP交渉では全く半導体産業が取り上げられませんので、隔世の感があります。

メモリの応用先、市場は目まぐるしく変わり、メインフレームからミニコン、ワークステーション、デスクトップパソコン、ノートパソコン、スマートフォンなどの携帯端末へと変わってきました。

そして、これからはクラウドです。ビッグデータというように、人工知能などによってデータをいかに使いこなすかが、エレクトロニクスやIT産業のみならず、多くの産業にとって重要になりました。

莫大なデータを記憶するにはメモリが必要ですので、またメモリの時代の到来です。

市場だけでなく、アジアの企業の台頭など、競争環境は目まぐるしく変わっています。

月並みですが、個人だけでなく産業、企業にとっても悪い時もあるけれども、我慢していると良い時も巡ってくる。

大切なのは、悪い時に何とか(政治的手段などを使ってでも)生き残ることなのでしょうね。産業を持ち続けるのは、綺麗ごとではないのです。

歴史に「もし」は禁句ですが「もしエルピーメモリが生き残っていたら」と思うと本当に悔しい。

エルピーダメモリは2012年に倒産し、アメリカのマイクロンに買収されました。今ではマイクロンの急成長の原動力になっている。

恥ずかしながら、エルピーダメモリが倒産した2012年当時、このようにすぐに(3年後に)メモリ市場がV字回復するとは、私も想像できませんでした。

まさに、三年寝太郎、ですね。

メモリを象徴するイベントとして、5/17-20にカリフォルニアのモントレーでIEEE International Memory Workshop(IMW)という、半導体メモリの学会が開催されます。

学会は産業・社会を映す鏡です。IMWも一時は論文数も学会参加者も減ったようですが、こちらもV字回復のようです。

IMWは私もプログラム委員として運営に携わっていますが、運営のコアになっているのはインテル、マイクロン、TI、サンディスクといった、昔ながらのアメリカ企業・大学の人たちです。

アメリカ企業はたとえ事業が不調になっても、コミュニティは大切に持ち続けているのです。そもそも、モントレーで学会が開催されること自体が示唆的です。

モントレーはシリコンバレーから1時間ちょっとで行ける、全米屈指のリゾート地。すぐ近くには、「一生に一度はプレーをしてみたい」とも言われる、名門ペブルビーチゴルフコースもあります。

IMWには学術的な発表や意見交換だけでなく、シリコンバレーのエンジニアが風光明媚な場所でネットワーキングをするという、もう一つの目的があります。

IMWの前身のNVSMWという学会が始まったのが1976年ですから、アメリカ企業は40年もの間、好調時も不調時も半導体メモリのコミュニティを維持し続けてきたわけです。

もっとも、時代に合わせて学会も変化わってきていいます。アジア企業の台頭も見過ごせませんので開催地は、モントレー(アメリカ)→アジア→モントレー→ヨーロッパ→モントレー→・・・と、カリフォルニアだけでなく世界を巡回するようになりました。

技術もコミュニティも作るのは膨大な蓄積が必要ですが、失うのは一瞬。

シリコンバレーは新興企業が注目されますが、自分が作った産業やコミュニティを不調時もしぶとく継続し、チャンスが再び巡ってくるまで待つ、というのもシリコンバレーなのだと思います。

日本はともすると、政策やメディアは流行を追い求め、あっちこっちと変わっていきがち。

例えば、最近は「AIが世界を変える!」というような言葉が政策やメディアに頻繁に登場します。

AIが重要であることは間違いないでしょうか、AIのサービスが進化し実用レベルに到達したのは、AIのアルゴリズムを動かすLSIが爆発的に進化したから。いわゆるムーアの法則の恩恵です。

ともすると、政策やメディアはAIのアルゴリズムばかり重視して、肝心な部分を見落としていないか、と思わされます。

LSIの進化はクラウドの向こう側に隠され、ユーザーから見えません。

グーグルもアマゾンもアップルも、データセンタの中身、肝心な部分は絶対に言わないですからね。

こうしたアメリカのITサービス企業の日本法人の方に、「米国のデータセンタのことを教えてほしい」とお願いしたところ、「それだけは秘中の秘で絶対に話せない。日本法人の我々も知らされていない。」と言われました。

これからも技術の応用先は変わり続けるでしょうが、根本となる技術はさほど変わらないでしょう。

流行に流されず、しぶとく生き残ることも、シリコンバレーから学ぶべきではないでしょうか。

竹内研は日本におけるメモリ研究では最後に残った、残党のようなものでしょうか。

「いつまでそんな研究やってるんだ?」

と日本ではオワコン扱いされたこともありますが、逆境の時も続けてきて良かったと思います。

今はビッグデータ、IoT、CPSブームのおかげで再び私たちが研究するメモリ・ストレージが注目されつつありますが、良い時も悪い時も変わらず、粛々と研究と教育を続けていきたいと思います。

日本では周囲が撤退した結果、結果的に日本代表のようになってしまったIMWで3件の論文を発表をしてきます。

1件目の発表では世界で初めて機械学習をメモリに適用することで、メモリの寿命(書き換え回数)を13倍に延ばすことに成功しました。こちらはプレスリリースも行います。

・Tomoko Ogura Iwasaki, Sheyang Ning, Hiroki Yamazawa, Chao Sun, Shuhei Tanakamaru and Ken Takeuchi,“Machine Learning Prediction for 13× Endurance Enhancement in ReRAM SSD System”

・Chihiro Matsui, Asuka Arakawa, Chao Sun, Tomoko Ogura Iwasaki and Ken Takeuchi,“3x Faster Speed Solid-State Drive with a Write Order based Garbage Collection Scheme”

・Shun Okamoto, Chao Sun, Shogo Hachiya, Tomoaki Yamada, Yusuke Saito, Tomoko Ogura Iwasaki and Ken Takeuchi,“Application Driven SCM&NAND Flash Hybrid SSD Design for Data-Centric Computing System”

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